神田いらっしゃい百景|明治大学

神田の街を歩くと次々に目に飛び込んでくるお店たち。色とりどりの看板や貼り紙は、街ゆくすべての人に向けて「いらっしゃい」と声をかけているようで、街の人の気風を感じることができるでしょう。

神田いらっしゃい百景は、街に溢れる「いらっしゃい」な風景をご紹介します。

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明治大学 駿河台キャンパス
〒101-8301 東京都千代田区神田駿河台1-1
アクセス:
JR・地下鉄御茶ノ水駅より徒歩3分
地下鉄新御茶ノ水駅より徒歩3分
地下鉄神保町駅より徒歩5分

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フォトグラファー 池ノ谷侑花
オープンカンダ撮影スタッフ。
明治大学の自動販売機には「明大茶」が売ってました!
買って飲みました。賢くなれた気がします。

4つのまちがひとつになる日。太田姫稲荷神社例大祭 後編

御茶ノ水駅、神保町駅、小川町駅の中間地に、オフィスビルや大学に囲まれて静かに佇む神社があります。その名は、「太田姫稲荷神社」。そんな太田姫稲荷神社にて、2024年5月11、12日に例大祭が開催されました。

駿河台東部町会、駿河台西町会、小川町二丁目南部町会、錦町一丁目町会の4町会が集まって一基のお神輿をリレー形式で繋ぐのが特徴。町会が異なるため普段の関わりはそう多くはないものの、氏子という長く深い、独特な繋がりは二年一度でも強固な結束を見せます。

エリア内には、オフィスビル、大学、楽器屋、駅、首都高などがあり、町会ごとに見せる街の表情はさまざま。まちからまちへと繋がっていく、太田姫稲荷神社例大祭ならではの風景をたっぷりご紹介します。

前編はこちら

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●神輿巡行 神田錦町一丁目

式典の翌日5月12日、いよいよ神輿巡行。朝から夕方までかけて、駿河台東部、駿河台西、小川町二丁目南部、錦町一丁目をじっくりまわります。まずは太田姫稲荷神社の宮出しから、錦町一丁目へ。6年ぶりの長い一日のはじまりです。

朝8時前。太田姫稲荷神社には半纏に身を包んだ人、人、人
4町会の氏子のみなさんが勢揃い
数分経ってさっそく宮出し
お神輿の登場で、あっという間に神聖な空気に
手前にいる黒い半纏を着た方が「氏子青年部」
背中に描かれているのは太田姫稲荷神社の紋である桔梗紋
はじめは4町会の皆さんで一緒に担いでいざ出発
ビルとお神輿のコントラストがこのエリアらしい風景
4町会の高張提灯がずらり
手拭いを締めた女性たちが先導する様子はとっても粋
開始5分なので、まだ余裕の表情
太田姫稲荷神社からお茶の水仲通りを抜けて靖国通りへ
車道を一時通行止めにして、多くの人に見守られながらお神輿は進んでいきます
先陣を切る各総代が勇ましい
神田スクエアに到着してひと休憩
開始から20分程ですがもう肩パンパンだよ!とこぼす人も
神田警察署署長が一本締め
気を引き締め直して再出発です
藤井町会長が営む会社の前でお神輿を差し上げ
出発から1時間半ほどで神田橋の手前まで到着
首都高を横目に、お神輿はじりじりと練り歩きます
神田橋交差点が大きな見せ場
高張提灯が中央に並び、その周りお神輿がぐるっと回ります

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●神輿巡行 神田小川町二丁目南部

錦町一丁目をぐるりと回り、次は小川町二丁目南部へ。範囲はごく一部ですが、スポーツ用品店や書店が並ぶ、靖国通りに面した賑やかなエリアで注目が集まります。

神田橋交差点を曲がると、本郷通りをまっすぐ進んで小川町方面へ
ビルに囲まれた大通りを、高張提灯を筆頭に空気を変えていきます
一本路地に入った細い道も、みんなで見守りながらお神輿は進みます
2024年6月に惜しまれて取り壊しとなった「顔のYシャツ」の看板にもご挨拶
再び靖国通りに出て小川町交差点をぐるりと一周
街行く人も増えてきて注目が集まるとともに、緊張感も高まります
普段はスーツ姿の人が多いエリアが
桔梗紋の半纏に埋め尽くされるのもこの日ならでは
再びお茶の水仲通りへ
3時間かけて太田姫稲荷神社に戻り、午前の部が終了!
小一時間休憩して、午後の部に備えます。

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●神輿巡行 駿河台西

午後の部は太田姫稲荷神社を再び出発して、午前とは逆の御茶ノ水方面を目指します。駿河台西は明治大学や日本大学のキャンパスがあり、楽器街としても有名なエリア。ここからは子どもたちも参加してさらに盛り上がりを見せていきます。

午後の部は子ども神輿からスタート
駿河台西のエリアにあるお茶の水小学校の子どもたちが100人近く大集合
お神輿を担いだり、山車を引いたり、太鼓を叩いたり
小さな体で力強く進んでいきます
少し遅れて大人のお神輿も再出発
まずは明治大学駿河台キャンパスに向かいます
現在のキャンパスは1998年に建てられたものですが
前身となる明治法律学校がここ神田駿河台に拠点を置いたのは1886年(!)
明治大学のOBや学生も参加して大盛り上がり
続いて40以上もの楽器店が並ぶ駅前通りへ
お店からこぼれ聞こえる音楽と、お神輿の掛け声が混ざり合います
この界隈で最も古い楽器店と言われている、黄色の看板が目印の下倉楽器
ずらりと並ぶ楽器たちがお神輿を見守ります
緑の多いかえで通りをまっすぐ抜けて御茶ノ水駅へ
改札ぎりぎりまでお神輿が入っていくのが太田姫稲荷神社例大祭の名物
駅長が一本締め!
御茶ノ水駅を出て東へと向かいます

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●神輿巡行 駿河台東部

神輿巡行もラストスパートへ。駿河台東部は、高層ビルを見上げるニコライ堂が印象的な、新旧が入り混ざるエリア。すでに開始から8時間が経過していますが、最後の力を振り絞ります。

改札を出て、御茶ノ水駅前すぐの歴史ある商店街・茗渓通りを進む
新御茶ノ水駅の広場で最後の休憩
交差点の向こう側に、太田姫稲荷神社が最初にこの地に遷座した場所があります
区長が一本締めを行い、ラストスパートへ
出発してすぐ見えてくるのは、重要文化財であるニコライ堂
現在の姿は関東大震災で被災した後の1929年に修復されたもの
開始から時間が経ってもたくさんの人数で見守ります
駿河台の景色を映す大きなビルを背に、お神輿は一歩一歩踏みしめて進んでいく
最後は駿河台から太田姫稲荷神社までの長い一本道
ゆっくりと歩きながら宮頭の木遣に導かれる宮入道中の様子は圧巻!
最初から最後まで多くの人に見守られ、三本締めで約10時間に渡る巡行が終了
お疲れさまでした!

