不安や困りごととの関わり合いをつくる、表現や場の力|こんなだった、なんだかんだ12 #2

2025年11月に12回目の開催を終えた「なんだかんだ」。多くの出会いが生まれた時間となりましたが、それは画期的で魅力的なアイデアに取り組まれる演者のみなさんの存在があってこそ。気づくことや学ぶことが多く、そうしたアイデアはいかにして生まれ、育まれていったのか——その背景に、何か大きなヒントがあるような気がします。
そこで、なんだかんだクリエイティブディレクターの池田さんとともに、今回初めて参加いただいた就労継続支援B型BaseCampさんを訪問。日頃の活動の場を体験させていただくとともに、これまでの歩みについてお話を伺いました。

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●BaseCampの活動の場へ

BaseCampの拠点は、東京メトロ千川駅から徒歩一分。インターホンを鳴らすと、メンバーのみなさんが総出で「こんにちは〜!」「どうぞ〜」と迎えてくれました。久しぶりに親戚の集まりに参加したような歓迎ぶりで、嬉しい気持ちになります。

中に入ると、まずは円になって自己紹介へ。今日の調子や最近嬉しかったことなどを共有していきます。場がほぐれてきた頃、「次は一緒に踊りましょう!」と声がかかり、一人の男性メンバーが前に出て「僕の動きを見て真似してください」とリード。戸惑う間もなくダンスがスタートし、みなさんのキレのある踊りに誘われるように身体を動かすうちに、自然と心もほぐれていきました。

すっかりBaseCampの空気に馴染んだところで、取り組みを紹介いただきました。メンバーの経験や困りごとを演劇やラップにする取り組みや、長期入院している方への退院支援、出張イベントやグッズ展開など、幅広く接点を持てるような活動を積極的に行っています。

紹介の最後には、「せっかくなので」とラップを披露いただきました。スピーカーからビートが大音量で流れ、メンバーの方々が身体を揺らします。詞は、メンバーの苦労や経験をもとに、BaseCampにたどり着くまでのことが綴られており、そこには明確な答えがあるわけではありません。けれど、ダイレクトな言葉が心地よいリズムとともに飛び込んできて、見ている側の心にじんわりと刻まれていくのでした。

これらのおもてなしを受けて、池田さんはこう振り返ります。

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BaseCampさんを初めて訪ねて、おもてなしとして披露してくださったプログラムの中で、特に僕が注目したのは「ラップ」でした。メンバーの方々が、自らの不安や切実な悩みをビートに乗せてラップし、仲間たちも「よ~♪よ~♪」と盛り上げる。その内容はあまりにもリアルで、少し戸惑いながらも、陽気に歌うメンバーの姿を焼き付けるように見ました。

しばらく考えていると、これは落語に通じるものがあると気がつきました。立川談春さんの著書『赤めだか』の中で、師匠・立川談志が「落語っていうのは、業の肯定なんだよ!」と語る一節があります。つまり落語とは、何かから逃げ出したり失敗してきた人間の物語であり、それをそのまま肯定するものなんだ、と。
BaseCampさんのラップも、自分の欠点や悩みを他者と共有することで「ま、いっか!」と心を軽くさせてくれる、やさしい時間でした。
「これはすごいなぁ~!大発見だよ」と興奮しつつ、いろんな問いを残してくれる、すばらしい体験でした。

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この画期的な取り組みは、どのようにして生まれ、BaseCampの日々を支えているのでしょうか。スタッフである中島裕子さんと木村純一さんにお話を伺いました。

●誰かの「困りごと」を、表現を通じて分かち合う

木村純一さん(左)と中島裕子さん(右)

池田 たっぷりおもてなしいただき、ありがとうございます。本当に感動しました。

中島 いえいえ、お越しいただきありがとうございます。

池田 何年も前からBaseCampさんの活動を拝見していますが、いつも「なんでこんなにシュールで知的なユーモアのある形にできるんだろう」と驚かされます。メンバーが抱える重たいテーマをラップや即興劇にして、安易な答えは出さず「問い」だけ投げかけることで、観客との関わり合いが生まれているような気がします。
そもそも、なぜ演劇をやろうと思ったんですか?

中島 最初から演劇をやろうと狙っていたわけではないんです。元々は、一人ひとりの困りごとをみんなで聞く場を大切にしていました。でも、言葉だけのやり取りだと、途中で話を遮られたり一方的にアドバイスされてしまったりと、難しさを感じることも多くて。そんな時にふと、「その話をみんなで演じてみたらいいんじゃない?」と思いついたんです。

池田 さらっとお話しされてますけど、そこから演劇にしようなんて発想にはなかなかなりませんからね(笑)

中島 (笑) ただ、私も含め誰も演劇経験がなかったので、最初は「演じる」というよりは、シチュエーションを真似してみる程度の感覚でしたね。

池田 「話を聞く」だけでは寄り添いきれなかったことが、「演じる」ことでお互いを理解し合えるようになったんですか?

中島 いやあ…実際はそうでもなくて(笑) 演劇は「退屈せずに話に関わるためのアプローチ」でもあるんです。そのため極端に言えば、話の内容をよく理解できていなくても、一緒に演劇をして楽しめるだけでもとても意味があると思っています。何度も聞いた話でも、劇にするとなれば、役の立場を考えたり演出を加えたりと、楽しみながらその話に関わりやすくなるんです。

木村 話をした本人役や登場人物役だけでなく、「ゆで卵役」「パソコン役」といった人物以外のものや、目に見えない「不安の声役」「圧迫感役」をつくったりもしますよね。

中島 配役は自由で、話を受けて自分で役を考えてくれることもあります。「楽しさ」を起点にすることで、メンバーが自然と他者の話に関わっていけるようになったことは、演劇の大きな力だと思います。もともとは誰か一人の話だったとしても、そこからみんなで関わることで、また別のものが立ち上がってくる感覚もあります。

池田 以前拝見したステージは、しっかり稽古されていて「作品」として高い完成度でした。日々の活動から、外で披露するまでにはどう発展していったんですか?

中島 最初はちょっとした寸劇でしたが、続けていくうちに「せっかくだからイベントで見てもらおう」と、5〜10分程度の短いものをつくるようになりました。当初は「演劇」や「作品」と言うことすら照れくさいと感じていましたが、今は堂々と作品タイトルをつけて、メンバーも自信を持って演じています。

木村 日々の活動と作品づくりは地続きになっていますね。毎朝のミーティングで困りごとをお互いに話し、その場ですぐ劇にしてみるということを普段からやっているんです。

池田 日々の活動を種に、作品として育てているんですね。ただ、そうした発想の転換って、そうできることではないと思うんです。なにより、「当事者自らが自身の困りごとを演じて見せる」という世界観をつくり上げたことが本当にすごい。何気ない思いつきがはじまりだったとしても、確固たる哲学を感じます。

中島 きっかけは思いつきでしたが、私は元々「人が集まらないとできないこと」に関心があって。メンバーがバラバラなまま、それでも一緒に何かできないかとずっと考えていたんです。オープンダイアローグや当事者研究などを参考にしながら、自分たちの場に合う形をずっと試行錯誤してきました。その中で、この「演劇」にたどり着いたんです。

池田 BaseCampさんの演劇には、それぞれの個性がありつつ、一つの集団としての世界観を感じていて。お互いを尊重していることで成り立っているところに感動するんです。

中島 「みんなでつくっていく場」「お互いを大事にできたら」ということは、毎日口にしてますね(笑)

木村 今日のように見学の方が来られた時も、お客さんも取りこぼさずに、みんなで場をつくることを心がけています。一人ひとりがいるからこそこの場が成り立つ、という感覚は常に意識していますね。

池田 確かに、BaseCampさんの説明の時に、僕らには応援用のうちわを渡してくれて、一緒に場に参加している感覚がありました。それと、みなさんが「これは自分の仕事だ」と手を抜かずに取り組んでいる姿が、本当に素晴らしかったです。

●ちょっとだけ無理ができる、安心感のある場

池田 ラップも結構リアルな内容で、正直どう受け止めたらいいか戸惑ってしまったんですが、歌っている本人はすごく生き生きとしているんですよね。その姿を見て、こちら側の偏見や先入観を取り払って、学び直さないといけないと思わされました。

中島 まだ手探りの活動なので、そう言ってもらえると励みになります。

池田 BaseCampさんの演劇は、いわゆる芸術としての演劇とは異なり、「その場にいる人との出会いをどう広げるか」を考えているものだと思うんです。僕らが取り組む「なんだかんだ」も、路上に畳を敷いていろいろな方に集まってもらい、領域を取り払ったところで突然演奏や劇がはじまったりして、知らない世界に出会える場をつくりたいんです。
そういった時に大事なのが、今日最初にやってくれたダンスで。初対面同士で踊るのって恥ずかしいけど、みなさんが受け入れるように踊ってくれたことで、距離がぐっと縮まった感じがしたんですよね。

木村 今日は特にメンバーも張り切っていたと思います(笑)
「どうすればみんなが気持ちよく過ごせるか」というシステムや工夫については、日々自分たちでもしょっちゅう話し合っていて、ダンスにしても演劇にしても、日によって雰囲気や反応が違うこともあるので、少しずつ工夫を重ねてきたことがこう受け入れてもらえているのかもしれません。

池田 「なぜやるか」ではなく「どうやるか」をものすごく考えていますね。困りごとの原因を探るのではなく、どう乗り越えていくかをみんなで考える場になっているというか。
ちなみに、ラップや演劇ってハードルがあると思うんですが、抵抗があるメンバーはいないんですか?

中島 最初はハードルを感じる人もいますが、やってみると「意外とできた」と楽しんでくれることが多いですね。
これは言葉を選びますが、BaseCampでは「ちょっとだけ無理してみる」瞬間があってもいいと思っているんです。無理やり頑張らせたいわけではなくて、不安だけどそのまま飛び込んでみる、というか。

池田 それを中島さんは「いいよ、いいよ」という言葉でまろやかに包んでいますよね。今日訪れてみて、その声かけが「失敗しても大丈夫な場なんだ」という安心感をつくっているんだなと思いました。

●領域を超えてひろがる未来

池田 この先やってみたいことはありますか?

中島 やっぱりさまざまな人が関わることで活動が広がっていくので、新しいメンバーが入ってきてくれたら嬉しいです。あとは、精神科病院に入院中の方との関わりももっと深めていきたいです。入院中の方とも一緒に演劇やラップができたらいいですね。

池田 積極的に活動を広げつつ、実直に積み重ねているところも本当に素晴らしいです。今後の展開で考えていることはありますか?

