#2「食+デザイン」|アートディレクターの秋山具義さんと、地元・秋葉原をめぐり直す。後編

「〇〇のおともに」をテーマに、あるものとあるものをたし算することで広がる神田のたのしみ方を、その道のプロフェッショナルをお迎えして紹介する「おともにどうぞ」。

第二回のゲストは、アートディレクターの秋山具義さんをお迎えし、具義さん縁の場所や最近気になるスポットを巡りながら、今と昔の神田の話を聞いていきます。

あらゆる食とデザインに触れてきた具義さんだからこそ見える神田のおもしろみとは? 多忙なはずなのにとにかく情報収集力がものすごい具義さんと歩いてみると、ちょっとした散歩でも思わぬ発見にあふれたひとときになりました。

前編はこちら

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 ●店のデザインってここが面白い

具義さんが初めてお店のデザインをしたという
ご実家でやっていた“お好み焼き アッキィ”の、カエルのロゴマーク

神田祭のポスターを通して地元を応援し続けている具義さんですが、最近では広告界きっての美味しいもの好きということもあり、お店のデザインを手がけることが増えているそうです。
お店もまた人の想いがこもった場所。どのようにデザインに向き合っているのでしょうか?

「やっぱり看板が大事。ネオンなのかのれんなのか、外からどんな風にお店の名前を見せるのかを一番考える。
よく行く店のスタッフさんが独立されたり、新店を出すときにオファーされることが多いけど、相談してくれる人がどんなお店にしたいのか、好きなロゴとかイメージしているロゴがあるか、ちゃんと会話して聞かないといいものはできないよね」

かたちにする前に、相手の思いをしっかり引き出すこともアートディレクターの大きな役割。この日もデザインの仕事ではないものの、ほたて日和の店主にいろいろと質問をしておしゃべりが弾んでいた具義さん。作り手との対話に長けている姿が印象的でしたが腑に落ちました。

「店名を考えることも結構あって、住所が南青山七丁目だから”南青山 七鳥目”とか、警察署の横にあるから“Buger POLICE”(バーガーポリス)とか、オーナーが若い頃サッカーをしていてポジションがライトウィングだったから“右羽”(うう)になったりとか、いろんな方向で案を出すんだけど、意外とひょんなところから決まったりする。
Buger POLICEなんかはお客さんがお店に行ったことをSNSで『出頭してきました!』って言うようになったりしてるんだけど(笑)、その場所らしいコミュニケーションが生まれるのもいいよね」



 ●とっておきの日の手土産は「竹むらの揚げ饅頭」

さて神田・佐久間町界隈を中心に具義さんの庭をそぞろ歩いたあとは、お世話になっているある方への手土産を買いに、具義さんお気に入りのお店に向かうことに。池波正太郎はじめ、多くの食通に愛された1930年創業の甘味処『竹むら』で、名物の揚げ饅頭を買います。

連続テレビ小説『虎に翼』でヒロインの寅子が度々訪れる
甘味処『竹もと』は、ここ『竹むら』がモデル。

『竹むら』の揚げ饅頭は、具義さんにとっては「ここぞ」という時の手土産なのだそう。
大学時代、アートディレクターである友人の青木克憲さんとともに、グラフィックデザイン界の巨匠・仲篠正義さんに作品を見せに行くというときも、『竹むら』の揚げ饅頭を持っていったという勝負土産です。

そんな思い出を振り返りつつ到着したのは…

ジャン!ほぼ日の本社!

ごめんくださ〜いとエレベーターを上がると、糸井重里さん!

具義さんはほぼ日のキャラクター「おさる」もデザインしていて、糸井さんとはほぼ日刊イトイ新聞の創刊当初からのお仕事仲間。しかし、実は具義さんが広告業界を目指したきっかけは、広告や雑誌やテレビで活躍していた糸井さんに憧れたからなんだそうです。

揚げたてで熱々の揚げ饅頭を見て
「なんかこう見ると卵の天ぷらみたいだね」と糸井さん。

さっそく竹むらの揚げ饅頭をお渡しすると、「これめちゃくちゃ甘いんだよね〜。しかも揚げたてじゃない」と目を細める糸井さん。熱々の揚げ饅頭を続けざまに2つ、ぺろっと食べてくれました。

揚げ饅頭をほおばりながら近況をお話しするお二人。

「糸井さん、今日僕ら“ほたて日和”に行ったんですよ。めちゃくちゃ美味しかったです」
「あ、あの昆布水のところ? いいねぇ。神田のつけめんと言えば、金龍もうまいんだよ」
「(食べログを開いて)あ、行きたいマークつけてるところだ」
「俺はさ、今日ついに行ったんだよ。謎のうなぎ屋。メニューがない店でさ、でね……」

と、神田のグルメ情報や、最近の店の変なシステムとか、トンカツとかうどんとか食の話で大盛り上がり。年を重ねても衰えることなき好奇心と情報収集力。さすがです!