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時の流れとともに、例大祭という伝統を受け継いでいく。それは同じことを繰り返しているのではなく、いつの時代も変わらずにあるための試行錯誤の積み重ねを感じました。
まちの風景が変わってもお神輿と半纏がどこか馴染むのは、そうした積み重ねの現れかもしれません。

次の開催は2016年。二年後はどんな風景が生まれるのか、まちの移ろいを感じながら楽しみに待ちたいと思います。

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Akiko Sugiyama

4つのまちがひとつになる日。太田姫稲荷神社例大祭 前編

御茶ノ水駅、神保町駅、小川町駅の中間地に、オフィスビルや大学に囲まれて静かに佇む神社があります。その名は、「太田姫稲荷神社」。
かつては御茶ノ水駅すぐそばにある聖橋の袂に構えていましたが、1931年に御茶ノ水駅の総武線拡張により現在の場所に移転しました。その後2013年には改修工事が行われ、美しく風格を漂わせながら街を見守り続けています。
そんな太田姫稲荷神社にて、2024年5月11、12日に例大祭が開催されました。

太田姫稲荷神社の例大祭は二年に一度開催され、4つの町会が集まって一基のお神輿をリレー形式で繋ぐのが特徴。同じく神田で開催される神田祭では一つの町会につき一基のお神輿を担いで順番に宮入りをしますが、複数の町会が代わる代わるお神輿を繋ぐというのは太田姫稲荷神社例大祭ならではです。

太田姫稲荷神社の氏子(氏神が守護する地域に住む人々)は、駿河台東部町会、駿河台西町会、小川町二丁目南部町会、錦町一丁目町会の4町会。町会が異なるため普段の関わりはそう多くはないものの、氏子という長く深い、独特な繋がりは二年一度でも強固な結束を見せます。

エリア内には、オフィスビル、学校、楽器店、大聖堂などがあり、町会ごとに見せる街の表情はさまざま。そこにお神輿と半纏に身を包んだ人々が集まると少し不思議な光景ですが、熱気がじわじわと街中に広がっていく様子は、太田姫稲荷神社例大祭の醍醐味と言えるかもしれません。
まちからまちへと繋がっていく、例大祭ならではの風景をたっぷりご紹介します。

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●インタビュー
伝統を繋ぐために、変えないことと変えていくこと

当日の様子を紹介する前に、街の方々はどんな思いで例大祭に挑んでいたのでしょうか?
30年以上太田姫稲荷神社の例大祭に参加してきた、錦町一丁目町会の藤井城町会長に例大祭終了後にお話を伺いました。

——天候にも恵まれ、無事に当日を終えられていまどんなお気持ちでしょうか。

藤井 今回は2018年以来の開催ということで間が空いてしまいましたが、その分準備を入念に行ったので、怪我がなく終えられたことと無事に伝統を繋ぐことができたことに安堵しています。

——藤井町会長は長く例大祭に参加されていらっしゃいますが、伝統を受け継ぐ中で変化を感じる部分はありますか?

藤井 これまで30年以上参加していますが、祭りとしての軸の部分は変わっていません。ただ、今年は6年ぶりだからか町会の役員から現場の担ぎ手まで、世代の移り変わりを強く感じましたね。
一方で、今年は意識して変えた点があります。太田姫稲荷神社の例大祭は4つの町会で行うので、祭りを仕切る町会は当番制にしていたのですが今年からそれを廃止したんです。というのも、当番制にすると各町会に担当が回ってくるまでに8年もの間が空くので、タイミングによっては町会の人数が豊富でなかったり、継承できる人が少ないことがあるんです。かといって人数が多い町会が常に仕切ってしまうとパワーバランスが悪くなる。そこで各町会からメンバーを募って、準備段階から中心となって仕切る「氏子青年部」という組織を立ち上げました。

——各町会から必ず誰かが関わることで属人的にならず、毎年各町会に受け継ぐことができますね。

藤井 今年は前回の開催から間が空きましたが、結果的に体制を整える期間になったと思います。また、今年は「氏子青年部」を結成した意義が問われる年でもありましたが、それまで一部の人しか把握できていなかったことも、今回氏子青年部の若いメンバーが早い段階から動いてくれたおかげで広く継承されて、次の2年後にもうまく繋がるような手応えがありましたね。

——一日巡行を同行して、各町会がお互いを見守っているような空気でとてもいい雰囲気に感じられました。

藤井 そう言っていただけると嬉しいです。昔は自分たちの地域だけ担いだらそこで終わり、という空気が少なからずあったのですが、氏子青年部を立ち上げたように各町会みんなで例大祭を一緒に作り上げる、ということを意識していたんです。それぞれの町会長に何人くらい青年部に入ってほしいと掛け合ったり、会議や懇親会を定期的に開いたりと、少しずつ関係性をつくってきたので当日それがいい雰囲気として現れたのだと思います。

——太田姫稲荷神社の例大祭は、地域にとってどのような存在でしょうか?

藤井 4つの町会は太田姫稲荷神社によって繋げられている関係なんです。これがなければ付き合いはなかったんじゃないかと思いますが、だからこそ町会という垣根を越えて、同じ氏子としてのプライドを持っていきたいですね。規模としては神田明神で行われる神田祭のほうが大きいですが、異なる町会が結束するというのは太田姫稲荷神社ならではなので、このご縁は大事にしながら町の皆さんとしっかり受け継いでいきたいです。

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巡行前日の5月11日には式典が行われました。この日は千代田区長はじめ神田警察や消防署の署長、町内の企業、4町会の総代が社殿内に集まり、お祓いを受けます。
6年ぶりの開催は晴天すぎる晴天に。社殿の外に溢れるほどの人が集まりながらも、式典は神聖な空気に包まれていました。

拝礼を終えて最後は集合写真。
久しぶりの開催を喜びを噛み締めるように、みなさん笑い合っていました。

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翌日はいよいよ6年ぶりの例大祭。
4つの町会を大移動する神輿巡行を、写真多めでたっぷりご紹介します。

後編に続く

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI),
Akiko Sugiyama

障がいや病気があっても旅を諦めてほしくない。「ume, yamazoe」から広がる旅の未来|こんなだった、なんだかんだ6

「日常と違う場所に飛び込む」ことは、旅でこそ味わえる楽しみの一つ。
ですが、障がいや病気がある方にとってはそれがハードルにもなり、日常と違うけれど飛び込んでも大丈夫だと思える場所は選択肢が非常に限られてきます。

そうした現状を変えるためには、設備やサービス、制度などさまざまな面のあり方を考える必要がありますが、独自の取り組みをしているのが、奈良県東部の山添村にある宿泊施設「ume, yamazoe」です。障がいや病気がある方とその家族に向けて旅の選択を増やすことを目指した「宿泊招待 HAJIMARI」という名の取り組みは、山奥の小さな宿から少しずつ反響を呼んでいる現在。どのようにして不安をほぐしながら、旅の楽しさを届けているのでしょうか。

今回はume, yamazoeを運営する梅守志歩さんとHAJIMARIのメンバーとしてともに取り組む桂三恵さんをゲストにお招きし、取り組みへの想いや課題、これからについてをお話しいただきました。
題して、「なんだかんだ6 〜ume, yamazoeの取り組みいろいろ聞いてみようか 〜」の開催です。

この日はume, yamazoeがある山添村の山で取れた葉っぱや、お茶を煮出して作ったロウリュ水を用意したスペシャルサウナも実施。奈良名物の飛鳥鍋も特別メニューとして用意し、山添村を肌と舌で感じながらトークの時間へ移ります。

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●障がいや病気がある方の、旅への気持ちをほぐす

ume, yamazoeがあるのは奈良県山添村。コンビニもスーパーもなく、85%が森林、15%が住居といった自然に溢れた集落にあります。築100年以上の建物を使った宿は、段差や坂道が多くて電波が入りづらく、不便で不自由とも言える環境だそうです。しかし、それゆえにこの場所でしか味わえない時間があり、旅の目的地として訪れる方も多い人気の宿となっています。

そんなume, yamazoeでは、2022年から障がいや病気のある方とその家族を無料で招待する「宿泊招待 HAJIMARI」という取り組みをスタートしました。「無料で招待する」という思い切ったこの取り組みはどのように始まったのでしょうか?
「本日のイベント、東京で開催ということで、だいぶドキドキしながら奈良の山奥からやってきました。ただ今サウナに入ってきたのもあって、気持ちがふわっとしてるかもしれないです(笑)」とはにかみながら梅守さんが話してくださいました。