中島 演劇やラップは「これは発見だ!」と思って取り組んできたんですが、最近はすっかり日常にもなっていて。かと言って、次はどんどん上達を目指すぞ!というのも違うし…これからどうしましょう。

池田 上手くなろうとすると自由がなくなりますからね。もっといろんな人を巻き込んで、異なる場所でやっていくのもいいかもしれません。福祉を超えたり、演劇を超えたり、部屋の外に出たり…何かしらの「領域を超える」ということにヒントがありそうです。

中島 いろんな領域とコラボレーションするのはいいですね。実際にお声がけいただくこともありますし、そこから得られる刺激もまだまだありそうです。

池田 最近ビジネスの文脈で「ケア」が語られることも増えてきて、いよいよメンタルヘルスの時代になってきたなと感じていて。AIが普及する社会だからこそ、身体性を伴う表現や場づくりは新しいカルチャーになっていくと思うんです。
その中で、BaseCampさんの演劇のような画期的なアイデアはとてもヒントになります。ケアの本質とも言える「ちょっと楽にいられる」「大丈夫だと思える」表現や場にずっと取り組まれていて、もっと真似されるべきことだけれど、それをどうやってつくっているのかがみんなわからない。なので、もっと広めていくことをお手伝いしたいなと、改めて思いました。

中島 そう言ってもらえるのは本当に心強いです。これからもぜひよろしくお願いします!

池田 まずはめちゃくちゃかっこいいプロモーションムービーをつくりましょう!

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不安や悩みをすぐに解決することは難しくても、誰かと一緒に受け止めることで、ほぐれるものがある。
BaseCampさんが取り組むラップや演劇には、無理に答えを出そうとするのではなく、「いまを少しでも楽に、安心していられる状況をいかにつくるか」という、切実で温かな眼差しがありました。

こうした「ちょっと楽にいられる場」をつくることは、そう簡単なことではありません。けれど、演劇やラップといった「遊び」のような表現が、時として扉をひらく鍵になる。そんな可能性をBaseCampさんは教えてくれました。
なんだかんだもまた、さまざまな取り組みに学びながら、なんだかんだなりの大丈夫な場をつくっていきたいと思います。

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI)

不安や困りごととの関わり合いをつくる、表現や場の力|こんなだった、なんだかんだ12 #1

2023年にはじまり、あっという間に12回目を迎えた「なんだかんだ」。大小さまざまな規模で展開し、路上を大々的に使って開催するのは4回目です。着実に回を重ねつつも、ひとつの型に収まるのではなく都度やり方を探りながら、多様な発見にあふれる場をつくってきました。
▶︎これまでのなんだかんだhttps://opkd.jp/nandakanda/

境界なく演目たちが繰り広げられる畳の上は、私たちをあたらしい世界や体験に出会わせ、誘ってくれるゆるやかな舞台です。演者も参加者も渾然一体となり、どこか居心地がよく、安心できる時間や場をともにする。そんな光景を生み出すことが、なんだかんだを通してずっと取り組んできていることです。
12回目となるなんだかんだも、たくさんの方に協力いただき、目まぐるしくあらゆる光景が生まれていきました。そんな濃密な一日の様子をお届けします。

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なんだかんだ12のスローガンは、「なんだかんだと、よくがんばって生きてきた」。
クリエイティブディレクターの池田晶紀さんは、改めて「なんだかんだ」という場を捉え直し、この場に込める想いをこう綴りました。

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「なんだかんだ」は、障害のある人、福祉施設の方、アーティスト、役者、ミュージシャン、医師、この街を愛する人、こどもや親など、さまざまな立場の人たちが出会い、生き方や表現をたがいに分かち合いながら、「たのしむ意欲」を交換する祭典(場)です。ここで生まれるアイデアや関係性を、「社会の中でどう活用できるか?」を探る、創造と実験の場として位置づけています。
私たちはこの場を、“あたらしい縁日”と呼んでいます。この縁日には、「こんなやり方があったんだ」や「なんだかちょっと楽になった」といった声が、自然と集まってきます。見方や考え方を、少しだけやわらかく変換するようなアイデアが、ここにあります。縁日では、会場となる路上や建物の中に、合計300畳の畳が敷かれています。普段、畳の空間は「内と外のあいだ」を感じさせるものですが、靴を脱いで路上の畳に一歩ふみこめば、そうした境目の感じ方が違うかもしれません。路上の畳からは、ビルの隙間から見える空や、人と人がたのしそうに過ごす様子が広がっている時間が流れています。

出会ったことのない世界、出会ってみて初めて知る体験。体感する心地よさや、出会い方そのものが、この縁日の魅力です。じわじわと共感が生まれ、気づけば「ここ、なんか居心地いいな」と感じてもらえるような時間になったら、うれしいです。

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●演劇・配達・かるた。問いや勇気を与えてくれる、画期的なアイデアたち

たくましく、たのしく生きていくためのアイデアや工夫を分かち合う。そのアイデアを持ち寄るのはさまざまな立場や分野で活動される方々で、特に第一回目から障害のある方や福祉施設の方に多く参加いただいています。
日頃から楽しむことや気持ちをほぐすことを考え、向き合っているからこそ生まれるアイデアや表現はとても画期的で、自然と惹き込まれ、見ている私たちに問いや勇気を与えてくれました。

就労継続支援B型BaseCampによる、
即興お悩み相談パフォーマンス「べーきゃんくりにっく」。
会場の中からお悩みを聞いて、BaseCampのメンバーがその場で演劇に!
「やりたいことがたくさんあって寝る時間がない」という学生さんからの悩みには、
主人公の周囲をいろいろな欲求に扮したメンバーたちが次々に取り巻く劇に。
メンバーの巧みでユーモアなお芝居も相まって、思わずクスッとしてしまうその様子に
劇にすることで切実な悩みも少し軽くするような不思議な力が感じられました。
会場に突如現れた車いすの集団は、佐野夢果さん考案のワークショップ
車いす夢のデリバリー「記憶を届ける 〜宇宙編〜」。
車いすに乗って街へ繰り出し、なくした記憶を集めるというものです。
いざ街へ出ると、記憶をなくして困っている生き物があちこちに。
記憶を思い出す手助けをして、記憶のかけらを集めていきます。
話を聞いて困りごとを助けるたびに、通じ合えていく気がします。
車いすに乗ることと、困っている人を助けることをセットで体験し、
最後は社長から報酬をいただいて、達成感もひとしお。
世田谷の福祉事業所・ハーモニーによる幻聴妄想かるた。
メンバーが実際に体験したことを句と絵にしたかるたを競いながら、
ユニークな絵とメンバーから語られるエピソードを通して、
知らなかった幻聴や妄想の世界に触れていきます。
画材循環プロジェクト「巡り堂」のスペースでは、
なが〜〜〜〜い紙が敷かれ、思う存分画材を使って、思う存分描ける空間に。
廃棄されてしまう画材たちが巡り堂のメンバーの手によってピカピカに磨かれ、
またさまざまな人の手にわたって、その場を鮮やかにしていました。

●お馴染みとはじめましての演目が、混ざり合うように楽しさを生む

他にも畳を埋め尽くすほどさまざまな演目が大集合。お馴染みの演目はこの場をより安心感のあるものにし、はじめましての演目はこの場に新しい光景を生んでくれました。

建築家 藤本信行さんによる茶道教室「露天風炉」。
オープンな空間のせいか、お客さん側のリアクションもどこか開放的。
TOBICHI 東京による「おちつけ書道」もすっかりお馴染み。
書くことに向き合う時間って、実はとっても落ち着く。
元図工教員のひつじ先生のコーナーでは、
ハレパネにさまざまな材料を貼ってゆかいな生物をつくります。
色とりどりな素材にときめくままに、個性豊かな生き物たちが次々に爆誕。
はっとりこうへいさんの色を削るワークショップでは、
木片に好きな色を重ねて塗り、ヤスリで削ると
色の混ざり合いが浮かび上がってくるという新鮮な体験!
手芸用のモールで人形をつくる、共立女子大学 建築・デザイン学科 藤本ゼミの「HEART MEAT」
手軽な材料で簡単につくれるので、
災害避難時の不安やストレスも和らげてくれるというアイデアです。
つくりながら話したり、自然を気持ちを共有できる場になっているのも
この人形たちのかわいさのパワー。
能登半島地震をきっかけにつながった個人の集まり「Futo」のコーナーには
災害を機に廃棄される予定だった着物や古布をレスキューしたものが並びます。
さまざまな変化に向き合わざるを得ない中、変わらず残る美しさに、一層の輝きを感じます。
ひびのこづえさんと奥能登・珠洲の食堂をたのしく飾る「#珠洲をあむプロジェクト」
色とりどりのビニールテープを編むと、質感も相まってなんとも鮮やかかつ華やか!
茨城県日立市にある多機能型就労支援事業所ひまわりの「なんだかんだコーヒー屋さん」
はるばる来てくださったメンバーの方が丁寧に淹れるコーヒーは身に染みます。
お昼時にたくさんの人が集まる畳の上で突如行われたのは、
伊藤千枝子さんの歌とダンスのパフォーマンス。
体ひとつで表現し切る姿は会場全体を惹き込み、ほとばしるパワーはたくましい!
前回のなんだかんだで好評だったパン食い競走
パンを咥えるだけで盛り上がるって、あらためて考えると不思議な文化。
カクシンハンのロミオとジュリエットは、恒例ながら何度見ても名作。
青空ウィスキングは、人目を憚るよりも植物の包み込む力が上回ってみなさん安らぎに没頭。
篠崎芽美さんとダンススル会の子どもたちによるオリジナル作品「ダンススルゴミ」
ゴミをテーマに、子どもたちの鮮やかな感覚で捉えた景色をダンスにしたという
パフォーマンスは息を呑むほど圧巻!
今回はテラススクエアも会場となり、さまざまな演目が展開。
ミニトレインは見ているだけでもかわいい光景。
鉄作家・小沢敦志さんの鉄をぺちゃんこにするワークショップは、
子どもも大人も全員興味津々。
Mobilis Aquariumの「ちいさな東京湾水族館」では、
東京湾に暮らす生き物たちが神田にやってきてくれました。小さくても、水族館ってときめく。

すっかり日が暮れ、クライマックスの時間が近づくと、バンドセットと大きなキャンバス、大量の植物が路上に現れます。なんだかんだに縁のあるメンバーで構成された即興コミックバンドが組まれ、正則学園の花いけ男子部による花いけの生パフォーマンスが展開。そして、大きなキャンバスの前には女優の鈴木杏さんが登場し、ライブペインティングを披露!