具義さん愛用の2024年度版「ほぼ日手帳」に
「超素敵」の言葉を添えてサインを書く糸井さん。
この儀式は毎年行われているそうで昨年は「豆大福」だったそう。

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ほぼ日を出た我々は、本日の最終目的地、神田ポートビルに到着。お疲れさまでした!

ゲーム、アニメ、漫画、アイドル。さまざまなカルチャーが渦巻くまちで、具義さんはどう過ごしたのか想像しながらまわった今回の散歩。
たった数時間の散歩でしたが、個人的な思い出とともに立ち上がる風景を見ると、まちから具義さんへ脈々と流れる血筋ならぬ地筋を感じました。

お話の中では、作品にしても食にしても、膨大な数をキャッチしていることが印象的だった具義さん。そしてただ受け取るだけでなく、その「良さ」の理由を見渡して捉えるアートディレクターたる姿勢に、ものごとを広く深く楽しむヒントがありました。
幼少期から秋葉原カルチャーを浴び続けることで培われた業のようでもありますが、そんな眼差しを少しでも意識してみると、一皿の食事もぐっと豊かなものになりそうです。

さて、次は神田でどんな〇〇+〇〇をたのしみましょうか。


Text: Miyuki Takahashi
Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI)

#2「食+デザイン」|アートディレクターの秋山具義さんと、地元・秋葉原をめぐり直す。前編

カレーの街として名高い、神田。学生が本を片手に、スプーン1本で簡単に食べられるということから、カレーの需要が高まったという。読書のおともにカレー、新幹線旅行のおともに駅弁、ドライブのおともに音楽。おともがあると、楽しみもぐっと増す気がします。この企画では「〇〇のおともに」をテーマに、あるものとあるものをたし算することで広がる神田のたのしみ方を、その道のプロフェッショナルをお迎えして紹介します。

第二回のゲストは、アートディレクターの秋山具義さん。広告、パッケージ、ロゴ、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行うかたわら、広告界きっての美味しいもの好きとしても有名な具義さんですが、実は神田佐久間町のご出身。秋葉原周辺で漫画やゲームに囲まれた幼少期を送ってきたそうです。

今回は、そんな具義さん縁の場所や最近気になるスポットを巡りながら、今と昔の神田の話を聞いていきましょう。
あらゆる食とデザインに触れてきた具義さんだからこそ見える神田のまちやお店のおもしろみとは? 多忙なはずなのにとにかく情報収集力がものすごい具義さんと歩いてみると、ちょっとした散歩でも思わぬ発見にあふれたひとときになりました。

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●ホームタウン・神田佐久間町。
電気街のそばで過ごした幼少期を振り返る。

本日のスタート地点は、秋葉原駅の昭和通り改札前。電器屋がぐるりと囲む秋葉原のど真ん中ですが、ここは具義さんのホームタウンです。
全員集合していざ出発と歩き始めて10秒、さっそく第一思い出スポット発見! 駅前の「秋葉原公園」で足を止めました。

「昔はここらへんに大きいロケット型の遊具があってさ」と具義さん。
今はベンチとちょっとした緑がある広場ですが、かつては遊具もあり子どもたちの間で「ロケット公園」と呼ばれて親しまれていたそうです。

「この辺りは公園が結構あって、よく行っていたのは佐久間公園。ラジオ体操しに夏休みは毎日通ってたね。しかも近くに美味しいパン屋があって、帰りに必ずあんぱん買ってたんだよ。小学校から帰ってきて公園に行く前に立ち食いそば屋でコロッケそば食べるのにハマってた時期もあったなぁ」
とおもむろに歩き始め、佐久間公園に向かいます。