梅守「障がいや病気がある方にとって外食や旅行をすることは、物理的なハードルよりも心理的なハードルがあるんじゃないかなと考えていました。例えば、医療機器をつけているとびっくりされるかもしれないとか、障がいによって急に大きな声を出すかもしれないとか、周りからこう思われるんじゃないかという理由で諦めてしまうことが結構あるんです。
そこで、旅をしたいけどできないと感じている方たちに、施設側から『ここならできますよ!』と迎えることでまずは気持ち的なハードルを下げていきたいと思って取り組みを始めました」

そんな梅守さんの強い想いとともにはじまったHAJIMARI。宿泊招待の他にも、さまざまな施設で同様の取り組みが実施できるよう、宿泊事業者向けに「障がいや病気がある方への接客研修プログラム」も開発・展開しています。

梅守「2年間さまざまな方を招待して、ちょっとした心構え一つで超えられるハードルがたくさんあると気が付いたんです。そこで、私たちが培ってきた心構えや接客ノウハウを、研修プログラムにして広めていくことを始めました。
やっぱり私たちは山の中にある小さな宿なので、ここだけで取り組んでも世界は変わらないと感じていて。でも、研修を通してもっと多くの地域で迎えられる場所が増えれば、障がいや病気がある方がより外出しやすい未来になるんじゃないかと思うんです」

●目の前のできることからはじめていく

実際にHAJIMARIでは、どのようにして「ちょっとした心構え」でお客さんを迎えているのでしょうか。

梅守「訪れる方も招く方もお互いはじめて接するので、どこまでのことならできるか毎回伺いながら、可能な限りトライできるようにしてます。体が不自由な方を担いでサウナに入ってもらったこともありますが、新しいことに挑戦する様子を見てご家族もとても喜んでくださいました。でも、実際そこまで特別なことをしているわけじゃないんです。
車椅子を押すことは技術が必要なのでできないけど、車椅子の周りにいっぱいある荷物を一緒に運ぶことはできるし、食のこだわりが強い場合は、メニューにはなくても作れる範囲で対応する。基本的にできる範囲のことしかしてなくて、ハード面を整えたりお金をかけずとも、いまあるスペックでできることがたくさんあるんです」

専門的な知識はなくても、一歩寄り添って考えるだけでできることは大幅に広がる。そのことに気づくだけでも十分に意味があると話します。
そうした日々の気づきを取り入れた研修プログラムは、現在もブラッシュアップ中なのだそう。HAJIMARIのメンバーとして活動する桂三恵さんは、研修を通しての課題を話してくださいました。

「さまざまな企業の方に研修を行う中で、伝え方がとても難しいと感じていて、一歩間違えると『そうは言っても自分たちにはできない』『何かあったら責任が持てない』と捉えられてしまいます。
自分が知らない障がいがある方への接客は不安もあると思いますし、知るほどにリスクも感じてしまう気持ちはわかるのですが…ただ知らないからと言って遮断するのも違うかもと感じていて…。
障がいに関係なく、お客さんからの要望に対してこれはできる・できないといった判断軸はどんな施設にもあるはずで、それに沿って対応することと同じなんです。病気や障がいがある人には優しくしないといけないという漠然とした固定概念も却って考えを狭めているような気がしていて。そうした考え方や不安を私たちの研修で取り払えると、できることが広がるんじゃないかと思っています」

●旅の楽しさを諦めてほしくない

日々宿を運営しながら、未来を変えるべく取り組み続ける梅守さんたち。そのまっすぐな想いには、ご自身の経験が根幹にあると話します。

梅守「私は四人姉妹の三女で、一番上の姉が後天的な重度の精神疾患があるんです。姉は短大を卒業して働いていましたが、ある日突然精神的に不安定になり、2、3歳ぐらいの知能にまで落ちました。またその2年後には妹が白血病を患い、無菌室の外から見守ることしかできなくなったんです。
そこからレストランに行ったり見たことがない景色を見に行ったり、家族みんなで何か同じ経験をすることは、私たちにとっては今後一度あるかないかという遠いものになりました。…というよりも、それは選択できるはずがなく、選択してもいいということさえ忘れてしまっていたんです。

どこか我慢して気持ちを閉じ込めたまましばらく日々が過ぎていったのですが、ある時自然の中でゆっくり過ごすことがあって、ふとそんな自分の心の状態に気が付いたんですね。自然や旅に出てその場に身を委ねることで、自分の気持ちだったり家族との関係を俯瞰して見直すというタイミングってあるんだなと思って。そこで、同じような気持ちを抱えている人にも心の状態を解消できるきっかけをつくりたいなと思いました」

HAJIMARIの取り組みを始めて2年が経つ現在も、お客さん一人一人とコミュニケーションを重ねながらその人にとっていい旅の時間を考えて提供しています。決まった正解はなく手探りの日々ですが、HAJIMARIを通して宿泊にきたお客さんからのあるメールが、梅守さんの目指すものに繋がっていると話します。

梅守「自閉症のお子さんとお父さんが宿泊に来てくださって、最初こそ不安そうにしていたのですが、少しずつ話してくれるようになり、最後は本当に楽しかったと言って帰ってくれました。その後お父さんからいただいたメールがとても心に残っていて、少し紹介させてもらいます。

“関わり方とかスタッフさんもよくわからないことがあったと思うんですけど、息子も大絶賛でした。当事者と家族が一番救われるのは、プロのテクニックではなくて、寄り添いやわかろうとしてくれるその気持ちです。同じ病気や障がいでも、人によって必要な配慮とか自分のやりたいことは全然違う。そのため、どんな人にも適用する魔法のテクニックはプロの現場でもありません。お客さんと一緒に手探りで対応策を決めて、楽しい時間を作っていくことと、お互いが無理せずにできることが一番いいんじゃないでしょうか”

私たちの取り組みは『福祉』というカテゴリーに括ることもできるかもしれませんが、福祉のことをやっている感覚はなくて。これこそ、私たちがこういう距離感でやっていけるといいなと目指していることなんです」

「ハード面で便利にしていけることはたくさんあるけど、そこを突き詰めると旅先にしかない魅力や楽しむ要素がどうしても減ってしまいます。お客さんがここに来て新しいことに挑戦したり積極的になれるのは、旅先で起こる発見やワクワクする感覚が損なわれていなかったから起こることだと思うので、『旅の楽しさを提供すること』は諦めずに大事にしていきたいです」

福祉サービスではなく、旅の時間をつくりたい。その想いが、HAJIMARIならではの体験につながっているのかもしれません。

●HAJIMARIが目指す景色

2年間で24組94名を招待し、今年また新たに12組程招く予定です。継続的に続けていく仕組みも検討されており、昨年は活動資金のクラウドファンディングを実施。今後は研修プログラムを広げながら、スポンサーを増やすことも考えているそうです。

梅守「『いつでも来てください!』と繰り返し発信しているうちに普通に予約してくださるようになって、この前は海外の観光客が一組、若いカップルが一組、車椅子の方のご家族が一組という組み合わせで。いろんなものを超えて同じ空間にいる感じがすごくよくって、私が見たかった景色がある!と思いました。
ただ、現状この取り組みが大事だと思っている人がまだまだいません。でも、誰しも何十年か経てば体の変化が起きるはずで、いまのように何も気にせずに旅ができるとは限らない。そう考えると障がいや病気がある方に向けた活動に見えるかもしれないですけど、本当は自分たちの未来を作るためにやってるんじゃないかなと思ってます」

●参加者のみなさんと対話実験

梅守さんと桂さんのお話は多くの気づきを与えてくれるとと同時に、大事な問いを置いていってくれました。ここからは参加者のみなさんと対話という形式で、そんな問いについて話を深めていきます。

「大変な話、難しい話で終わらせないためはどうするか」「障がいや病気でフィルタリングしない関わり方」「障害や病気のある人が身近にいない立場ができること」など、それぞれの経験や考えを通してゆっくりじっくりと言葉を重ねていきました。