これらの3つが同時に繰り広げられるセッションタイムに会場も目が離せず、さまざまなものが領域を越えて混ざり合う、なんだかんだらしい締めくくりとなりました。

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なんだかんだは年に数回の取り組みですが、ここに集まる演者のみなさんはそれぞれの場所で、日々活動を積み重ねています。披露してくださった画期的で魅力的なアイデアからは気づくことや学ぶことが多く、そうしたアイデアがいかにして生まれ、育まれていったのか、その背景にこそ大きなヒントがあるような気がします。

なんだかんだが、あらたな世界との出会いの場としてさらに発展できるよう、そのヒントをつかむべく、今回初参加いただいた方にお話を伺いました。

#2に続く

Photo: Masanori Ikeda(YUKAI), Mariko Hamano

いざという時の心に寄りそう防災のかたち|こんなだった、なんだかんだ11

「備えあれば憂いなし」と言いますが、災害という非常事態においては、どれほど備えがあっても、憂いを完全になくすことは難しいものです。だからこそ、憂いをなくすのではなく、安心や落ち着きをもたらす。そんな備えも必要かもしれません。

今年も9月1日の「防災の日」にあわせて開催したなんだかんだ。今回は、食や道具といった物理的な備えに加えて、災害時には「心の備え」も大切であることに目を向け、不安な気持ちをほぐす工夫やアイデアが集まりました。
さまざまな団体、作家、学生のみなさんと協力しながら、お互いの知恵やアイデアを持ち寄り、安心や心強さが広がっていく場となりました。

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会場はお馴染みの神田ポートビル。路上に畳を敷き、屋内外がゆるやかにつながる空間の中で、来場者は思い思いに立ち止まり、体験し、語り合いました。

●在宅避難時の強い味方!パッククッキング
共立女子大学 食物栄養学科 山田ゼミ

会場入口の調理コーナーでは、共立女子大・食物栄養学科の学生による「パッククッキング」を実演紹介。在宅避難時でも可能な調理方法のアイデアをレクチャーしてくれました。

この日つくられたのはシーフードカレー。使用するのはすべて常温保存が可能な食材で、調理器具は使わず、ビニール袋で材料を混ぜて湯煎するだけですが、あさりや鯖缶を使うことで、避難食のイメージを覆す贅沢な味わいに。

こうした制約の中でも、一工夫すればおいしい食事をつくれることは嬉しい発見です。
栄養が偏ると心の調子も乱れてしまうので、避難時だからこそしっかりした食事を摂るアイデアを備えておくことの大切さを実感しました。

●いざという時に寄り添い、役立つ大事な友達
子どものための防災グッズ わらべぇ

調理コーナーの隣には、ちゃぶ台の上に3色のぬいぐるみが並びます。これは、女子美術大学短期大学部プロダクト研究生の礒邊未彩さんが考案した、子どものための防災グッズ「わらべぇ」です。
普段は一緒に遊べるぬいぐるみですが、お腹を押すと暗い場所で安心できるライトになったり、頭部のポーチに防災グッズやお気に入りの小物を入れられたりと、非常時の機能性も兼ね備えています。
さらに腕に巻きつけることもでき、両手を自由にしたまま持ち歩けるのも心強いポイント。
なによりほんのり微笑むわらべぇの姿がとてもチャーミングで、心細い気持ちにやさしく寄り添ってくれる気がしました。

●避難生活の心をほぐす、HEART MEET
共立女子大学 建築・デザイン学科 藤本ゼミ

神田ポート内の畳や壁には、手のひらサイズの小さな人形たちがずらりと並びます。
これらはすべて、手芸用のモールでつくられたもの。ハサミやのりは使わず、モールを折り曲げてビーズなどを刺すだけで、なんとも愛くるしい人形をつくることができます。

つくり方はとてもシンプルですが、モールの色や長さやパーツの配置などちょっとした調整で表情が大きく変わり、自分の好みにこだわることができるのも魅力。

没頭していくうちに、隣の人と見せ合ったり、アイデアを交換したり、自然と会話が生まれていきます。
このHEART MEETは、人形をつくるワークショップであると同時に、「誰かと一緒に人形をつくる」ことを通して、災害発生後の避難生活で生まれる不安やストレスに寄り添い、少しでも心を楽にすることを一緒に考える場でもあります。
人形をつくりながら何気ない会話を交わすその時間そのものが、心をほぐす力を持っているようでした。

●日常から非常時にも役立つ、ひも1本の驚くべきパワー
TOTONOL

外の畳に出ると、何やら身体にひもを巻き付ける人たちの姿が。リストラティブヨガのマイスター・TOTONOLさんによる「ひもトレ」講座では、身近にある丸ひもを身体に巻くだけで起こる変化を体験しました。巻き方次第で、肩や腰の不調が楽になったり、歩きやすくなったり、眠りやすくなったりとその効果はさまざま。
災害時は環境の変化で体調を崩しがちだからこそ、自分を整える術を知っておくことが大切です。

ほかにも、重いリュックを背負う際にひもを巻くことで、荷重が安定し、負担が軽減されるという実践的な知恵も。なにより、「ひもを巻くだけ」という手軽さは、非常時にもすぐ活かせるので備えておく知恵としてぴったり。

●知恵や知識を振り返ることも、大事な防災

昨年に続いて参加してくださった方も多く集まりました。
一度学んだことでも、時間が経てば記憶は薄れてしまうもの。年に一度、振り返る機会を持つことも大事な備えです。

全国各地で救護活動を行う男性看護師集団・Nurse-Menのみなさんによる救命処置体験。
AEDの使い方や心臓マッサージは、何度体験しても無駄になることはありません。
都市で生き残るためのサバイバル術を体験型ワークショップやあそびの中で伝授する
星野諭(かーびー)さんによる「あそぼうさい 〜都市サバイバル編!身近なモノで生き残れ〜」。
遊びながら教えてもらうスタイルのワークショップで、実践が一番大事。
神田消防署が出張防災体験会に出動!
消火器の使い方はわかっていても、使った記憶を新しく持てるとさらに安心できます。
個人向け防災グッズセット「THE SOKO 錦町」は、
厳選されたおいしい保存食を揃えたセットで楽しく備えることも大事。
ほぼ日オリジナルのテント「kohaku」を立てると、たちまち避難所兼遊び場に。
神田警察署の署員の方も防災マインドをやさしく丁寧に警鐘。

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畳に集まってそれぞれの知恵を交わし、試し、話し合う。
「あの人から教えてもらった」という記憶は、その知識をより確かなものにし、いざという時の心強さにつながるように感じられました。

災害は、一人ではどうにもならないことが多いからこそ、周囲と知恵やアイデアを共有し、広げていくことが大切です。備えは自分を守るだけでなく、誰かを支える力にもなり得る。そんな防災の可能性を改めて感じる一日でした。

古書から新刊まで街にあふれる日。神保町、二つの“本の祭り”をめぐる|神保町ブックフェスティバル編

本の街・神田神保町。古書店や出版社が多く集積し、近年では世界からも注目を集めているこの街では、毎年秋に大規模な本のお祭りが二つも開かれます。
それが、「神田古本まつり」と「神保町ブックフェスティバル」。それぞれ異なる背景のもとに生まれた別々のお祭りですが、この街の風物詩として長く親しまれてきました。
一方で、その規模の大きさゆえに、全貌を把握しきれていない方も多いのではないでしょうか。

そもそも、二つのお祭りの違いは何なのか。
どんなお店が集まり、どんな本が並ぶのか。
そして、本の街・神保町で行われるからこその楽しみとは——。

神保町はいつ訪れても多彩な本が集まる街ですが、お祭りならではの巡り合わせがあるこの機会。「神田古本まつり」と「神保町ブックフェスティバル」を通して街へとあふれ出す、さまざまな本との出会いをご紹介します。

神田古本まつり編はこちら

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●本をつくり続ける出版社による、新刊中心のフェス
神保町ブックフェスティバル

神保町ブックフェスティバルは1991年に始まり、老舗書店や飲食の名店が並ぶ神田すずらん通り商店街を中心に200以上のワゴンが立ち並ぶ大規模な本のお祭りです。多様な出版社が出店するこのお祭りは、出版業界の今を体感できる場とも言えます。
そんな大きなイベントを取り仕切る、神保町ブックフェスティバルの実行委員長であり、三省堂書店 代表取締役社長の亀井崇雄さんにお話を伺いました。

——神保町ブックフェスティバルはどういった背景から始まったのでしょうか。

亀井 神保町ブックフェスティバルが誕生したのは1991年で、神田古本まつりの30年ほど後になります。当時はすでに神田古本まつりが多くの人に親しまれていましたが、新刊書を中心としたお祭りを新たにつくることで、さらに神保町を本の街として盛り上げようと、街の人が中心となって立ち上がりました。

——どのような方が出店されるのでしょうか。

亀井 主に出版社です。各出版社が自社で刊行した書籍を、倉庫などに保管している在庫を含めて販売する形になっています。その他にも、開催地であるすずらん通りをはじめ、周辺の飲食店や文房具店など、本以外のものを扱うお店も出店しています。
そういった近隣店舗を除いては、基本的には募集制で、出版社であれば規模の大小は問いません。老舗から新規の出版社まで、販売できる本をお持ちであれば、幅広く参加できるようにしています。

——小規模だったり、インディペンデントな出版社であっても、ワゴンを並べられる本があれば出店できるんですね。
ワゴンはすずらん通りからさくら通りに渡って並びますが、当初からこれほどの規模だったのでしょうか。

亀井 最初から比較的広いエリアを使っていましたが、当時は一社でワゴンを二台持つなど、ゆとりのある配置でした。
ただ、近年は出店希望者が大幅に増え、200社を超えるようになったため、現在は一社あたりワゴン一台に制限しています。それでも数が足りず、やむを得ずお断りすることもあります。

——近年の出版の盛り上がりを感じますね。当日は200台ものワゴンが並ぶとのことですが、ジャンルごとのエリアなどあるのでしょうか。

亀井 特にジャンルによってエリア分けをするようなことはしていません。毎年出店されている出版社さんについては、なるべく同じ場所になるよう調整していますが、基本的にはさまざまな分野のワゴンが隣り合う配置になっています。
配置についても質問があればお答えしていますが、会場でマップの配布はしていないんです。目的を決めずにぶらぶら歩きながら、「これだ!」という一冊との出会いを楽しんでいただきたいと思っています。

2024年の様子

——200台以上も並ぶワゴンの中から出会いを楽しめるのは、想像するだけでもわくわくします。

亀井 実際に回ってみるとあっという間に時間がすぎてしまうので、余裕を持ってお越しいただけるといいかもしれませんね。
専門書のみを扱う出版社もありますが、普段あまり馴染みのない分野の本と出会えるのも、このイベントならではです。出版社の方と直接話ができるのも貴重な機会なので、そういった交流も大きな魅力だと思います。

——確かに、出版社の方が店頭に立つ機会は普段なかなかありませんよね。

亀井 ご自身が担当された本については隅から隅までご存知ですし、出版社の方の視点でおすすめを聞いてみると、新しい発見があると思います。出版社の方にとっても、読者の方と交流できる機会は貴重なので、楽しんで参加されているんです。本との出会いだけでなく、つくり手と読み手が交わるお祭りとして、存分に楽しんでいただきたいですね。

——出店者・来場者ともに非常に多くが集まり、本当に大規模なイベントですが、これまで続けてこられた中で大切にしてきたことは何でしょうか。

亀井 愚直に「本のイベント」として続けてきたことだと思います。出版不況や書店の減少など、業界を取り巻く環境は変化してきましたが、それを意識して大々的な広告を打つようなことはせず、とにかく絶やさず開催し続けることに徹してきました。そうした積み重ねが、自然と広がり、今の盛況につながっていると感じています。
開催地が神保町という街の求心力も大きいと感じるので、「本のイベント」であり「街のイベント」として、残していかなければいけないと思いますね。