道中、この辺りには
漫画『月下の棋士』の舞台となった将棋倶楽部や
メロンソーダ飲み放題のゲームセンターがあったことなど、
知る人ぞ知るディープな情報が次々飛び出します。
佐久間公園近くの「青島食堂」は
具義さん行きつけの人気ラーメン店。
新潟5大ラーメンの、長岡生姜醤油ラーメンが食べられる。
昨年末には1時間半並んで食べたほどお気に入りだそう。

駅から300メートルほどの距離を濃密に歩いたところで佐久間公園に到着。カラフルな新しい遊具のある公園ですが、歴史は古く、片隅にお稲荷さんが祀られているのが特徴的です。

「当時はブランコに乗りながら時計塔を狙って靴飛ばししてたなぁ」
と具義さんが振り返りながら公園を見渡すと、なにやら立派な石碑が。なんの気なしに覗いてみるとびっくり。

ここ佐久間公園はなんと、ラジオ体操会発祥の地!
1928年に国民の健康増進のためにテレビ放送を通して広まったラジオ体操ですが、朝に集まって体操を行う「早起きラジオ体操会」を全国に先駆けて始めたのがここ佐久間公園というわけ。
具義さん、すごい由緒正しき公園でラジオ体操していたんですね。

そんな秋葉原のど真ん中で育った具義さん。このまちでいったいどのように過ごしてきたのでしょうか?

「小学生の頃は、ジャンプ、マガジン、サンデー、チャンピオン、キングあたりの少年漫画雑誌はほとんど読んでたよ。アニメージュやジ・アニメっていうアニメ雑誌も愛読していて、漫画・アニメ好きだったな。中学に入るとアイドルも追いかけるようになって、伊藤つかさ、石川秀美、林紀恵と、ファンクラブに三つ入ってた。
あとは電気街が近所だったからゲームセンターによく通ってて、インベーダーゲームなんか40分くらいゲームオーバーなしでプレイし続けたこともあったな。ヘッドオンっていうゲームが好きで、すごく音がいいからいまでもたまに聞きたくなるね」

まさにあらゆるカルチャーを網羅していた具義さん。秋葉原がゲームやアイドルのまちとして知られるようになる前の時代なので、アキバ系のはしりと言えます。
作品やコンテンツをキャッチする量の膨大さがいまの具義さんの活動につながっているように思えますが、その類稀なるスキルはこのまちで育ったことで培われてきたものなのかもしれません。



 ●地元に誕生した注目グルメ。行列必至のつけ麺をいただく

公園をぐるりと回ったところでお昼の時間に。具義さんがいま一番気になっているという佐久間町の「Tokyo Style Noodle ほたて日和」へ向かいます。

「ほたて日和」は2022年12月にオープンしたばかりですが、有名ラーメン情報サイトのランキングで1位を獲得したこともあり、テレビでも度々取り上げられる超人気店。この日は編集部が朝8時に並んで記帳しておいたためランチタイムぴったりにお店へ入れましたが、事前予約必須の代物。具義さんも嬉しそうです。

この日注文したのは「特製 帆立の昆布水つけ麺 黒【醤油】」。
割烹かと思うほど盛り付けが美しく、昆布水に浸った麺が光輝いて見えて期待が高まります。
お店の方が美味しい食べ方を丁寧にレクチャーしてくださり、言われた通りの方法でいただきます。

はやる気持ちを抑えて、
いただく前にスマホでぱしゃり。
真俯瞰で構えるのがおいしく撮るポイント。

最初は、店名にもなっている北海道産帆立のカルパッチョを一口いただいてから(当然美味!)、次にぬるぬるの昆布水に絡んだ三河屋製麺の麺をそのままいただきます。

昆布水の旨味とぬめり、こしのある麺の食感が合わさって、何もつけてないのに抜群の美味しさ。ここに鰹塩やわさび、ディル(さわやかな香りとほろ苦さを持つセリ科のハーブ)などで味変しながら麺とトッピングを楽しみます。

美味しすぎてどんどん食べ進めてしまいますが、つけダレで食すのも忘れずに。マイルドなつけダレでいただく麺も当たり前ながら最高です。さらに、味変効果の高いトリュフオイルを絡めて麺だけを楽しみ、最後はスープ割りを堪能しました。

店主の及川さんと。ごちそうさまでした!