さまざまな立場の参加者の言葉を受け取り、また自分の中で新たな言葉が湧き上がり、じんわりと熱を帯びていくその対話の場は、答えに向かっているわけではないけれど、確かな兆しに向かっているように感じられました。
1時間の対話を経て、改めて梅守さんと桂さんから感想をいただきました。

「言葉としては知っているけどわかっていなかったことがたくさんあるなと思っていて、例えば『自閉症』と言っても、感覚過敏の方も大きな声を出してしまう方もどちらも当てはまります。でも梅守さんを手伝うまで身近にいなかったので、漠然としたイメージしか持ってなかったことに気付かされました。

私自身、そこまで当事者意識があるとは言いづらくて苦しく感じることもあるのですが、たどり着いた考えがあって、『俺か、俺以外か』に尽きると思うんですよね。ローランドさんの言葉なんですけど(笑)
多様性ということでもなく、そもそもが違うというか。同じ障がいや病気でも、みんな違うし、嬉しいことも違うんですよね。というか一番身近な家族でさえ、お互いに根っこで考えてることを実は知らなくて、すれ違うこともあるじゃないですか。それくらい人のことは実はわからない。そういうスタンスで目の前の人に向き合って、都度理解していくと、当事者かどうかに関係なくすごくフラットに考えられるので、改めてそこはぶれないように活動していきたいです」

梅守「今日はもっといろんな人に取り組みを知ってもらいたくて、山奥から東京までやってきました。これまで活動してきた中で、人によってはすごく尊い取り組みという印象だけで終わってしまうこともあったのですが、いざみなさんの話を聞くと、自分たちが思っている以上のことを受け取ってくれてすごく感動しました。
先ほども言ったように私たちは福祉のことをやっている感覚はなくて、ただ単純にもっと楽しい未来の方がいいと思っていて。そのために、私たちが考えていることをどう伝えて、受け取ってくれた人がどう変わっていけるといいのかずっと難しく考えていたんです。でも答えは結構シンプルで、今日来てくださった皆さんが身近な人に伝えてくださったり、街で障がいのある人がいたらちょっとおおらかな目で見るとか、それくらいのことでも心の中に芽生えていたとしたら、素晴らしいし嬉しいと思いました」

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悩みながらもがきながら未来に向かうお二人の言葉は参加者にも深く届き、これからも折に触れて思い返すであろう大切な時間になりました。
そして、投げかけられた問いは一筋縄ではいかないものだとしても、自分一人がまずできることとして『俺か、俺以外か』の心持ちがあればいい。それがわかっているだけで未来につながる一歩を踏み出せる気がしました。

この日の話を、温度のある声として受け取ることと、画面上の文字として受け取ることで、言葉の届く深さは異なるかもしれませんが、この記事を通して少しでも多くの方に届き、何かの支えになることを願います。

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI)

神田いらっしゃい百景|近江屋洋菓子店

神田の街を歩くと次々に目に飛び込んでくるお店たち。色とりどりの看板や貼り紙は、街ゆくすべての人に向けて「いらっしゃい」と声をかけているようで、街の人の気風を感じることができるでしょう。

神田いらっしゃい百景は、街に溢れる「いらっしゃい」な風景をご紹介します。

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近江屋洋菓子店
〒101-0063東京都千代田区神田淡路町2-4
アクセス:
地下鉄淡路町駅より徒歩1分

誰かと一緒に鑑賞するからこそたどり着く何かがある。写真家・白鳥建二さんとの美術鑑賞会|こんなだった、なんだかんだ5

「鑑賞」を辞書でひくと、『芸術作品について、自分の立場からそのよさを味わうこと』といったことが書かれています。「自分の立場から」とあるように、捉え方は一つではなく、自分の感じるままに楽しむことができる。それが作品鑑賞の醍醐味の一つと言えるでしょう。

味わい方はさまざまある中で、「全盲」という立場からアート鑑賞を行っているのが美術鑑賞者/写真家の白鳥建二さん。目を通して作品を見ることはできませんが、独自の鑑賞法を編み出し、日本全国の美術館をめぐっています。

一体どうやって、目が見えない中でアートを鑑賞するのでしょうか?
実際に白鳥さん独自の鑑賞法の体験と、そんな白鳥さんを追ったドキュメンタリー映画の鑑賞、そして参加者のみなさんとの対話を通して、そんな問いに迫りました。題して「なんだかんだ5 〜写真家・白鳥建二さんに会ってみたい!みんなで映画を観たあと、お話聞かせてください。〜」の開催です。

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●白鳥建二さんと、自由な会話で美術鑑賞

初めて美術館を訪れたきっかけは、恋人とのデートだったという白鳥さん。そのときの経験から「目が見えなくてもアートを楽しむことはできるのかもしれない」と思うようになり、あちこちの美術館を訪れていったそうです。そうしていつの間にか「自由な会話を使ったアート鑑賞」という独自の鑑賞法を編み出しました。
この「自由な会話を使ったアート鑑賞」とは一体どういったものなのか。白鳥さんをお招きして、鑑賞会を開いていただきました。

この日の会場である神田ポートビルでは、京都府亀岡市にある「みずのき美術館」の展覧会中ということで、その中からいくつかの作品を選んで鑑賞することに。参加者全員で一緒に作品を見て話し合いながら、じっくりと鑑賞するというのが白鳥さんのスタイルです。
何から話せばいいのだろう…という空気が漂う中、白鳥さんはこう話します。

「まずは作品を見て、色や形などすぐ言葉にできそうなものから話してみてください。慣れてきたら、連想したことや思い出したことなど、作品に関連することであればなんでも大丈夫です。
あと、僕は誰かが喋らないとどんな作品かわからないんですが、あまり僕のことは気にしないでくださいね。僕のための鑑賞会ではなくて、このメンバー全員で鑑賞するという時間にしたいんです。みんなの意見がまとまってもバラバラになってもなんでもOKなので、自由に喋ってもらいたいです」(白鳥さん)

白鳥さんの言葉に場がほぐれ、いざ鑑賞会へ。なんとなく目に留まった絵についてぽつりぽつりと話していきます。

「この作品は黄色いですね。オレンジでもないし、山吹色というのかな」
「とにかく抽象なんだけど、何かに見えなくもない」
「私は焼き魚を食べた後みたいな気がします」
「ああ…!茶色が皮で、白いのがちょっと残った身か」
「皮は食べない派だ」
「実は僕も同じように感じてたんですけど、昨日アジの開きを食べたからそう見えるのかなと思って躊躇してて(笑)」
「あはは!」(一同)
「みんなもそう見えてて安心しました」

「これは今日の絵の中で一番小さい」
「タイトルをつけるとしたら『真夜中の森のえのきだけ』」
(一同笑)
「植物的なものを感じますよね」
「これがワインのラベルだとしたらどんな味?」(ソムリエをされているという参加者に向けて)
「黒っぽいところが丘で…直線に区切られているのは畑ですね。白い塊が石灰石だとすると…そういった土地柄でも育つブドウはミネラル豊富で結構シリアスなワインな気がします。イタリア北東部の」
「なるほど〜すごい!(笑)」
「完全に見え方変わっちゃったよ。味がしてきたね」

1時間半たっぷり使って鑑賞したのは4作品。一つの作品を20分程かけてじっくり鑑賞していきました。そして再び輪になって白鳥さんと鑑賞会の振り返りへ。
参加者からはこんな声が飛び交いました。
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“「見る」ということが体感により近づいた感じがしました”
“絵には正解がなくて無限の可能性があるし、相手のことを想像しつつ自分のことも投影されていく感覚があって面白かったです”
“作品だけでなく、作品について話すその人に対しての関心も出てきました”
“このメンバーで時間をかけて鑑賞しないと得られない体験をした気がします。その場にある絵や人や居心地など、すべての要素が鑑賞に必要なことで、その場だからたどり着く何かがあるんだと感じました”
“専門家じゃなくても絵を見て感じたことを言ってもいいんだという安心感が心地よかったです”
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鑑賞会を経て、みなさんの感想もどこか饒舌に。そんな様子に白鳥さんは「ふふふ」と微笑みながら耳を傾けます。鑑賞中も、みなさんの会話を楽しんでいる様子が印象的でしたが、白鳥さんの頭の中には会話からどのような絵が見えていたのでしょうか。