——こうした規模のイベントを続けていくには、運営の組織づくりもとても重要に思います。実行委員会として運営されていますが、どのような方が関わっているのでしょうか。

亀井 弊社の社員をはじめ、この界隈の出版社や書籍関連のサービスに携わる方、地域のフリーペーパーの編集長など、さまざまな形で神保町や本に関わっている方々が集まっています。長年尽力されている方も多く、世代交代をどう進めていくかは大きな課題です。本業の合間を縫って準備をしているので、正直忙しく大変な面も多くありますが、それでも当日を迎えると、皆さんとても楽しそうなんです。特に出店者や来場者の様子を見ると、「やってよかった」と心から感じます。こうした感覚は言葉ではなかなか伝わらないところですが、この場の意義や熱量も含めて、次の世代へ引き継いでいきたいですね。

——改めて、この街にとって神保町ブックフェスティバルはどのような存在でしょうか。

亀井 本は今、さまざまな方法で購入できますが、このイベントは街同士、人同士のつながりを保つための場でもあると思っています。
本に関わる仕事をしている立場からすると、これだけ多くの人が「本を買うためだけ」に集まる光景を目の当たりにすると、本当に勇気をもらえます。それはきっと出店者も来場者も同じで、本が好きな人たちが「まだ本は廃れていない」と再確認できる場なんですよね。なんとかここを旗印に、業界みんなで頑張ろうという気概を見せていきたいと思います。
また、街にとっても年に一度、お店を構える方や住んでいる方が自然と集まり、協力し合う機会になっていると感じます。お祭りとして、街の取り組みとして、どう継続していくかを模索しながら、これからも続けていきたいと思います。

●苦渋の“開催見送り”を経て、いま見据えること

インタビューの数日後に迎えた当日。早朝から雨雲に覆われ、天候が危ぶまれる中、SNS上でも出店者や参加者から開催を願う声が多く見られました。
しかし、開始数時間前、雨天により2日間とも中止が発表されました。30年にわたり多くの人に親しまれてきた場を中止とする決断は、実行委員にとっても非常に苦しいものだったはずです。こうした判断を受けての思いを伺いました。

——何ヶ月も前から準備を進めてこられた中で、今年の開催中止は苦渋の決断だったかと思います。率直なお気持ちをお聞かせください。

亀井 本当に残念でなりません。街の方に聞いたところ、2日間とも開催できなかった年は、今年が初めてだそうです。
土曜日の朝、実行委員で集まって開催の是非を検討している間も、地方からはるばる出店に来てくださった出版社の方や、楽しみに来場されたお客様の姿を見かけて、なんとか開催できないかと気持ちは揺れていました。
しかし、2日間の天気予報は揺らぐことのない雨の予報で、断腸の思いで中止を決定しました。何ヶ月もかけていた準備の成果が一瞬で失われ、さらにご来場のお客様の笑顔を見ることもできず、街全体が落胆しているように感じました。私自身も、喪失感でやるせない気持ちでした。

——中止のご案内からもそのお気持ちが伝わってきて、一層心苦しく感じました。
開催を心待ちにしていた読者や出店者の方々へ、来年の開催に向けたメッセージをいただけますでしょうか。

亀井 楽しみにしてくださっていた皆さまには申し訳ない気持ちでいっぱいです。しかし、濡れてしまった本を開くときの気持ちは本当に下がってしまうので、皆さまの大切な本を守るためにも、雨には最大限の気を配りながら運営をしています。
もともと、「この時期の天候は安定している」という通説のもと開催時期は変えずに行ってきていましたが、近年は秋雨がお祭りに重なってしまうことが増えてきました。来年の開催に向けては、雨対策をどうするかは実行委員会でしっかり検討したいと思います。
来年はたくさんのお客様の笑顔に出会えるように、しっかり準備をしてまいります! 来年もご来場をお待ちしております。

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今回神保町ブックフェスティバルの現場をご紹介することは叶いませんでしたが、話を通して二つのお祭りの共通点が見えてきました。
それは、本との“出会い”を楽しむということ。
おすすめもマッチングもされない環境に身を置き、目の前に並ぶ膨大な本とひたすら向き合うことは、世の中にどんなことを考えている人がいるかを知り、自らの心の動きをゆっくり感じる時間があります。
そしてそれが本の街で行われているからこそ、街中であってもその時間は邪魔されることなく、存分に浸ることができる。書に耽ることを街全体で受け入れてくれることが、このお祭りの醍醐味と言えるかもしれません。

早くも次の秋が待ち切れませんが、神保町の書店巡りにたっぷり時間を費やしながら、本を抱えて1日歩き回れる身体に鍛えておきましょう。

Edit/Text: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI)

いらなくなった画材を巡らせながら、誰かの一歩を支え合う。画材循環プロジェクト「巡り堂」|こんなだった、なんだかんだ10

使われなくなった画材を集め、きれいに拭いて、次に使う人へと届ける。
一見すると何気ないリサイクル活動ですが、こうした営みからさまざまな人を支えている場があります。
それが、2022年に京都・亀岡で始まった画材循環プロジェクト「巡り堂」です。社会福祉法人松花苑が運営する「みずのき美術館」、国内で家財整理業を行う「一般社団法人ALL JAPAN TRADING」、アーティストの親谷茂さんの三者によって発足され、これまで活動を続けています。

巡り堂の主な仕組みは、押し入れや倉庫で使われずそのままになっている鉛筆やクレヨン、学校などで使われた絵の具など、いずれ廃棄されてしまう画材をまた新しい人の元へと繋ぎ、巡らせること。一度は役割を終えた画材をさまざまな人の手を介して、次の誰かの「つくること」へと繋げていきます。

この画材循環というアイデアの背景には、廃棄物を減らすことや、創作活動を支えることはもちろん、心の不調や生活に苦労している人が、人や社会と交わるきっかけとなる場をつくりたいという想いも込められています。
画材一つひとつを拭いて届け、利用者一人ひとりに寄り添ってきたこの3年間。画材が巡りゆく日々には、どのような歩みがあったのでしょうか。巡り堂を運営するみずのき美術館の奥山理子さんと奥岡なぎさんを迎え、実際に回収されてきた画材を囲みながらお話を伺いました。

▼巡り堂の立ち上げ経緯は、以下の記事もあわせてご覧ください。
https://opkd.jp/2025/04/30/ndkd9_report02/

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●小さな一歩に寄り添うこと

まず、今回のなんだかんだ10に先立って、神田ポートビルチームが巡り堂をより深く知ろうと、ある企画が実施されました。その名も「亀とヤギ」です。巡り堂の運営スタッフや、画材の清掃作業を行うメンバーの方と一緒にただ歩くというシンプルな試みでしたが、その時間に巡り堂の本質に触れるような体験がありました。

一体どういった時間だったのか、「亀とヤギ」を企画した神田ポートビルのクリエイティブディレクター・池田さんはこう話します。

「亀岡の障害者支援施設みずのきに集合して、隣町の南丹市八木まで、5kmほどの距離を歩きました。神社に寄ったり池を眺めたり、休憩にアイスを食べたり、ヤギが迎えに来てくれたり。途中でいろいろな出来事がありつつも、“みんなでただ歩く”だけの時間を過ごしたんです。
それだけのことでも、“ここを一緒に歩いたね”という思い出ができれば十分で。目的をつくると達成に意識が向きますが、“歩くだけ”にすると、途中で立ち止まったり不安になっても、他に目的や予定がないぶん、気持ちにきちんと向き合える。『あの曲がり角まで歩いてみようか』『車でもいいから一緒に行こうか』と、勇気を少しずつ引き出せるんですね。
そうした小さな一歩は彼らにとってとても大切なものですし、その一歩にそっと寄り添う理子ちゃんとなぎちゃんをはじめとするスタッフが本当に素晴らしく、巡り堂の日々を垣間見た気がして心を打たれました」(池田さん)

「ただ歩く」という提案を最初に聞いたときは、「巡り堂とどう関係があるんだろうと、ポカンとしました(笑)」と振り返る奥山さん。さらに巡り堂のメンバーに声をかけても、新たな試みへの不安から、参加者がなかなか集まらなかったそうです。

「それでも数人が勇気を出して参加してくれて、実際に歩く時間を過ごすうちに、池田さんの言葉が腑に落ちていきました。
何かに取り組むときにはつい意味を求めがちで、『できる・できない』といった軸で測ろうとしてしまいます。でも、巡り堂を続けることは、その判断軸を見直すことでもあると思うんです。今回も全員が最後まで歩けたわけではありませんが、“一緒に歩いた”という時間が共通の思い出として残ったことはとても大切だなと感じました」(奥山さん)

●画材を循環させることの裏側

この「ただ歩く」企画の背景には、池田さんが「巡り堂は画材を循環させるだけのプロジェクトじゃない」と気づいたことがありました。
「画材循環プロジェクト」と掲げている巡り堂ですが、その立ち上げには何があったのでしょうか。

「家財回収業者の方が『画材をもらってくれませんか?』とみずのき美術館を訪ねてきてくれたことがきっかけで、その瞬間“もうやりたくて仕方がない!”と思いました。
というのも、創作現場に画材を届けられる可能性を感じたからなんです。かつて障害者支援施設みずのきで絵画教室を開いていた頃は、画材を揃えることにとても苦労していました。少しだけ描いて納得いかないと捨ててしまうことも多く、すぐに材料が尽きてしまうんです。だから“素材を大切に扱い、最後まで描き切る”ことを教えていたといいます。でも本来は、もっと自由に画材を使い、好きなように描ける環境があっても良いわけで、そんな場が全国のケア施設やコミュニティに広がる光景を思い描き、絶対に届けたいと思いました」(奥山さん)

「それでプロジェクトを始めるにあたって、“メンバーの背中を押すようなとびきりかっこいいビジュアルがほしい”と僕に相談してくれたんですよね。制作当時は、“画材を大切に循環させる活動”が中心だと思っていたんですが、後からそれだけではないと気づいたんです。本当に目指していたのは、巡り堂のメンバーが画材を拭く作業を通して前向きになり、外の世界とつながるきっかけになることなんですよね」(池田さん)

「そうなんです。巡り堂の作業には、心の不調を抱えていたり日々の生活に苦労している人たちが中心に参加しています。家の中にいることが多いので存在が認識されづらいですが、社会との距離を感じていたり、金銭面や心の状態によって思うように社会に参加できなかったり、“引きこもり”という言葉だけで捉えきれないあらゆるケースを抱えた人が地域にたくさんいるんです。そうした人たちが一歩踏み出せる場をつくりたいと考えていた中で、画材をきれいにする作業が彼らの仕事になるんじゃないかと思ったんです。これが巡り堂のもう一つの思いです」(奥山さん)

画材を届けて自由に創作できることと、画材を通して社会への不安をほぐすこと。画材を循環させることには、そこに関わる人たちに二つのよい兆しをもたらしたいという思いが込められています。

「“巡り堂”という名前も、障害者支援施設みずのきの裏にあるお堂を活動拠点にしようという構想があったことから生まれたんですよね。その光景を想像してみるとすごく素敵だなと思って。お堂にみんな集まって、画材を黙々と拭いたり並べたりする作業は禅にも通じて、ものを生まれ変わらせることで自分も整っていく感覚があります。そんな“祈りのような行為”はケアにつながるんじゃないかと気づいて、この画期的なアイデアをもっといろいろな人に広めていくべきだと思ったんです」(池田さん)