味の変化を感じながらいろんな食べ方を楽しんだからか、コース料理を食べ終えたかのような満足感!
「めちゃくちゃ美味しいし食べ方も楽しいし、すごかった!」と具義さん。気さくな店主とのおしゃべりも弾み、充実度たっぷりのひとときになりました。

味はもちろん、食べるまでのプロセスや作る人の背景など、「美味しい」という気持ちに少し立ち止まってそのまわりを眺めてみる。そんな具義さんの眼差しに、広く深く食を楽しむヒントを感じられました。



●“中の人”として続けてきた神田祭の町会ポスター制作

昼食後は秋葉原を抜けて、
旧3331 Arts Chiyoda(現ちよだアートスクエア)へ。
旧練成中学校の校舎を改修してできた建物ですが、
なんとここが具義さんの母校。

佐久間公園やほたて日和のある神田佐久間町は、まさに具義さんが生まれ育ったまち。通っていた小・中学校へをめぐりながら、30年近くボランティアで作り続けている神田祭の佐久間3丁目ポスターについて聞いてみました。

「ポスターは1991年くらいからやってるかな。まだ広告代理店に勤めていた頃に近所の知り合いにお願いされて引き受けたんだよ。会社の仕事とは違うところで、自分で自由にデザインしたいと思っていた時期でもあったし。
あと、自分の地元に関わるデザインをしている人はたくさんいるけど、町会という規模でやってる人はなかなかいないでしょ? 町会くらいの距離感になると本当に中にいる人じゃないとできないことだし、そこに取り組むのはおもしろいと思ったんだよね」

江戸時代から続くこのまちの一大イベント・神田祭。具義さんもポスター制作だけでなく、神輿担ぎや子供神輿のサポートなど、町会の一員として担当したこともあります。

「デザインは毎回3〜4案出してるけど、30年以上デザインを続けているともうネタが尽きて大変なんだよ(笑)。だから、ポスターに入れる要素と、赤と黒の2色刷りというルールは決めておいて、その時代に合わせた内容でデザインを考えるようにしてる」

例えば令和5年度版では、コロナ禍を経て久しぶりの開催だったため、「かつげるって、しあわせ。」のコピーと涙を流すイラストがデザインされました。

「あと、普段の広告の仕事だと看板にきれいに掲示されるけど、町会のポスターはまちの人たちが自分の家や店先とかフェンスとかにベタベタと貼っていて、そういう風景もいいんです」

そこで暮らす人の思いを汲み取って、まちに一体感を作ってきた神田祭のポスター。そこには、30年以上関わり続けている具義さんとまちとの長く培われてきた信頼関係が感じられました。


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まだまだ続く具義さんとの散歩。
後編ではお店のデザインについてお話を伺いながら
具義さんがお世話になっているというあのお方に会いに行きます。

後編に続く


Text: Miyuki Takahashi
Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI)

神田いらっしゃい百景|BOOK SHOP 無用之用

神田の街を歩くと次々に目に飛び込んでくるお店たち。色とりどりの看板や貼り紙は、街ゆくすべての人に向けて「いらっしゃい」と声をかけているようで、街の人の気風を感じることができるでしょう。

神田いらっしゃい百景は、街に溢れる「いらっしゃい」な風景をご紹介します。

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BOOK SHOP 無用之用
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1-21−2 一和多ビル2F
アクセス:
地下鉄神保町駅A7出口より徒歩2分

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訪問者 林亜華音
オープンカンダ編集スタッフ。
共同店主の美帆ちゃんは学生時代のインターン仲間。
こんなに愛される場所をつくってるなんてしびれる!

フォトグラファー 池ノ谷侑花
オープンカンダ撮影スタッフ。
神保町よしもと漫才劇場から歩いて3秒のところにあるお店。
ライブ終わりはここに決まり

神田いらっしゃい百景|喫茶プペ

神田の街を歩くと次々に目に飛び込んでくるお店たち。色とりどりの看板や貼り紙は、街ゆくすべての人に向けて「いらっしゃい」と声をかけているようで、街の人の気風を感じることができるでしょう。

神田いらっしゃい百景は、街に溢れる「いらっしゃい」な風景をご紹介します。

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喫茶プペ
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-13-11
アクセス:
地下鉄竹橋駅より徒歩5分
地下鉄神保町駅より徒歩7分

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訪問者 林亜華音
オープンカンダ編集スタッフ。
プペさんのロゴ、よく見ると
半濁点の中がオレンジと紫になっていておしゃれ

フォトグラファー 池ノ谷侑花
オープンカンダ撮影スタッフ。
二代目店長の原さんは、
専門学校(桑沢デザイン研究所)の大先輩!