「僕の場合、みなさんの話を聞いてイメージを頭の中に描くことをゴールにしてないんです。時にはイメージが浮かぶこともありますが、今日だと言葉の方が印象として強く残っています。
鑑賞会時は基本的に音で情報収集してるんですが、それは発せられた言葉だけではなく、参加者が作品とどれくらい距離をもって見ているのか、 作品の周りをどのように移動してるのかなど、足音だったりちょっとした物音も含めて情報として得ています」(白鳥さん)

人と一緒にいるということも含めて絵を見てるという白鳥さん。それは20年以上鑑賞会を続けていく中で見つけた面白さだそうです。

「最近気づいたのは、ゴールや答えを決めないことがこの鑑賞会を続ける中で一番飽きないところかなと思っています。僕は誰かが楽しんでいるのを見るのが好きで、みんなが盛り上がってくると僕も盛り上がってくるので(笑) そんな感じで楽しんでるんです」(白鳥さん)

アート業界には「対話型鑑賞」と呼ばれるメソッドがありますが、白鳥さんの鑑賞会には決まったメソッドがあるわけではなく、その場に集まった人とその場の空気を楽しむことを一番大事にしているそうです。
とにかくその場のあらゆるものを受け入れて楽しむこと。白鳥さんの様子に感化されるように、この日の鑑賞会も得も言われぬ一体感があり、終始あたたかな空気に包まれていました。

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●映画を鑑賞してオープンダイアローグ

美術作品の鑑賞会の後は、ドキュメンタリー映画『目の見えない白鳥さん、アートを見にいく』の上映会へ。白鳥さんの「全盲の美術鑑賞者」としての20年を振り返りながら、美術鑑賞の様子から、普段の生活、周りの人々との交流を記録したドキュメンタリー映画です。

約100分の映画をじっくり観た後、感想が湧き上がるままに白鳥さんを交えたトークの時間へと移ります。

50人近い参加者同士で映画の感想を共有し合い、白鳥さんに感じたことや疑問を投げかけていきました。

参加者① 私は普段美術を教える立場にいますが、作品の説明を求められても正直わからないことってあるんです。でも、本来美術鑑賞はフラットな関係をつくることができるものなんだと気付かされ、対等になれることが面白さだなと感じました。

白鳥 美術作品って「わかった」と言ってしまえばそれで終わりとすることもできると思うんです。でも、20年以上鑑賞会をやっていると、美術好きの人から慣れてない人までいろんな人の鑑賞があって飽きないんですよね。なので、答えを求めずに話す方がいいんじゃないかという気がします。

参加者② 映画を観て、白鳥さんの生き様というか力強さを感じました。はみ出して生きようみたいな姿勢が生まれたのはいつ頃でしょうか?

白鳥 特に「はみ出そう」とは思ってはいないのですが(笑) 天邪鬼だという自覚はしていて、カテゴライズで決めつけられたくない思いはあります。
そのきっかけというわけでないですが覚えていることだと、子供の頃に祖母から『目が見えないから頑張れ。見える人の何倍も頑張らなきゃいけない』と言われたことがあって。そのときに、『見えないから苦労する』という感覚が理解できなかったんです。幼かったのでまだ経験も知識もないし、言葉の意味はわかるけど『本当に?』って思ったんですよ。そこから「目が見えない=苦労する」と決めつけられるのが嫌で、天邪鬼な感覚になっていったのかもしれません。

参加者③ 映画の中で写真活動をされている様子がありましたが、シャッターを切るタイミングはどのように決めていますか?

白鳥 写真は2005年から撮り始めていて、最初は車のエンジン音とか、人の足音とか、お店から聞こえてくる音楽とか、音がする方にカメラを向けてボタンを押すことをルールとしていました。いまは歩くリズムだったり熱を感じる方だったりとルールが増えていて、もうほとんど意識せずに撮り続けています。ただ、歩きながら撮るということはずっと変わらないですね。あとは気分が乗らないときは撮りません(笑)

参加者④ 白鳥さんは相手に話をさせるのが上手で、もっと来い!と言われてるような感じになります。何かテクニックがあるのでしょうか?

白鳥 元々自分から喋るのが苦手で、相手の話に乗った方が面白いんですよね。だからどんなことに興味があるか、何が好きなのかを質問して、それをいかにもわかってる感じで聞いていくんです。全然知らないことでも。そうするとどんどん喜んで話してくれる。鑑賞会もそういったところがあって病みつきになってます(笑)

そんな白鳥さんにすっかり乗せられてしまった参加者のみなさんからは時間ギリギリまで質問が飛び交い、トークが尽きることはありませんでした。
アフタートークの後のフリータイムには、ナチュールワインを楽しめる「響くワイン」も開催され、お酒好きの白鳥さんとワインを飲み交わしながら残りの時間までたっぷりと楽しみました。

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この作品は何たるものか、お互いが何を考えているのか、いろいろなことを探りつつも、ゴールを決めずに漂うように言葉を投げかけてみる。
白鳥さんとの鑑賞は、作品を見れば見るほど、話せば話すほど、新しい視点や感情が開かれていくようなひと時でした。

考え抜かれた発言も、脱線するようなジョークも、「ふふふ」という微笑みも、すべてが居心地に繋がっていることに気づくと、その場が途端に大事なものに思えてきます。白鳥さんとの鑑賞会にはまさにそうした感覚があり、なんだかんだが目指すべき心地よさがありました。

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI),
Yuka Ikenoya(YUKAI)

障がいのある人とない人がごちゃ混ぜになれる場所。「駄菓子屋 横さんち」の話|こんなだった、なんだかんだ4 【前編】

『もっと日常的に、障がいのある人とない人がごちゃ混ぜになれる場所がなくてはならない』
静岡県掛川市にある駄菓子屋「横さんち」は、そうした思いから生まれた場所。さまざまな障がいを持つスタッフたちで日々お店を運営しています。

神田から遠く離れたところにありますが、これまでの路上実験イベント「なんだかんだ」にもはるばる参加してくださっている横さんち。
改めてその取り組みをじっくり聞き、そして多くの人に知ってもらいたい!ということで、運営サポートをしている池島麻三子さんとボランティアスタッフとして通う高校生の佐野夢果さんをゲストにお招きし、たっぷりとお話を伺いました。
題して、「なんだかんだ4 〜駄菓子屋横さんちの取り組みとそこに通う夢果ちゃんの願いとかいろいろ聞いてみようか〜」の開催です。

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ドキュメンタリードラマはこちら▼
(YouTubeにリンクします)

企画:池田晶紀 監督:菊池健太郎

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春の訪れを感じる暖かな陽気の3月16日。畳を敷き詰めた神田ポートビルの会場に30名近くのお客さんが集まり、ゆるやかにスタートしました。

●駄菓子屋 横さんちのきっかけとは?