●巡り堂の仕組みがもっと広がるために

そうして巡り堂の名刺代わりとして制作されたのが冊子とポスターです。冊子はこれまでの歩みを小説のようにまとめ、ポスターは巡り堂の流れが一目でわかるものを作成しました。しかし、巡り堂の伝え方については少し葛藤があったと言います。

「池田さんはなんだかんだの企画でも、“福祉”という言葉をあまり使わずに伝えていきたいと話していましたが、私も同じ思いがありました。最初からメンバーが丁寧に拭く姿を前面に出すより、まずは“画材を循環させる”という活動を知ってもらう方が、多方面に広がると思ったんです。
でも、これまでの3年にわたるメンバーとの日々は本当にドラマの連続で、悩んだことも嬉しかったことも数えきれないほどあります。特に、メンバーの仕事ぶりは本当に褒めどころばかりなのに、役所の方やご家族にさえ伝わりづらいんですよね。だからこそ、“今日のクレヨンの磨き方がとても素晴らしかったんですよ”と、私たちが伝えることはとても大事だと思っています。
本当に彼らがいなくては成り立たないプロジェクトですし、一つひとつ手を抜かずに拭いてきた日々があるからこそ今の巡り堂があるんだと池田さんからも言っていただいて、これまでの歩みをしっかり伝えようと思うようになりました」(奥山さん)

冊子とポスターの制作にも関わった池田さんは、巡り堂のアイデアにこそ可能性があり、多くの人に参考にしてもらいたいと言います。

「巡り堂の魅力は、使われなくなった画材を“きれいに拭く”というシンプルな構造だと思うんです。お金をかけずに誰でもできる、これ以上の企画はありません。“企画を考える”というより、“タダでできることはないかな”と発想してみると、アイデアが広がる可能性があるなと思って。福祉分野は特に資金面で悩む施設も多いと思いますが、発想のヒントにしてもらえるといいなと思ったんです」(池田さん)

そんな巡り堂のアイデアは京都を飛び出し、東京の福祉施設と連携して取り組みが広がっています。

「活動が広がるのは本当に嬉しいです。安心できる場を必要とする人は全国にいるはずなので、もっと増えるといいなと思います。
このアイデアの可能性をもう一つ付け加えると、“拭く”という行為が意外と大事で、場に居続ける理由になるんです。雑談しましょうと言われると緊張してしまう人も、拭く作業があるだけで自然と間が持てる。単調すぎず、ちょうどいい作業なんですよ」(奥山さん)

「回収される画材は本当に多様で、古くて用途が分からなかったり、持ち主の痕跡が残っているものもあります。私たちも画材に詳しいわけではないので、メンバーと一緒に“これはなんだろうね”“どう使ってたんだろう”と考える時間が多いんです。画材という共通のアイテムがあることで、上下関係なく自然にやりとりできることがいいなと思います」(奥岡さん)

その言葉を受けて池田さんが「これは皆さんにも体験してもらいましょう!」とひらめき、会場では実際に画材を拭く体験が始まりました。参加者は作業をしながらペアやグループをつくり、感じたことや日頃考えていることをぽつりぽつりと語り合います。

●拭くという行為が持つ力

参加者には、福祉支援や創作活動に関わる方も多く、日々の悩みを共有し合う場面も。対話が深まるほど手つきも洗練され、画材がみるみる磨かれていきました。

作業をしながら対話を重ねて気づけば一時間。初対面同士とは思えないほど穏やかな空気を感じつつ、奥山さんはこう振り返りました。

「まさに私たちの普段の作業時間そのもので、皆さんと共有できて嬉しかったです。アートやものづくりって、好きな人以外にとっては少し距離のあるものじゃないですか。実は私もそうで、みずのきの絵画教室も遡ると絵を描いていたのは入所者の一割ほどで、全員が共有できる時間ではなかったんです。つくる主体にならずとも、”つくること”に参加できる可能性はないだろうかと考えてきた中で、巡り堂はまさに最後のピースがはまった感覚でした。拭くという行為には、誰かの創作を支える力があり、初対面でも一緒に時間を過ごせる力があります。私がずっと求めていたのはこうした時間だったんだなと改めて感じました」(奥山さん)

巡り堂は立ち上げから3年が経ち、これからも小さいながらも確かな歩みを重ねていこうとしています。一方で、現状は一部行政の補助金などはあっても、大部分は自己負担で活動が行われており、来年度以降は確証されていません。そこで、少しでも自走できるよう、寄付の仕組みが新たに設けられました。寄付金は運営費やメンバーの作業工賃に充てられます。
https://megurido.com/#osaisen

「巡り堂では、メンバーが月に8〜10回、1日2時間ほど作業を行い、工賃をお渡ししています。少ない額ですが、時給制にしてノルマを感じてしまうよりも、無理ない範囲で働いて自分でお金を得る機会となるようにしています。少額でも私たちにとっては大きな支えなので、もしよかったらご支援いただけたら嬉しいです」(奥岡さん)

立ち上げ当初から巡り堂を見守ってきた池田さんもこう語ります。

「メンバーを応援するのはもちろん、日々寄り添って支える人たちも含めて応援したいんです。募金も、画材の寄付も、この活動を広めることも、巡り堂の応援になります。どんなかたちでも協力してもらえたら嬉しいなと思います」(池田さん)

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創作活動をしたい人、社会に一歩踏み出す勇気がほしい人、それらを応援したい人。
画材循環プロジェクトは、さまざまな人がさまざまなかたちで関わることができる器のような取り組みです。全員が直接顔を合わせることはほとんどないけれど、“画材が巡る時間”を共有する小さな共同社会のようでもあります。画材を介して、誰かを支え、誰かに支えられながら、一つのプロジェクトとして循環していく。たとえ小さな関わり方でも、画材が巡っていく確かな実感が、活動の兆しになっているように感じました。

なんだかんだも、さまざまなものや人が同じ場に混ざり合いながら出会う場です。巡り堂を応援し、その姿に学びながら、なんだかんだなりの歩みを重ねていきたいと思います。

Edit/Text: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI)

思いがあるところに建築は生まれる。建築に親しみ、まちに触れる「東京建築祭」 後編

大小、新旧さまざまなものが建ち並び、東京の風景をつくっている建築たち。多くを語らずじっと佇むそれらには、それぞれに刻まれた時間や想いがあります。
そうした建築をめぐり、人の思いやまちの魅力に触れる「東京建築祭」。上野、神田、日本橋、丸の内、銀座、港区…といった東京の各所で、歴史ある名建築から新たに注目を集める建築まで、多様な建築が一斉に門戸をひらき、じっくり楽しむことができる壮大なイベントです。

神田錦町周辺も一つのエリアとして参加し、さまざまな建築が公開されました。東京全体から見ると小さなエリアですが、個性豊かな建築が潜んでいる神田錦町。建築を通して見ると、新たな発見に溢れていました。

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③安井建築設計事務所 東京事務所「美土代クリエイティブ特区」

3つ目の建築は、安井建築設計事務所へ。文化施設だけでなく、オフィスビルも対象になっていることに東京建築祭の幅広さが伺えます。
安井建築設計事務所は1924年に創業し、サントリーホールや東京国立博物館などの文化施設をはじめ、幅広い分野の建築設計を手掛けています。今回公開された東京事務所は、築約60年のオフィスビルを2024年に自らリノベーションしてまちと混ざり合う新しいオフィス空間として誕生しました。
さまざまな建築や空間設計の知が詰まったオフィス空間とはどういったものなのでしょうか?

大きなエントランスの向こうには、
企業のオフィスとは思えないオープンな空間が覗きます。
入ってすぐのところに置かれた模型は、社内設計チームが考えたオフィス計画。
1階は「まちとつながりながら、私たちも自らやりたいことを実践する場所」、
2・3階は「自ら働き方を組み立てる場所」として設計されています。
模型に所狭しと貼られていたのは、
この場所でしたいことが書かれた付箋たち。
社員の思いが反映されていて、風通しの良さが伺えます。
1階のオープンスペースには、オフィスらしからぬ大きなキッチンとカウンターが。
社員やまちの人とのコミュニケーションの場となるように設けられたのだそう。
作り込まないことをテーマにしていて、
天井の下地材として使用される建材を装飾として活用。
ドライフラワーを吊るしたりと、
社員の方が思いつきで工夫できる場所になっているそうです。何とも柔軟。
青々とした植物たちに誘われるように2階へ。
この植物は、設計に活かせる環境づくりを目指す
バイオフィリックデザインチームによる活動の一つ。
移転の際に廃棄となったオフィス家具を活用した植木鉢が2階でお出迎え。
ユーモラスな姿が、オフィスに朗らかなやすらぎを添えてくれます。
仕上げを施していないという天井は空間を高く見せるためかと思いきや、
仕上げを省くことで脱炭素に寄与するとともに、
空調設備や照明の配置がよく見えるので若い社員の学びにもなっているのだそう。
ガラス張りの個室やカーテンで仕切られたスペース、高級感ある応接室と、
個性あふれる会議エリア。
廊下を路地と見立てて、各部屋で交わされる議論のエネルギーを
感じられるような空間になっていました。
大きな木が地上へ貫く地下1階は、ビル入居者専用の共有部。
ここも緑が添えられていて、働く人たちが息抜きできる秘密基地となっています。
1階から外に大きく開かれたこの窓は、元々壁だったのだそう。
社員の行き来はもちろん、
お客さんやまちの誰もが自由に入れるような空間が目指されていました。

④岡田ビル

続いては、ガラス張りのオフィスビルとは打って変わってコンクリート剥き出しの「岡田ビル」。
1969年築の不適合建築を「減築」によって適法化するとともに、建築やエリアに新たな価値をもたらす空間として生まれ変わり、その社会性とデザイン性の高さが注目を集めています。

変哲のないビルでも工夫一つで、新たな息吹を吹き込み特別になれる。従来のリノベーションとは一線を画す「再生」のあり方が随所に感じられました。

「いわゆる違法建築を適法化しながら、
デザインとして昇華させて価値あるものへと生まれ変わらせる。
このことはストックが多い東京においてとても可能性を感じられます」と十時さん。
重厚なコンクリート壁にある、切り開かれたような開口は「減築」によるもの。
壁を一部除くことで、カフェのエントランスが開放的になり、
隣地とも緩やかなつながりが生まれています。
ファサードのタイルは再生前から使われていたものを活用。
さまざまなコントラストが多様な人を受け入れるこの場とマッチしています。
反対側はさらに大胆に抜けた側面。入口の開放感を際立たせます。
補強した鉄骨はすべて赤く塗装されてアクセントに。
お店の入口すぐにある大きな吹き抜けも減築のためのアイデア。
減築することで補強量を抑えるとともに風通しの良い空間に。
ワイルドな吹き抜けも5階まで続いて壮観!
階段にある塞がれた扉は、かつてのエレベーターの名残。
かつてのエレベーターは、外階段に付随する形で設置され、
外階段を数段昇る必要があったのだそう。
現在のエレベーターは、吹き抜けに面してとてもオープン。
エレベーター自体、各フロアの顔となる場所に設置されることが
主流となったため、そういった潮流の変化に合わせた
アップデートも行われているそうです。
この日は屋上も一般公開され、
階段を登りながらさまざまな角度から建物を楽しめる機会に。
上から下までじっくり見ることで、
減築という斬新さを肌で体感することができました。