なんだかんだ2って結局なんだった?|
#1 協力と許可と仲間と資金と

2023年11月3日。
神田錦町にて、路上実験イベント「なんだかんだ2」が開催されました。
第一回目を春先に開催してから半年足らず。
前回の手応えと反省を活かして、
パワーアップした第二回目となりました。

路上に畳を敷き詰めて、さまざまなものごとに出会うそのイベントは
どのようにできて、どんな場所を目指していたのでしょうか。
なんだかんだ2って、結局なんだった?
その疑問に、オープンカンダ編集部が迫ります。

INDEX
#1協力と許可と仲間と資金と
#2 盛りだくさんすぎる演目。みんな何やってた?
#3 クリエイティブディレクターに聞く。これからのなんだかんだ

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プロローグ

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#1
協力と許可と仲間と資金と

神田での路上実験イベントとして立ち上がった「なんだかんだ」。前例がなく、規模の大きい取り組みゆえ、実現はまさに修羅の道でした。
その中で必要となったのが、公共の場で新しい取り組みを始めるにあたって不可欠となる「協力」と「許可」、そして取り組みをより良いものにするためにあると嬉しい「仲間」と「資金」です。

なんだかんだもこれらを地道に集めることで開催にまで至ったわけですが、その裏側を知るのは運営メンバーのごく一部だけ。けれど、こうした取り組みをもっと広く参考してもらえれば更なる街の活用につながるかもしれません。
そう思い立って、なんだかんだ2の開催に先駆けて、開催までの過程を事細かに明らかにしてしまう「なんだかんだプロセス展 ~どのようにして実現できたの?〜」を実施しました。
展示の様子とともに、開催までの過程をご紹介します。

前身となる路上活用の取り組みからはじまりつつ、千代田区による実証実験の公募への落選という苦難の背景があったなんだかんだ。

その後、神田プレイスメイキング実行委員会を発足して体制を整え、実現に向けた千代田区とのすり合わせを重ねていきます。道路という公共空間を使用するとなると、千代田区だけでなく警察や町会などの協力も必要になり、各関係機関への許可申請のプロセスまでつまびらかに大公開。
展示には許可申請書の原本まである驚き!

さらにクラウドファンディングの実施や開催後の来場者アンケート、今後の運営体制など、継続的に続けるための仕組みも明らかにしました。

この街の課題は何か、これをやると誰が嬉しいのか、道路占有よる問題はないか。ひとつひとつ向き合って資料にまとめて各所に説明し、課題点をクリアにしていく。
地道なことですが、膨大な資料はそれらに費やされた時間や労力、さまざまな協力があったことを雄弁に物語っていました。こうしたプロセスを明らかにする展示は今後も路上実験イベントに合わせて継続していく予定です。

そんな流れを経て開催することとなったなんだかんだ2。実際にどんな空間になったのでしょうか。

#2に続く

Text/Edit/Manga: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI)

ご縁がつながるきっかけは「さしすせそ」
神田錦町 みんなのご縁日

夏の余韻がようやく落ち着きを見せ、過ごしやすくなった夕暮れ。10月13日(金)に「神田錦町 ご縁日」が開催されました。

「神田錦町 ご縁日」とは、神田錦町周辺でで働く人、住む人、学ぶ人たちが集まり、ご縁を深めるきっかけを作るイベントで、開催は今年で4回目。
ビルが多く、縁日ができるほどひらけた場所なんてあるのだろうか…
という神田の街ですが、ちよだプラットフォームスクウェアの広場と、隣接する道路と駐車場を大胆に封鎖して行われました。
普段は近隣で働く人々が行き交う場所も、屋台が並ぶとすっかりお祭り空間に。まだ新しい取り組みながらも、昔からの恒例行事かのような盛況ぶりで、遊んで食べて体を動かしながら交流が生まれていきました。

しかし、「交流」と一口に言ってもさまざまなかたちがあります。今回のご縁日に参加して見つけたご縁がつながるヒントを、料理や褒め言葉の基本でお馴染みの「さしすせそ」に乗せてお届けします。

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[さ]あ、よってらっしゃい見てらっしゃい!
おいしい・楽しいが大集合。神田錦町の屋台村