はじめに、駄菓子屋「横さんち」の運営サポートをしている池島麻三子さんから、取り組みを紹介いただきました。
店長である横山さんの愛称が店名の由来である横さんち。元々は企業に勤めていた横山さんですが、ある経験がお店をつくるきっかけとなったそうです。

「幼少期から車いす生活を送っている横山さんですが、釣りやスキー、飲み会などどこへでも出かけるパワフルな人なんです。そんな横山さんは、企業に勤める傍ら、障がいへの理解を深めるために学校で講演をしたり、車いす体験会を開いたりと福祉教育の活動をされていました。しかし、そうした機会はせいぜい年に一度、人によっては一生に一度しかないようなもので、それだけでは伝え切ることができません。そこから『もっと日常的に、障がいのある人とない人がごちゃ混ぜになれる場所がなくてはいけない』と考えるようになり、駄菓子屋『横さんち』の誕生につながっていったんです」(池島さん)

運営サポートをしている池島麻三子さん

そんな横さんちの店舗は、車いすユーザー向けに空間設計がなされており、スタッフはさまざまな障がいのある方、後期高齢者の方、障がいはないものの生きづらさを抱える方などがそれぞれできることを発揮して働いています。

「例えば、キラキラなビーズが好きなスタッフの服部くんは、アクセサリーを作るワークショップを毎週開いています。参加するのは小学校高学年の悩み多き年頃の子たちなんですけど、服部くんは受け止め上手なのでアクセサリーを作りながらお悩み相談をしていて信頼が厚いんです。

横さんちで働く人には、なるべく個々の得意なことに合わせたお仕事をお願いしたいと思っていますが、それを見つけるのもそう簡単にはいかなくて。服部くんもいろいろな仕事をしてもらいつつも、長い間お互いにこれだ!と思えるものが見つけられなかったんです。
横さんちのコンセプトは『障がいのある人がいきいきと働く』なので、社内会議でもその仕事はその人がいきいきしているかどうかということが論点に必ず挙がってくるんですが、ビーズのワークショップを始めてから、服部くんは楽しそうで私たちも嬉しいんです」(池島さん)

●働く人も訪れる人も補い合うことは当たり前

それぞれの得意を仕事として活かすことができる横さんちですが、得意ではないことは補い合いながら働いています。補うのはスタッフ同士だけではないそうです。

「レジに時間がかかってよく行列ができるんですが、お客さんが商品のスキャンや袋詰めを自然と手伝ってくれるんです。ここを利用するお客さんの間には、補い合うことは当たり前という感覚があっていいなと思っています。手伝ってくれるのは子どもたちが本当に多くて、手伝ううちに違う学校の子同士で仲良くなったりと交流の場にもなっていますね」(池島さん)

働く人も訪れる人も自然に関わり合うことができ、街に開かれた場所として親しまれている横さんち。
肩肘張らない「駄菓子屋」という場の力も絶妙に関係しているように感じますが、いまの時代にはなかなかめずらしい形態です。実は、運営会社による一事業という側面もあります。

「『横さんち』の形態は、ITエンジニアの人材派遣会社が運営会社となっていて、そこの一事業として取り組んでいます。そのため、ここで働いているスタッフは“社員”という扱いで、いわゆる一般就労になります。
きっかけとしては運営会社の規模拡大に応じて障がい者雇用をすることになったものの、エンジニア向けの会社なので新たな仕事やポジションを考える必要があったんです。ただ、当初から見えないところで単純作業をするだけではなく、いきいきと働ける職場をつくろうという思いがありました。そこを出発点に生まれたのが、駄菓子屋というアイデアなんです。
いまの時代、駄菓子屋という形態のみで利益を出すことは難しいですが、その代わりに地域に開いた福祉や教育の場になったり、子どもたちの居場所となるように取り組むことが事業の役割になっています。地域に貢献するお仕事としてみなさん働いていますね」(池島さん)

この日は「駄菓子屋 横さんち」が神田ポートに出張出店してくださり、
お子さんはもちろん大人も「懐かしい!」と目を輝かせていました。

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横さんちの様子を思い浮かべながらじっくりお話を聞いていると
すっかりお店のみなさんに会いにいきたい気持ちに。
この日も出張で駄菓子屋さんを開いてくれましたが
駄菓子を囲むとあっという間に距離が縮まるようでした。

続いては、そんな横さんちに通いながら自らさまざまな活動を行う
高校生の佐野夢果さんにお話を伺っていきます。

後編へ続く

ひな祭りの日をレディースデーにして考えたことやってみました|こんなだった、なんだかんだ3 【#1】

3月3日のひな祭り。ひな祭りといえば、女の子の健やかな成長を祈るイメージがありますが、実は年齢に限りはないそうです。
あらゆる女性が主役となるそんな一日を、なんだかんだ3では“レディースデー”として広くとらえて、神田ポートビルに関わるさまざまなメンバーと考えたイベントを開催しました。

題して、「なんだかんだ3 〜ひな祭りの日をレディースデーにして考えたことやってみます!〜」。
踊ったり、語ったり、ととのい尽くしたり。さまざまな身体や心に嬉しいことが集まって、生まれてまもないレディーから人生経験豊富なレディーまで、のびのびと過ごす一日となりました。

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●身体と創造力をとことん解き放てば、どこまでも踊れる
伊藤千枝子・篠崎芽美ワークショップ「なんだか不思議な体感」

神田ポートビル一階では、ダンサー・振付家の伊藤千枝さんと篠崎芽美さんによる、ダンスのワークショップ。心のそこから、身体のそこから、自由に、思いついたままに、感じたままに、あれやこれやと一緒になってダンスをしていきます。

ワークショップはたっぷりコースの1時間半。会場に集まったみなさんに一体何が起きるのか若干の緊張感がただよう中、「まずは体を洗っていきましょう!」という伊藤さんの明るい一言で、体をごしごしと洗うところからスタートしていきます。

自分の体中をさすったあとは、近くの人と背中、脇、お腹、お尻同士をごしごし。
不思議なポーズで体を寄せ合っていると、だんだんと笑いがこぼれていきます。

今度は床に寝転がって、誰かと出会ったらその人にごろんと乗っかってみます。
子どもも大人も一緒に乗っかりあって大はしゃぎ!

乗っかった後は、トンネルくぐったり自分がトンネルになったり。
みんなで大きなジャングルジムをつくってくぐっていきます。

一人をくぐる。

二人の間をくぐる。

複雑にくぐる。

とにかくくぐる!

くぐり、くぐられ数十分。
「くぐる」という一つの動きに対しても、
全身を使うとかなりのレパートリーができて新たな発見の連続です。

その後は、いろいろな足の数で歩いてみたり(0本や20本という難題も!)、
馬や象になってみたり。

どんどん創造性が広がっていき、みんなで作った大きなタワーは芸術的な仕上がりに。

最後は記念撮影をパシャリ!

伊藤さんと篠崎さんに誘われるまま、身体と創造力を解き放って踊った一時間半。
ほぼ初対面のみなさんでしたがえも言われぬ一体感が生まれていて、なんだか不思議な体感にたどり着いたような光景が見られました。

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● 意外と身近にある薬草の味に出会う
新田理恵(tabel)「薬草のちから」

ダンスワークショップの隣では、伝統茶「tabel」の薬草調合師・新田理恵さんによる薬草茶shopがオープン。
独自のアプローチで薬草茶の味わい方や薬草のある暮らしを提案する新田さんが、一人ひとりに合わせてブレンドティを淹れてくださり、日本の薬草茶の世界を味わえます。

はじめて薬草茶を飲む人向けに用意してくださったのは、月桃、よもぎ、はす、黒文字と生姜、葛、紅花、金木犀の中からそれぞれ一種類の薬草を選びます。
効能で選ぶのはもちろん、どれも身体にいいので香りで選ぶもよし。

日本中をリサーチし回って選んだという、厳選された薬草でいただく一杯はよく染みる。45都道府県までコンプリートしていて残るは埼玉と宮城のみなのだとか。

「金木犀や紅花などはじめて薬草茶を飲む方にも馴染みのあるものをご用意しましたが、道を歩いていても薬草って意外とたくさんあるんです。これまで機会がなかった方も、身近なものとして楽しんでほしいですね」と新田さん。
聞き慣れた草木でも、味や効能を知るだけで風景の見え方がぐっと広がりそうです。お客さんも新田さんの解説に聞き入って薬草の世界に引き込まれていました。