⑤JINS東京本社

最後に訪れたのは、アイウエアブランド「JINS」の東京本社。2023年に飯田橋から移転したという社屋は、将来的に解体予定のオフィスビルです。入居は期間限定で、大胆に全面リノベーションしたオフィスのコンセプトは、「壊しながら、つくる」と「美術館×オフィス」の二つ。
設計を担当した建築家・髙濱史子さんの案内による建築ツアーに参加し、ユニークな機能満載の各フロアをめぐりました。

設計を担当した建築家・髙濱史子さん
「オフィスは室内にあるもの」という常識を覆してつくられた半屋外空間。
コーヒースタンドもあり、一般の人も利用できます。
いまあるものを壊しつつ生かしつつ、
新しいものをつくり出すことを目指した建築には
随所にユニークな工夫が見られます。
建物の外にあった立派なエントランスは、なんと商談室に…!
代わりにつくられた入口は無骨なコンクリート壁のまま。
まさに「壊しながら、つくる」ように、
元の形をほぐしながら新しいあり方の模索が感じられます。
2階にあるフルフラットな空間は、その名も「原っぱ」。
建築家・青木淳さんの著書『原っぱと遊園地』から引用したネーミングで、
「社員が自由な発想で使う『原っぱ』のような場所であってほしい」
という思いが込められています。
フロアに埋め込まれているベニヤ板は通称「種ベンチ」。
床から「芽」のように引き上げてみると、なんと折りたたみ式の椅子に!
3階の商談室エリアは、「美術館×オフィス」というコンセプトの通り
ホワイトキューブのようで実際にアート作品が展示されることも。
美術館の中で仕事しているような感覚を味わえるそう。
各商談室はすべてメガネのフレームの名前になっていてJINSらしい。
5階から8階にかけてはワークフロア。
部署を横断した交流が生まれやすい、フレキシブルな空間。
ワークフロアの中央に設置された吹き抜け階段。
各フロアの様子を感じることができてとても風通しが良い。
下から吹き抜けを見上げると虹色に包まれた空間に。
プリズムシートによって角度や時間によって見え方が変わる様子は幻想的です。
シンボリックな植栽はアートピース「Fabbrica dell’Aria®(ファブリカ・デラリア)」。
空気を浄化する機能性とアートとしての美しさを兼ね備えています。
最後に訪れた9階にはなんとサウナ室が!
グループサウナとソロサウナの2部屋完備され、
リフレッシュはもちろんコミュニケーションの場としても使われているそう。
ホワイトボードがあるのがオフィスのサウナらしい設計。
日本サウナ学会代表理事である加藤容崇先生やフィンランド大使館の方に
相談しながらつくられたサウナは本格的。
水風呂はキンキンに冷えて見えるよう
青い照明で演出されているという芸の細かさ。
スタイリッシュな浴槽は、
実は馬の水飲み用の桶を活用しているそうです。
合理性に安住せず、実験的な要素が多く取り入れられていることが印象的で、
働く環境としてあらゆる思考が詰まっていることが随所に感じられる建築でした。

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5つの建築を通して神田錦町周辺の人やまちに触れた東京建築祭。歴史的な文化施設から、新たなアイデアに溢れたオフィスビルまで、「建築」と一口に言ってもあらゆる思考がめぐらされ、それぞれ多様な風景を生み出していました。

静かに佇む建築たちも、少し意識を変えて身を置いてみるだけでいろいろなことに気づくきっかけを与えてくれます。そしてそれは、建築が人の手によってつくられ、随所にその人の思いが宿っているからだと体感させられました。
東京建築祭の事務局長の大久保さんがお話しされていた「思いがないところには何も生まれない」ということは翻って、強い思いがあるところには自然と魅力が宿ります。そう思って建築を眺めてみると、単なる構造物ではなく、人の思いの化身のようにも見えてきて、どこか身近に感じられる気がしました。

東京建築祭は来年も5月末の開催を予定されているのだそう。次はどんな建築と、どんな時間を過ごせるのか今から楽しみです。ぜひチェックしてみてください!
https://tokyo.kenchikusai.jp/

Edit/Text: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI), TADA

思いがあるところに建築は生まれる。建築に親しみ、まちに触れる「東京建築祭」 前編 

大小、新旧さまざまなものが建ち並び、東京の風景をつくっている建築たち。多くを語らずじっと佇むそれらには、それぞれに刻まれた時間や想いがあります。
そうした建築をめぐり、人の思いやまちの魅力に触れる「東京建築祭」。上野、神田、日本橋、丸の内、銀座、港区…といった東京の各所で、歴史ある名建築から新たに注目を集める建築まで、多様な建築が一斉に門戸をひらき、じっくり楽しむことができる壮大なイベントです。

神田錦町周辺も一つのエリアとして参加し、さまざまな建築が公開されました。東京全体から見ると小さなエリアですが、個性豊かな建築が潜んでいる神田錦町。建築を通して見ると、新たな発見に溢れていました。

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東京で、建築からひとを感じ、まちを知る

東京のあらゆる建築をめぐる「東京建築祭」。東京中が会場という無謀にも思えるこのイベントはどのようにして立ち上がったのでしょうか。東京建築祭の実行委員会事務局長の大久保佳代さんに、開催を終えてお話を伺いました。

——今回で二回目の開催となりますが、「東京建築祭」はどういった場を目指していたのでしょうか?

大久保 建築を対象物として見るというより、建築と触れ合って距離を近く感じられるような機会にしたいと思っていたんです。さまざまな側面を少しずつ知りながら、次第に建築と仲良くなっていく感覚というか…。昨年の開催では、多くの方に来場いただいた反面、ゆっくり交流するような環境をつくれなかったなと感じたんです。そうした反省を踏まえて、今回はエリアを大幅に拡大してスポットを分散し、混み合わないように調整しました。参加建築数でいうと54件から128件と倍以上に増やして、交流会やワークショップなど、対話型のプログラムも取り入れました。いろんな工夫をして、今回は余裕を持って建築と親しめる機会を作れたかなと思います。

——確かに程よく人が行き交い、椅子に座ってゆっくりしている方も多かったことが印象に残っています。

大久保 あともうひとつ、参加者だけでなく建築を公開する側の人にも気付きを得てもらいたいと思ったんです。特にオフィスビルや大学施設だと、社員や職員の方にとっては普段の職場なのでその価値を意識することはそうありません。
でも、東京建築祭を通して多くの人に関心を持ってもらい、普段身近にいる人もこんなにもいいものなんだと気付くことってとても重要なんです。建築はつくる人と使う人と守る人がいてこそ価値あるものとして残り続けると思うので、そうした立場の人も建築の価値に触れて思いを持つ機会となることを目指していました。

——東京建築祭のキャッチコピーにも、「建築から、ひとを感じる、まちを知る」とあるように、人の存在を大事にしていらっしゃいますね。

大久保 そうなんです。建築って、人の思いがモノとして現れていると思うんです。そもそも思いがないところには何も生まれませんしね。建築ほどの規模になると、膨大なデータや課題を分析しながらどういった方向性や合理性を持ってつくるか、さまざまな情報が関わっていきますが、そもそもは「こうしたい」という思いが出発地点にあります。建築自体は多くの人が目にすることができるけれど、思いとか裏側を感じられる機会はなかなかないので、そういったことに触れられるものにしたいと思ったんです。
まだ場所によって公開の仕方に差がありますが、東京建築祭としての思いも少しずつ広げていきたいですね。

——東京建築祭でさまざまなエリアをご覧になっている大久保さんから見て、神田錦町はどういった印象でしょうか?

大久保 神田錦町はなんというか、かわいいんです(笑) 派手で凝った建築があるというわけでないけれど、ヒューマンスケールでみんながそれぞれ楽しもうとしている空気をすごく感じます。中心になる企業やエリアマネジメント団体があるわけでもなく、いい意味でバラバラというか、ゆるい連携をもちながら各自で頑張っていますよね。東京都心でそうしたコンパクトなスケール感で頑張ろうとしているところが応援したくなるし、だからこそユニークなことが起きているなと思います。そのかわいさが、とても魅力的で大好きです。

建築でめぐる、神田錦町

大久保さんの言葉を借りるなら「かわいい」サイズ感の神田錦町。老舗店が残る神田駅周辺や神保町、自然溢れる皇居、高層ビルが並ぶ丸の内エリアに囲まれたこのエリアですが、今回の東京建築祭では周辺エリアにて5箇所の建築が公開されました。

まちの風景であり、人の営みに関わってきた建築たち。それぞれどういった建築で、どんなことを語りかけてくれるのでしょうか? 神田錦町エリアをよく知る安田不動産の十時さんにガイドいただき、一緒にめぐっていきました。

①神田ポートビル

まず訪れたのは、1964年築の印刷会社旧社屋をリノベーションし、2021年に誕生した「神田ポートビル」。歴史と文化の積み重なった神田錦町という場所を背景に、カルチャーやアカデミズム、ウェルビーイングをテーマにした文化複合ビルです。

一見リノベーションとは気づきづらいほど、かつての佇まいを残しているこの建築。ですが、よくよく見ていくとさまざまな仕掛けやギミックが散りばめられています。早速見ていきましょう。

「『神田ポートビル』という名には、
旅の出発点であり嵐の日には避難する場所ともなる「港」のように
たくさんの人々が自由に活用してほしいという思いが込められているんですよ」と十時さん。
建築を見たり、スタッフの方と話したり、ひと休みしたり。
まさに港のようにいろいろな人たちが行き交います。
入ってすぐ左に広がる白い壁の空間は、ギャラリーにも写真館にもなるのだそう。
商品や本が並ぶ棚の先に「?」の掛け軸が覗くのは、なんと茶室。
建築家の藤本信行さんによって、お茶会や展示目的のために手がけられたもので作品の一つ。
茶室の入口にある「?」と書かれた木箱を開けてみると、小さなご利益がありそうな仕掛けが。
茶室をはじめ、神田ポートビルのコンセプトに合わせて
作家の方が制作したアート作品が随所に点在しています。
地下は元々印刷会社の倉庫だった場所を丸ごとサウナに。
階段上の壁に掛かっているのもアート作品の一つ。
白樺などの植物がたくさん吊るされていて、まるで森。
フィンランドではサウナがまちのコミュニティ形成に重要な役割を果たしているように、
ここ神田ポートビルにも、まちの人がやすらぎ、集える場所として
サウナをつくることになったのだそう。
天井が高く、休憩スペースには丘のような傾斜があり
地下であることを忘れてしまう開放感。
続いて2階へ…
元々の建築をあまり変えずに、馴染ませる形で新しい要素が取り入れられています。
自然の木を力技で捻ったというダイナミックな手すり。
2階は「ほぼ日の學校」のスタジオ。
エントランスの壁は本物のレンガが埋め込まれていて、由緒正しい校舎の雰囲気が漂う…。
壁には谷川俊太郎さんの詩が掲げられていました。
奥へ進むと和田誠さんから譲り受けたという本棚がさらっと置いてある驚き。
さまざまな著名人が講義を開いていてきたスタジオ。
アプリに登録すると動画コンテンツとして見ることができ、どこでも学ぶことができます。
再び1階に戻ると、建築家の藤本信行さんがお茶を振る舞いながら
建築の説明をしてくださいました。なんというおもてなしの精神。
かつての佇まいを残してまちに馴染みつつ
ユニークさと居心地の良さが程よく調和した、まさに港のようにやすらぐ場所でした。