道路や駐車場の屋台では、神田錦町に構えるお店や会社によるおいしいもの、楽しいものが大集合。普段はなかなか触れる機会のない会社の出し物も、「さあ!」と両手を広げて屋台に立つと、たくさんの人がどれどれと吸い込まれていきます。

屋台の中で真っ先に目に飛び込んできたのは、メガネをかけまくる子ども達。今年2023年に移転してきたばかりのJINSによる、制限時間内でいかにメガネをかけられるかを競うゲーム「メガ盛り」です。

その隣には昨年も大人気だったほぼ日の「われてもさみしくないヨーヨー」や神田警察署からはなんと白バイの展示があり(しかも跨いで写真撮影可)、それぞれの個性が溢れたコンテンツが並びます。

また、地元の飲食店も多く出店し、今年オープンしたばかりの「廣瀬與兵衛商店」から神田錦町で50年以上営業を続ける「喫茶プペ」など、古くからあるお店と新しいお店が混ざり合いながら自慢の味をふるいました。

本WEBメディア「オープンカンダ」のクリエイティブディレクションや撮影を担当しているゆかいは、ご近所のボルツと一緒にわたあめ屋台を出店。一度も列が途切れず、3時間で112個売れました。

他の屋台にもひっきりなしに人がやってきて皆さん大忙し。ですが、会社やお店を飛び出して街の人たちと顔を合わせるこの機会を楽しんでいるようでした。

[し]ってた?ご近所の〇〇さん、おめでたいんですって!
神田錦町のおめでたい老若男女をみんなでお祝い

駐車場エリアにはステージが設けられ、壇上にはなにやら緊張の面持ちで座る人たちが。はじまったのは「みんなでお祝いコーナー」。
今年お店をオープンした・成人を迎えたというおめでたい節目を迎えた方や、部活やバリスタの大会での功績など、街を飛び出しての活躍を街の皆さんとともに讃えました。

世界大会で優勝したという方も現れ、えっ!こんなすごいことしてたの!? とざわつく場面も。
こうした場を通して祝い合うことは、身近に頑張っている人がいると感じられて、祝う方も活力をもらえる気がしてきました。

[ず]っと途切れない元気が場をつなぐ。若いパワーたちも炸裂

ご縁日には子ども達や近くの学生も多く集まりました。大人たちのお酒が進んで陽気に出来上がるよりも先に、とにかくずっと元気な若いパワーがこの場の空気を作っていたといっても過言ではありません。

お神輿を引いてパレードしたり、渾身のダンスを披露したり、運営スタッフとして活躍してくれたり。一方で、取材のカメラに何度も映り込もうとしたり、何時間もインターバルなしで鬼ごっこをしていたりと、楽しむプロっぷりを見せつけてくれました。

[せ]いせいどうどう戦えばもはや友。
路上で繰り広げるチーム対抗・綱引き大会

すっかり場があたたまってきたところで、おまちかねの綱引き大会へ。
実はこのご縁日に先駆けて、一ヶ月前に日本綱引き連盟の方から直々にレクチャーしてもらう綱引き講座を開催していました。講座には本戦に挑むチームの8割以上が参加。各々積んできた練習の成果が発揮される場ともあって、異様な緊張感に包まれていました。

前回王者はほぼ日ヒッパレーズ。ほぼ日チームは昨年初参加だったにも関わらず圧倒的な強さで勝利を納め、今年は「打倒ほぼ日」に闘志を燃やすチームが20組エントリーしました。

路上で試合が始まると、大勢の人が集まってきて熱い戦いを見守ります。
綱引きは短期戦ながらも選手も応援陣も一体感がぐっと生まれ、勝っても負けても楽しそうに讃え合う様子が微笑ましくもあります。

トーナメント一巡目の最後には、ついに前回王者・ほぼ日ヒッパレーズが登場です。
いざ試合が始まると、完成度の高いフォームを披露(写真で振り返ってもきれいすぎる)。強さも圧倒的でギャラリーからは「なんか息が揃いすぎててぞくぞくする…!」との声も聞こえてきました。

決勝戦は、パワー系のメンバーが集まる安田不動産チームと、年齢の幅が広いほぼ日チームの戦いに。ギャラリーが一層増え、勝負の行方に注目が集まります。

3本勝負の末、優勝はほぼ日に!決勝まで油断も隙も与えない強さを見せ、会場を大いに盛り上げてくれました。この高い壁を破ることはできるのか…来年の大会もいまから期待されます。