#2へ続く

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: TADA(YUKAI), Mariko Hamano

#2「食+デザイン」|アートディレクターの秋山具義さんと、地元・秋葉原をめぐり直す。後編

「〇〇のおともに」をテーマに、あるものとあるものをたし算することで広がる神田のたのしみ方を、その道のプロフェッショナルをお迎えして紹介する「おともにどうぞ」。

第二回のゲストは、アートディレクターの秋山具義さんをお迎えし、具義さん縁の場所や最近気になるスポットを巡りながら、今と昔の神田の話を聞いていきます。

あらゆる食とデザインに触れてきた具義さんだからこそ見える神田のおもしろみとは? 多忙なはずなのにとにかく情報収集力がものすごい具義さんと歩いてみると、ちょっとした散歩でも思わぬ発見にあふれたひとときになりました。

前編はこちら

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 ●店のデザインってここが面白い

具義さんが初めてお店のデザインをしたという
ご実家でやっていた“お好み焼き アッキィ”の、カエルのロゴマーク

神田祭のポスターを通して地元を応援し続けている具義さんですが、最近では広告界きっての美味しいもの好きということもあり、お店のデザインを手がけることが増えているそうです。
お店もまた人の想いがこもった場所。どのようにデザインに向き合っているのでしょうか?

「やっぱり看板が大事。ネオンなのかのれんなのか、外からどんな風にお店の名前を見せるのかを一番考える。
よく行く店のスタッフさんが独立されたり、新店を出すときにオファーされることが多いけど、相談してくれる人がどんなお店にしたいのか、好きなロゴとかイメージしているロゴがあるか、ちゃんと会話して聞かないといいものはできないよね」

かたちにする前に、相手の思いをしっかり引き出すこともアートディレクターの大きな役割。この日もデザインの仕事ではないものの、ほたて日和の店主にいろいろと質問をしておしゃべりが弾んでいた具義さん。作り手との対話に長けている姿が印象的でしたが腑に落ちました。

「店名を考えることも結構あって、住所が南青山七丁目だから”南青山 七鳥目”とか、警察署の横にあるから“Buger POLICE”(バーガーポリス)とか、オーナーが若い頃サッカーをしていてポジションがライトウィングだったから“右羽”(うう)になったりとか、いろんな方向で案を出すんだけど、意外とひょんなところから決まったりする。
Buger POLICEなんかはお客さんがお店に行ったことをSNSで『出頭してきました!』って言うようになったりしてるんだけど(笑)、その場所らしいコミュニケーションが生まれるのもいいよね」



 ●とっておきの日の手土産は「竹むらの揚げ饅頭」

さて神田・佐久間町界隈を中心に具義さんの庭をそぞろ歩いたあとは、お世話になっているある方への手土産を買いに、具義さんお気に入りのお店に向かうことに。池波正太郎はじめ、多くの食通に愛された1930年創業の甘味処『竹むら』で、名物の揚げ饅頭を買います。

連続テレビ小説『虎に翼』でヒロインの寅子が度々訪れる
甘味処『竹もと』は、ここ『竹むら』がモデル。

『竹むら』の揚げ饅頭は、具義さんにとっては「ここぞ」という時の手土産なのだそう。
大学時代、アートディレクターである友人の青木克憲さんとともに、グラフィックデザイン界の巨匠・仲篠正義さんに作品を見せに行くというときも、『竹むら』の揚げ饅頭を持っていったという勝負土産です。

そんな思い出を振り返りつつ到着したのは…

ジャン!ほぼ日の本社!

ごめんくださ〜いとエレベーターを上がると、糸井重里さん!

具義さんはほぼ日のキャラクター「おさる」もデザインしていて、糸井さんとはほぼ日刊イトイ新聞の創刊当初からのお仕事仲間。しかし、実は具義さんが広告業界を目指したきっかけは、広告や雑誌やテレビで活躍していた糸井さんに憧れたからなんだそうです。

揚げたてで熱々の揚げ饅頭を見て
「なんかこう見ると卵の天ぷらみたいだね」と糸井さん。

さっそく竹むらの揚げ饅頭をお渡しすると、「これめちゃくちゃ甘いんだよね〜。しかも揚げたてじゃない」と目を細める糸井さん。熱々の揚げ饅頭を続けざまに2つ、ぺろっと食べてくれました。

揚げ饅頭をほおばりながら近況をお話しするお二人。

「糸井さん、今日僕ら“ほたて日和”に行ったんですよ。めちゃくちゃ美味しかったです」
「あ、あの昆布水のところ? いいねぇ。神田のつけめんと言えば、金龍もうまいんだよ」
「(食べログを開いて)あ、行きたいマークつけてるところだ」
「俺はさ、今日ついに行ったんだよ。謎のうなぎ屋。メニューがない店でさ、でね……」

と、神田のグルメ情報や、最近の店の変なシステムとか、トンカツとかうどんとか食の話で大盛り上がり。年を重ねても衰えることなき好奇心と情報収集力。さすがです!

具義さん愛用の2024年度版「ほぼ日手帳」に
「超素敵」の言葉を添えてサインを書く糸井さん。
この儀式は毎年行われているそうで昨年は「豆大福」だったそう。

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ほぼ日を出た我々は、本日の最終目的地、神田ポートビルに到着。お疲れさまでした!

ゲーム、アニメ、漫画、アイドル。さまざまなカルチャーが渦巻くまちで、具義さんはどう過ごしたのか想像しながらまわった今回の散歩。
たった数時間の散歩でしたが、個人的な思い出とともに立ち上がる風景を見ると、まちから具義さんへ脈々と流れる血筋ならぬ地筋を感じました。

お話の中では、作品にしても食にしても、膨大な数をキャッチしていることが印象的だった具義さん。そしてただ受け取るだけでなく、その「良さ」の理由を見渡して捉えるアートディレクターたる姿勢に、ものごとを広く深く楽しむヒントがありました。
幼少期から秋葉原カルチャーを浴び続けることで培われた業のようでもありますが、そんな眼差しを少しでも意識してみると、一皿の食事もぐっと豊かなものになりそうです。

さて、次は神田でどんな〇〇+〇〇をたのしみましょうか。


Text: Miyuki Takahashi
Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI)

#2「食+デザイン」|アートディレクターの秋山具義さんと、地元・秋葉原をめぐり直す。前編

カレーの街として名高い、神田。学生が本を片手に、スプーン1本で簡単に食べられるということから、カレーの需要が高まったという。読書のおともにカレー、新幹線旅行のおともに駅弁、ドライブのおともに音楽。おともがあると、楽しみもぐっと増す気がします。この企画では「〇〇のおともに」をテーマに、あるものとあるものをたし算することで広がる神田のたのしみ方を、その道のプロフェッショナルをお迎えして紹介します。

第二回のゲストは、アートディレクターの秋山具義さん。広告、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行うかたわら、広告界きっての美味しいもの好きとしても有名な具義さんですが、実は神田佐久間町のご出身。秋葉原周辺で漫画やゲームに囲まれた幼少期を送ってきたそうです。

今回は、そんな具義さん縁の場所や最近気になるスポットを巡りながら、今と昔の神田の話を聞いていきましょう。
あらゆる食とデザインに触れてきた具義さんだからこそ見える神田のまちやお店のおもしろみとは? 多忙なはずなのにとにかく情報収集力がものすごい具義さんと歩いてみると、ちょっとした散歩でも思わぬ発見にあふれたひとときになりました。

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●ホームタウン・神田佐久間町。
電気街のそばで過ごした幼少期を振り返る。

本日のスタート地点は、秋葉原駅の昭和通り改札前。電器屋がぐるりと囲む秋葉原のど真ん中ですが、ここは具義さんのホームタウンです。
全員集合していざ出発と歩き始めて10秒、さっそく第一思い出スポット発見! 駅前の「秋葉原公園」で足を止めました。