②共立講堂

次は、東京タワーの設計者・内藤多仲博士が構造設計、前田健二郎が意匠設計を手がけた「共立講堂」へ。1938年に建てられ、日比谷公会堂に並ぶ大型の講堂で音楽関係の公演のメッカとして親しまれていました。その後関係法令の改正や社会環境の変化を受け、現在は学校の講堂として活用されています。

外観にも感じられるように、昭和初期のモダンなデザインを先導した建築家・前田健二郎による意匠設計は、格式がありながらどこかチャーミング。圧倒されたり愛でたりと、夢見心地な気分で楽しみました。

「現在は共立女子学園の講堂として使われていて一般の方が入る機会は限られているので
こうして中を見学できるのはとても貴重なんです」と十時さん。
まず入口で迎えてくれるこの作品は、かつて舞台幕だった一部。
以前の舞台幕の全体像はこちら。中央上の木に並んでいる猿が先程の写真で、
舞台幕の壮大さと繊細な表現を同時に感じられます。
講堂に入ると目に飛び込んでくる立派な桜の木は、現在の舞台幕。
面一杯の黄金色が舞台を一層華やかに際立たせていてじっと見入ってしまう…。
格式に一役買っている壁の木片は、吸音するために施されているのだとか。
均等に並ぶ木片と模様の移ろいがとても美しい。
見上げると天井と2階席のアーチが混ざり合ってダイナミック。
この緩やかな曲面は豊かな音響を生み出すために考えられたもので、
鑑賞と実用が兼ね備えられているそうです。
アーチはさまざまなところに散りばめられていて、
行き届いた一手間に名建築たる所以を感じる…。
耐震のために補強した梁もアーチ仕様に! 元々のデザインに馴染んでいます。
アーチを探し求めるように2階へ。
ここにもカーブの効いたアーチを発見。
2階席は傾斜がしっかりありいい眺め。
客席もアーチになるように中央と左右で高さが異なるように設計されています。
この日ボランティアとして案内に立たれていたのは、なんと共立女子中学高等学校の卒業生!
「久しぶりに中に入りましたが、改修を経てきれいになっていたり変わっている箇所がありつつも、
いま見ても懐かしいと思えてとても感動しています」と
かつての建築を実際に体験していた方のお話を聞き、味わいが一層増しました。
1938年の創建当初の様子。正面のデザインはいまと大きく異なっていたようです。
1956年に発生した火災の後、再建されたのがこの写真。
記録によるとわずか1年で再建したそうで、並々ならぬ思いがあったことが伺えます。
2000年以降耐震などの改修を何度か行っているものの、
このまちに欠かすことができない風景の一部として守り続けられる共立講堂。
次に見学できる機会まで、その美しさに思いを馳せつつ楽しみに待っていたい建築でした。

後編に続く

Edit/Text: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI), TADA

神田いらっしゃい百景|神保町シアター/神保町よしもと漫才劇場

神田の街を歩くと次々に目に飛び込んでくるお店たち。色とりどりの看板や貼り紙は、街ゆくすべての人に向けて「いらっしゃい」と声をかけているようで、街の人の気風を感じることができるでしょう。

神田いらっしゃい百景は、街に溢れる「いらっしゃい」な風景をご紹介します。

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神保町シアター
神保町よしもと漫才劇場
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-23
アクセス:
JR・地下鉄御茶ノ水駅より徒歩8分
地下鉄神保町駅より徒歩3分

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フォトグラファー 池ノ谷侑花
オープンカンダ撮影スタッフ。
高校生の時から通っている劇場。
わたしの青春を共に過ごしてきた大切な場所です。

より安全で、より快適な、あたらしい防災を考える|こんなだった、なんだかんだ8

防災とは、災害に備えること。それは、災害自体を「未然」に防ぐものから、被害の「拡大」を防ぐもの、被災からの「復旧」まで含めることがあります。
私たちは日々さまざまな災害と隣り合わせで生活していますが、じっくりと防災について考える機会はあまりないもの。そこで、9月1日を「防災の日」とし、そんな災害や備えについて理解を深める防災啓発デーに定められています。

いい時間といい出会いの場をつくることに取り組んできた「なんだかんだ」でも、9月1日に合わせてあたらしい防災アプローチを探求する場を企画しました。
テーマは、「快適な避難所」。必要な備えの中に、苦しい状況でも少しの快適さを得られるような知識やアイテムが神田ポートに集まりました。

当日は台風接近により、規模を縮小して安全を確保しての開催となりましたが、それもまた災害時の対応の一つ。あらゆる状況に応じて、備えておくべきこととは何か。いざという時に向けた、防災への心構えと準備の練習となりました。

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●現場のプロから、救命処置を改めて学ぶ
男性看護師集団・Nurse-Menの救命処置体験

会場の神田ポートには、横たわるマネキンが二体。もしこれがマネキンではなく、自分の目の前で突如倒れた人だとしたら…。人命救助の場面は、いつどこで起きるか当然わかりません。実際にその場に出くわした時、対応を調べているちょっとした間にも命の危険性が高まってしまいます。

ずいぶん前に講習を受けたきりで記憶が曖昧だったり、情報がアップデートされていなかったりという方も多いはず。そこで、全国各地で救護活動を行う男性看護師集団・Nurse-Menの皆さんによる救命処置体験が行われました。

まず、倒れている人がいたらどうするか。一刻一秒を争う救命処置ですが、まずは意識の確認、119番へ電話、AEDの確保…と迅速に対応しなければなりません。そのため、周囲に人がいる状況であれば、助けを呼ぶことがとても重要です。その時に「誰か」とお願いするのではなく、相手の目を見て「青いジャケットを着ている男性のあなた」「白いトートバックを持っている女性のあなた」と、自分だと認識してもらうこと、緊急時だからこそ丁寧に正確に声をかけることが大事になります。

ひと通りのレクチャーを受けた後は、いざ心臓マッサージとAEDの操作を実践。救急車が到着するまでの数十分間、かなりの力で押し続けなければなりません。骨が折れてしまうのでは…と初めは躊躇気味だった参加者も、「骨は折れても治るけれど、命が失われてしまってはどうにもならないので躊躇なく!」とNurse-Menの方の言葉でハッとしたように力が入ります。

AEDも日常生活でほとんど意識することがないので、どこにあるのか、どう使うのかわからないもの。ですが、いまのAEDは蓋を開けると手順をアナウンスしてくれるのでそれに従うことで初めてでも使うことができます。
使い方がわからずとも、「使い方はアナウンスしてくれる」ということを知っているだけで、焦りが一つ解消される。こうした些細なことでも知識として持っておくことで一秒でも早い対応につながると感じられました。

なにより、さまざまな現場を見てきたNurse-Menの方々の頼もしさが身に沁みるばかり。ほんの数分のレクチャーでいざという時に教えてもらった通りに動けるかというと不安ではありますが、ここで得た心強さを保ち続けられるよう折に触れておさらいしたいと思います。

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●備えがなくても、知恵を駆使してサバイバル!
防災ワークショップ 都市サバイバル編!身近なモノで生き残れ!!

救命処置の体験の隣では、被災地での移動式遊び場の展開や、防災教育などを手掛けるかーびーさんによる防災ワークショップ。災害時の都市で生き残るためのサバイバル術を体験型ワークショップにして伝授してもらいました。

地震が起きたらどう身を守るか、怪我人をどう運ぶか、避難所で食器がなかったり寒い時にどう工夫するか。あらゆるシチュエーションで、備えがないという時にも対応できる知識を教えてくださいました。

頭で理解した後は、身体に覚えさせることが何より大事。ということで、ワークショップ形式で実践へ!大人も子供も参加できるゲーム形式で、身体を動かしていきます。

例えば寒い時には紙を丸めて服の中に入れたり首に巻くと、それだけで防寒に。実際に服に入れてみると空気が閉じ込められる感覚がわかります。
ものの備えももちろん大切ですが、いつでも手を離れることのない知識を持つことの大事さも感じました。

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●いざという時に食べられるものではなく、いざという時に“おいしい”ものを
防災グッズ「ソナエテ」/「THE SOKO」販売

一階のスペースでは、防災グッズの販売が行われました。
一つ目のブースは、防災セットの「ソナエテ」とおいしさを重視した長期保存食「イザメシ」。
イザメシは、賞味期限が3年のものが多く、他社の保存食と比べると短めですが、これは味を重視してさまざまな食材を使用しているから。賞味期限が3年を越えると途端に使用できる食材が限られ、味のバリエーションもクオリティも狭まってしまうそうです。
さらに、栄養バランスが偏りがちな保存食の中で、イザメシは野菜たっぷりのメニューや台湾料理などバリエーションが豊か。純粋に食べてみたいものばかりで、保存食選びが楽しくなるラインナップでした。

防災袋セットの「ソナエテ」は、クリエイティブグループ・Bob Foundation監修によるインテリアとしても映えるデザインが魅力。袋はリュックとキットとポーチの3パターンがあり、中には本当に必要なものだけが揃っており、そこに自分なりに追加する余裕もあるそうです。なぜそれが入っているのか、なぜそれを選んだのか。理由を聞いていくうちに、自分にはどんな防災セットが必要なのかイメージが膨らんでいきました。

もう一つ目のブースは、神田錦町のオフィス向けの防災備蓄品ワンストップアウトソーシングサービス「THE SOKO 錦町」。安田不動産株式会社が株式会社Laspyとともに展開するオフィステナント向けの備蓄セットを、個人向けパックとして販売されました。
備蓄品のラインナップは、プロジェクトメンバーが実際に食べ比べて選んだおいしい保存食を揃えたセット。避難時は食事が限られるからこそ、味を楽しめることは気持ちをほぐす役割として非常に大事だと言います。クマのロゴマークもチャーミングで、目が合うとなんだかほっとしそうです。

防災グッズはいまやかなりの種類が展開されています。何を選べばいいか悩ましいかもないけれど、とにかく長く保存できるものだけでなく、長く保つものと、味が好みなものをそれぞれ備えておくという選択も大事だと感じました。そんな小さな判断の一つが、不安な心を支えるかもしれません。
そして、どちらのデザインも部屋の目立つところに置いてもおしゃれで映えるというのもポイント。いざという時にクローゼットの奥から取り出すのではなく、すぐ手の届くところに置いておきたくなることで、日々の安心感にもつながりそうです。