[そ]れちょうだい!街のみんなで運を競って大盛り上がり。

白熱した綱引き大会の後は、最後の催しのお餅配り。400個用意のあったお餅たちが、みるみるうちに街の皆さんの手に渡っていきます。

しかしこのお餅、ただのお餅ではありません。袋に意味深な番号が書かれた紙が入っている…と思ったらくじ引き大会がスタート。

町会長が番号を引き、当たった人が景品をもらえるということで会場が息を呑んで番号を見守ります。景品は、今年神田錦町にオープンしたThink CoffeeのコーヒーチケットやJINSが手掛けるONCA COFFEEの詰め合わせ、神田ポートのお土産セットなど神田錦町にまつわるものでどれもほしい…。

会場の皆さん前のめりになりつつ、外れたとしてもちゃんと讃えて暖かな雰囲気に。一番最後の目玉景品・お掃除ロボットは女の子の手に渡り、微笑ましくくじ引きは終了。

最後は木遣りと神田一本締めで場がきれいに収まり、潔くお開きとなりました。

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振り返るとわずかな時間のご縁日でしたが、たくさんの人が次々に訪れ、ちょっとよそよそしく声をかけたり、初対面同士で笑い合ったりと、交流が生まれる場面をたくさん見ることができました。
「これも何かのご縁」とは言ったものですが、縁のはじまりはきっとこれくらい些細なことかもしれません。

道路や駐車場を封鎖したり、おめでたい人をみんなでお祝いしたり、この街らしさが溢れた「神田錦町 ご縁日」。ここで得たご縁を通して、この街の一員であることを改めて感じるとともに、神田錦町の今後がぐっと楽しみにもなるひとときでした。

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Mariko Hamano

神田いらっしゃい百景|廣瀬與兵衛商店

神田の街を歩くと次々に目に飛び込んでくるお店たち。色とりどりの看板や貼り紙は、街ゆくすべての人に向けて「いらっしゃい」と声をかけているようで、街の人の気風を感じることができるでしょう。

神田いらっしゃい百景は、街に溢れる「いらっしゃい」な風景をご紹介します。

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廣瀬與兵衛商店
〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-17 廣瀬ビル1F
アクセス:
地下鉄竹橋駅 3b出口より徒歩5分
地下鉄神保町駅 A9出口より徒歩5分

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訪問者 林亜華音
オープンカンダ編集スタッフ。
いろいろと落ち着いたら
炭火できりたんぽを焼く暮らしがしたい。

フォトグラファー 池ノ谷侑花
オープンカンダ撮影スタッフ。
とりあえず炭持ってきたよー!と言いながら現れる、
焚き火が趣味な友人がいる。

神田いらっしゃい百景|学士会館

神田の街を歩くと次々に目に飛び込んでくるお店たち。色とりどりの看板や貼り紙は、街ゆくすべての人に向けて「いらっしゃい」と声をかけているようで、街の人の気風を感じることができるでしょう。

神田いらっしゃい百景は、街に溢れる「いらっしゃい」な風景をご紹介します。

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学士会館
〒101-8459 東京都千代田区神田錦町3-28
アクセス:
地下鉄神保町駅 A9出口より徒歩1分
地下鉄竹橋駅 3a出口より徒歩5分
JR御茶ノ水駅 御茶ノ水橋口より徒歩15分

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訪問者 林亜華音
オープンカンダ編集スタッフ。
学士会館の扉の「引」の文字がかわいくて
キーホルダーにしてほしいです。

フォトグラファー 池ノ谷侑花
オープンカンダ撮影スタッフ。
推しが学士会館で撮影していたことがあり
行くたびにハッピーな気持ちに!

なんでもアカデミック!|まちに眠る遊びを取り戻す。これからの遊び再考【後編】

「学問の街」と呼ばれる神田。
それは大学や書店が多く集まっていることから来ていますが、学問という言葉が「知の体系」を意味するように、人々の学びへの熱量が絡み合ってきたまち、とも言えます。

「なんでもアカデミック」は、そんな学びが深く根づくこのまちで、多様な分野で活動する方々とあらゆるものをアカデミックに捉えて掘り下げていく企画です。

今回は「遊びは学び」をテーマに、車に遊び道具を詰め込んで神田をはじめ日本各地に遊び場を仕掛ける星野諭さんをゲストにお迎えし、ナビゲーターの丑田俊輔さんとともに、遊びの真髄に迫ります。
前編では外遊びの現状、星野さんが手掛ける移動式あそび場についてトークを繰り広げ、遊びがもたらすパワーを再確認。後編では、まちに遊びを取り戻すにはどうすれば良いのか?ちょっとした実践も交えて、参加者の皆さんと考えていきました。