「昔はここらへんに大きいロケット型の遊具があってさ」と具義さん。
今はベンチとちょっとした緑がある広場ですが、かつては遊具もあり子どもたちの間で「ロケット公園」と呼ばれて親しまれていたそうです。

「この辺りは公園が結構あって、よく行っていたのは佐久間公園。ラジオ体操しに夏休みは毎日通ってたね。しかも近くに美味しいパン屋があって、帰りに必ずあんぱん買ってたんだよ。小学校から帰ってきて公園に行く前に立ち食いそば屋でコロッケそば食べるのにハマってた時期もあったなぁ」
とおもむろに歩き始め、佐久間公園に向かいます。

道中、この辺りには
漫画『月下の棋士』の舞台となった将棋倶楽部や
メロンソーダ飲み放題のゲームセンターがあったことなど、
知る人ぞ知るディープな情報が次々飛び出します。
佐久間公園近くの「青島食堂」は
具義さん行きつけの人気ラーメン店。
新潟5大ラーメンの、長岡生姜醤油ラーメンが食べられる。
昨年末には1時間半並んで食べたほどお気に入りだそう。

駅から300メートルほどの距離を濃密に歩いたところで佐久間公園に到着。カラフルな新しい遊具のある公園ですが、歴史は古く、片隅にお稲荷さんが祀られているのが特徴的です。

「当時はブランコに乗りながら時計塔を狙って靴飛ばししてたなぁ」
と具義さんが振り返りながら公園を見渡すと、なにやら立派な石碑が。なんの気なしに覗いてみるとびっくり。

ここ佐久間公園はなんと、ラジオ体操会発祥の地!
1928年に国民の健康増進のためにテレビ放送を通して広まったラジオ体操ですが、朝に集まって体操を行う「早起きラジオ体操会」を全国に先駆けて始めたのがここ佐久間公園というわけ。
具義さん、すごい由緒正しき公園でラジオ体操していたんですね。

そんな秋葉原のど真ん中で育った具義さん。このまちでいったいどのように過ごしてきたのでしょうか?

「小学生の頃は、ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン、キングあたりの少年漫画雑誌はほとんど読んでたよ。アニメージュやジ・アニメっていうアニメ雑誌も愛読していて、漫画・アニメ好きだったな。中学に入るとアイドルも追いかけるようになって、伊藤つかさ、石川秀美、林紀恵と、ファンクラブに三つ入ってた。
あとは電気街が近所だったからゲームセンターによく通ってて、インベーダーゲームなんか40分くらいゲームオーバーなしでプレイし続けたこともあったな。ヘッドオンっていうゲームが好きで、すごく音がいいからいまでもたまに聞きたくなるね」

まさにあらゆるカルチャーを網羅していた具義さん。秋葉原がゲームやアイドルのまちとして知られるようになる前の時代なので、アキバ系のはしりと言えます。
作品やコンテンツをキャッチする量の膨大さがいまの具義さんの活動につながっているように思えますが、その類稀なるスキルはこのまちで育ったことで培われてきたものなのかもしれません。



 ●地元に誕生した注目グルメ。行列必至のつけ麺をいただく

公園をぐるりと回ったところでお昼の時間に。具義さんがいま一番気になっているという佐久間町の「Tokyo Style Noodle ほたて日和」へ向かいます。

「ほたて日和」は2022年12月にオープンしたばかりですが、有名ラーメン情報サイトのランキングで1位を獲得したこともあり、テレビでも度々取り上げられる超人気店。この日は編集部が朝8時に並んで記帳しておいたためランチタイムぴったりにお店へ入れましたが、事前予約必須の代物。具義さんも嬉しそうです。

この日注文したのは「特製 帆立の昆布水つけ麺 黒【醤油】」。
割烹かと思うほど盛り付けが美しく、昆布水に浸った麺が光輝いて見えて期待が高まります。
お店の方が美味しい食べ方を丁寧にレクチャーしてくださり、言われた通りの方法でいただきます。

はやる気持ちを抑えて、
いただく前にスマホでぱしゃり。
真俯瞰で構えるのがおいしく撮るポイント。

最初は、店名にもなっている北海道産帆立のカルパッチョを一口いただいてから(当然美味!)、次にぬるぬるの昆布水に絡んだ三河屋製麺の麺をそのままいただきます。

昆布水の旨味とぬめり、こしのある麺の食感が合わさって、何もつけてないのに抜群の美味しさ。ここに鰹塩やわさび、ディル(さわやかな香りとほろ苦さを持つセリ科のハーブ)などで味変しながら麺とトッピングを楽しみます。

美味しすぎてどんどん食べ進めてしまいますが、つけダレで食すのも忘れずに。マイルドなつけダレでいただく麺も当たり前ながら最高です。さらに、味変効果の高いトリュフオイルを絡めて麺だけを楽しみ、最後はスープ割りを堪能しました。

店主の及川さんと。ごちそうさまでした!

味の変化を感じながらいろんな食べ方を楽しんだからか、コース料理を食べ終えたかのような満足感!
「めちゃくちゃ美味しいし食べ方も楽しいし、すごかった!」と具義さん。気さくな店主とのおしゃべりも弾み、充実度たっぷりのひとときになりました。

味はもちろん、食べるまでのプロセスや作る人の背景など、「美味しい」という気持ちに少し立ち止まってそのまわりを眺めてみる。そんな具義さんの眼差しに、広く深く食を楽しむヒントを感じられました。



●“中の人”として続けてきた神田祭の町会ポスター制作

昼食後は秋葉原を抜けて、
旧3331 Arts Chiyoda(現ちよだアートスクエア)へ。
旧練成中学校の校舎を改修してできた建物ですが、
なんとここが具義さんの母校。

佐久間公園やほたて日和のある神田佐久間町は、まさに具義さんが生まれ育ったまち。通っていた小・中学校へをめぐりながら、30年近くボランティアで作り続けている神田祭の佐久間3丁目ポスターについて聞いてみました。

「ポスターは1991年くらいからやってるかな。まだ広告代理店に勤めていた頃に近所の知り合いにお願いされて引き受けたんだよ。会社の仕事とは違うところで、自分で自由にデザインしたいと思っていた時期でもあったし。
あと、自分の地元に関わるデザインをしている人はたくさんいるけど、町会という規模でやってる人はなかなかいないでしょ? 町会くらいの距離感になると本当に中にいる人じゃないとできないことだし、そこに取り組むのはおもしろいと思ったんだよね」

江戸時代から続くこのまちの一大イベント・神田祭。具義さんもポスター制作だけでなく、神輿担ぎや子供神輿のサポートなど、町会の一員として担当したこともあります。

「デザインは毎回3〜4案出してるけど、30年以上デザインを続けているともうネタが尽きて大変なんだよ(笑)。だから、ポスターに入れる要素と、赤と黒の2色刷りというルールは決めておいて、その時代に合わせた内容でデザインを考えるようにしてる」

例えば令和5年度版では、コロナ禍を経て久しぶりの開催だったため、「かつげるって、しあわせ。」のコピーと涙を流すイラストがデザインされました。

「あと、普段の広告の仕事だと看板にきれいに掲示されるけど、町会のポスターはまちの人たちが自分の家や店先とかフェンスとかにベタベタと貼っていて、そういう風景もいいんです」

そこで暮らす人の思いを汲み取って、まちに一体感を作ってきた神田祭のポスター。そこには、30年以上関わり続けている具義さんとまちとの長く培われてきた信頼関係が感じられました。


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まだまだ続く具義さんとの散歩。
後編ではお店のデザインについてお話を伺いながら
具義さんがお世話になっているというあのお方に会いに行きます。

後編に続く


Text: Miyuki Takahashi
Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI)

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