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●地域の方と防災でつながる
炊き出し/備蓄品の無償提供/テント「konoha」体験

他にも、災害・防災にまつわる体験やアイテムを展開しました。

会場に漂ういい香りは、神田錦町の地域の方に協力いただいた「炊き出し」。じゃがいもを蒸したり、揚げたり、チップスにしたり、さまざまな味でいただきました。お腹に溜まるとともに、地域の方につくってもらった温かみを感じます。
東日本大震災の時も町会のみなさんが協力し合い、おにぎりなどの炊き出しをしていたそう。防災というテーマを通して、神田錦町の人たちとの交流する機会となりました。

炊き出しの他にも、千代田区が備蓄している防災食や携帯トイレを来場者の方々になんと無償で提供。ハザードマップは頭に入れておきたいところです。

さらに、ほぼ日オリジナルのテント「kohaku」が登場し、テントの中でも楽しめる遊びを展開しました。テントがあるだけでわくわくするとともに、空間が仕切られている安心感もあります。遊びや息抜きも生活に欠かすことができない要素の一つ。避難所のテントを遊びの空間のために使うということも、とても大事な選択だと感じました。

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防災についてじっくりと考える機会となったなんだかんだ8。
何かを教えてもらうたびに心強さを感じ、知識はそれだけで大きな備えになると実感しました。また、災害時はさまざまな苦難が起きますが、苦難を取り除くことは難しくても、苦難をやわらげる術を持つことも非常に大事です。
もちろんこうした知識が活用されずにいることが望ましいですが、いつ何が起きるかはわかりません。だからといって後ろ向きにならず、今だからこそ備えられることにしっかり目を向けることが、被害や苦難を少しでもやわらげることにつながると感じました。
そんなことに気づかされながら、防災に取り組む方々の力強さに触れて、たくましさを分けてもらったなんだかんだ8でした。

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI),
Yuka Ikenoya(YUKAI),
Mariko Hamano

歴史が根付く場で生まれる、ドラマチックないい時間|こんなだった、なんだかんだ7【前編】

2024年7月19日から21日の三日間、「なんだかんだ7 〜ロードショー〜」を開催しました。
2023年から神田錦町を中心にスタートし、路上に畳を敷いて、いい時間といい出会いの場をつくってきた「なんだかんだ」。第7回目は、神保町での文化拠点の一つである岩波神保町ビルと、2025年1月で休館となる学士会館を会場に実施しました。

数々の物語を生み、多くの人の思い出が詰まった場所を舞台に行われる今回のスローガンは「なんだかんだと、街がドラマになる」。この地に根付く歴史と文化に触れながら、そこから生み出されるドラマチックな出会いや体験を楽しむ時間をお届けしました。
例によって、何が起きるかは当日集まる人たち次第。会場のあちこちで起きていくドラマを追いかけました。

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ドキュメントムービーはこちら▼
(YouTubeにリンクします)

クリエイティブディレクション:池田晶紀
監督・撮影・編集:菊池謙太郎

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●なんだかんだ7は、特別なあの場所が舞台

今回の舞台は、路上ではなく岩波神保町ビルと学士会館。歴史ある場で一体何が起きるのでしょうか。期待を膨らませながらいざ現地に立つと、その場の雰囲気にどこか背筋が伸びます。

1967年に建設された岩波神保町ビル。10階には文化活動のためにつくられたホールがあり、映画の上映を中心に多くの方に親しまれていました。ホールは2022年をもって閉館となっていますが、この日は特別に使用できることに。

再開発のため2025年1月から一時休館となる学士会館。国の有形文化財に登録される建物は圧巻ですが、「なんだかんだ」の装飾も意外と馴染みます。

長くこの地で親しまれ、神田の大先輩である二つの建物。そんな場所で新たな取り組みが開催できるありがたみを感じつつ、ものすごく特別な日になりそうな予感がしてきます。
そして、まだ日は沈みそうにない夕暮れ時。交差点に面したステージにて、神田錦町にある正則学園高校ビッグバンド部の生演奏とともに、なんだかんだ7の開会式がスタート!

交差点に音色が響き渡り、道ゆく人も「かっこいいねぇ」と惚れ惚れ。区長や町会長からの挨拶も行われ、なんだかんだ7は華やかに開幕しました。

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●無骨な地下は、爆音と陽気さがよく行き届く
やついいちろう、清水みさと「地下だけど、なんだかんだ盆踊り」

岩波神保町ビルの会場は、イベントホールの他に地下にもあります。地下にはかつて二つの飲食店がありましたが、現在は跡地となっていてインダストリアルな空間に。そんな場所を使ってまず行われるのは、なんだかんだで恒例になりつつある、芸人のやついいちろうさんによるDJタイムです。

コンクリートに囲まれて静けさと物々しさのあった空間も、爆音が響けばダンスフロアに早変わり。女優の清水みさとさんもゲストに加わり、弾き語りや合いの手で湧かせてくれて異常な盛り上がりに!気持ちいい音楽と笑いで埋め尽くされていきます。

この飲食店跡地は神保町駅の地下通路に直結しているということもあり、愉快な雰囲気はじわじわと外へ。足早に帰路に向かう仕事帰りの方々にも爆音を届けていきます。
一時間たっぷり踊り、皆汗だくになったDJタイム。地下だけどふしぎと開放的で、爽快なひとときでした。

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●学士会館の凄さをあらゆる角度で浴びまくる
共立女子大学 建築・デザイン学科 藤本ゼミ、東京都市大学 都市生活学科 中島ゼミ、錦城学園写真部「学士会館って、だから凄いのか!」展

DJタイムが行われている隣では、学士会館の凄さに迫った展示の空間に。
1928年に建設され、100年近くの歴史を紡いできた学士会館。一目見ただけで圧倒されてしまう場所ですが、なぜこんなにも惹き込まれ、愛されているのでしょうか?そんな問いに対し、学生がさまざまな観点から研究しました。

研究に参加したのは、共立女子大学 建築・デザイン学科の藤本ゼミ、東京都市大学 都市生活学科の中島ゼミ、錦城学園の写真部の皆さん。共立女子大の学生は、建物の中で目に留まったものを観察してスケッチと言葉にし、東京都市大の学生は、学士会館に通う方々にインタビューを行い、人それぞれのエピソードをまとめました。錦城学園写真部は部員全員で撮影会を行い、数百枚にも及ぶ写真に収めました。

怒涛の写真とスケッチとテキストによって、学士会館の魅力を深いところまで味わえる展示は見応えたっぷり。展示を見ながらお客さんの感想も聞こえてきて、さらに魅力が溢れていきます。
どんな角度から見ても、学士会館って凄い!と再確認するとともに、岩波神保町ビルとの調和も楽しめる貴重な展示でした。

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●みんなで踊るって、なんでもできてこんなに気持ちいい!
篠崎芽美+青山健一+関根真理「ダンスワークショップ “chika〜chijou”」

2日目にはなんだかんだ常連のダンサー・振付師の篠崎芽美さんチームが地下空間に登場。
がらんとした飲食店跡地を広々と使って舞い踊ります。音楽家の関根真理さんのライブ感溢れる演奏も相まって、お客さんも次第に巻き込まれていき、大所帯の宴へ…。

皆さんの動きがしなやかになってきたところで、あたりは真っ暗に。ダンサーたちがライトを灯し、壁に大きな影が映し出されると、ペインター・映像作家の青山健一さんがゆらゆら動く影絵に呼応するようにダイナミックにペインティング!子供たちも加わり、絵は縦横無尽に広がっていきます。

気の向くままに何人もの人が一緒に筆を走らせると、次第に一体感に包まれていきます。たっぷり描き込んだところで地下でのパフォーマンスは終了!そして会場は地下を飛び出し、地上10階のイベントホールへと移ります。

ホールをぐるぐるダンスしながら練り歩き、大人も子供もステージへ。芽美さんから「明日やりたいことは何?」と問いかけられ、「ポケモンカード!」「アイスを食べる!」「模型を作る!」など答えが飛び交うと、なんとそこから踊りをつくり出していきます。
思わぬ展開に見ている側も釘付け。いつもあの手この手で自由で楽しい時間を作り出してくれる篠崎芽美さんのダンスに、音楽とドローイングが加わって、さらに感動的で唯一無二の体験となりました。

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●猛暑でも絶やさないホスピタリティを浴びる
「飲食とサウナと、あそび場と」

岩波神保町ビルの外では、隣接する駐車場に食べたり遊んだりととのったり、さまざまな体験が集まりました。
次々に人が吸い込まれていく大型トラックは、モバイルサウナの「サウナフリーザー」です。サウナ室とアイスルームが併設されていて本格的。猛暑によって火照り切った体もアイスルームが爆速で冷やしてくれます。

サウナラボのマイスターがゲリラでウィスキングまでしてくれるという贅沢なおまけも。富良野の白樺の香りが漂います。

さらにサウナフリーザーの隣には、移動式あそび場や、神田ポートのご近所にある喫茶プペさんや廣瀬與兵衛商店さんの屋台も出店!容赦のない暑さでしたが、皆さん笑顔を絶やさずお客さんたちをもてなす様子に心あたたかな空気に溢れた空間でした。

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●絵本の世界を“体感”する
廣瀬弘子/サンプルパパ+竹下花音「食育講演会〜音楽と絵本の朗読会」

再びホールでは、食育インストラクター・廣瀬弘子さんによる食育講演会がスタート。心と体、そして人間性を育てていくことが目的である「食育」。健康だけでなくさまざまな面に影響があることを学んで、大人も日頃の食事を改めて見直したくなりました。

講演の最後は、絵本ソムリエのサンプルパパさんとチェリストの竹下花音さんも加わり、廣瀬さん作の絵本の読み聞かせ。臨場感のある朗読と美しいチェロの音色が絵本の世界へと誘います。

続く音楽と絵本の朗読会では、さらにいろいろな絵本を朗読してくれました。

文と絵に、耳からの情報も加わることで、一人で読むときには決して味わうことができない贅沢な体験に。絵本を読むというより、絵本の世界を体感するようなひとときでした。

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●自由であたらしい、ここだけのシェイクスピアの世界へ
カクシンハン「納涼!みんなでおどろう、みんなでうたおう、シェイクスピア夏祭り」

一日の締めくくりとなる演目は、劇団カクシンハンによるシェイクスピアを題材にした移動式演劇。屋外ステージ、ホール、地下空間に神出鬼没に現れては、その場を作品の世界へとあっという間に変えていきます。

作品の世界に入り込んだかのような近すぎる距離感に戸惑う間もなく、たまたま居合わせた大人も演劇に加わろうとする子供たちも自然に巻き込んでいきます。

クライマックスは学士会館へ移動して、ロミオとジュリエットを披露!ジュリエットの人数が多い気もしますが、お客さんも一緒に名台詞を叫んで最後は大団円。
歴史ある建物で名場面が観ることができ、ものすごい瞬間に立ち会ってしまったような忘れられないパフォーマンスでした!

後編へ続く

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI),
Yuka Ikenoya(YUKAI),
Satomi Ebine, Akiko Sugiyama,
Miyu Takaki, Mariko Hamano

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