前編はこちら

星野諭さん
移動式あそび場全国ネットワーク 代表 /プレイワーカー/一級建築士/こども防災活動家
1978年新潟生まれ、野山で遊び、薪風呂で育つ。2001年の大学時代にNPO団体設立。神田で空き家を改装した子ども基地や地域イベント、子ども参画のまちづくりやキャンプなど実施。また、2008年には、移動式あそび場を本業とし、大都市部から里山、被災地など数人~数万人の多様な事業を展開している。

丑田俊輔さん
神田錦町の公民連携まちづくり拠点「ちよだプラットフォームスクウェア」を運営。日本IBMを経て、新しい学びのクリエイティブ集団「ハバタク」を創業し、国内外を舞台に様々な教育事業を展開。2014年より秋田県五城目町在住。遊休施設を遊び場化する「ただのあそび場」、住民参加型の小学校建設や温泉再生、コミュニティプラットフォーム「Share Village」等を手掛ける。

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⚫︎STUDY3 オフィス街での、遊びの余白の見つけ方

もっと遊びの光景を増やすために、例えば神田のまちではどういったことができるのでしょうか。神田に長く関わるお二人だからこそ見える可能性に迫ります。

丑田 僕も学生時代から神田に関わっていますが、「粋な遊び人のまち」と言えますよね。町会でやっている縁日なんかに参加すると、お店出す側も飲みに来る側もごちゃ混ぜになりながらはっちゃけてる(笑) 町会の方々も本気でハレの日楽しんでいて江戸っ子らしいというか。

星野 僕がこのまちにハマった理由には、山奥の田舎と神田の人間臭さが似ているということがすごくあって。こんなビルに囲まれたまちでも住んでいる人がたくさんいて繋がりがある、目には見えないコミュニティの存在に面白さを感じたんですよね。

丑田 人間臭さ!わかります。都市ってよくコミュニティがないと言われますが、あるところには地域性とか遊び心、関係性なんかもしっかり残ってますよね。
一方で、やっぱり常設の遊び場がビルの建て直しでなくなってしまうとか、公園のルールが厳しくなって余白が減り始めているのも都市の問題だなと思います。

星野 都市では制約によってなかなか柔軟に考えづらいと思うんですが、移動式あそび場のようなアイデアはそこを突破するきっかけをつくれるんですよね。
例えば神田のようなオフィス街でも、あのビルのワンフロアは何時から何時までなら開放できるとか、ここの駐車場は土日誰も使ってないよとか、時間軸でまちを見ると余白ってたくさんあるんです。

丑田 なるほど…空間ではなく時間で見るのは面白いですね。時間で区切って余白を探すのであれば、新設したりフルタイムで占有するよりずっとハードルが低いし、なによりいろいろな場が見つかりそうです。

星野 そうなんです。一定時間道路を封鎖して歩行者天国にするのと同じように、今回の会場のちよだプラットフォームスクウェアなんかも、ウッドデッキの下に遊び道具を収納しておいて、空いてる時間にすぐ遊び場に展開させるといったことができますよね。
そうやって場をトランスフォームできるようにしておくと、例えばポールを立てる装置一つにしても、遊ぶ時は登り棒になって、イベント時はステージが建てられて、災害時には仮設テントを設置できるみたいな。いろんな場面に備えておくこともできるんですよね。

丑田 エヴァンゲリオンの第3新東京市みたいなやつですよね(笑) 非常時になると建築物がガシャーンと地面に収容されて。ハレとケと緊急時とで都市の形が変動していくというのは、テクノロジーの発展も相まってこれからできそうな感じがしますね。

⚫︎STUDY4 遊びで大人の思考をアンラーニングする

まちに遊びの環境をつくるには、まちを動かす大人たちと遊びの関係も見直さなくてはなりません。歳を重ねるにつれて遊びとの距離が離れていきがちですが、改めて遊びを考えると、大人にこそ遊びが必要なのでは?という話に。

丑田 いままでの話を振り返ると、遊びって子どもだけのものじゃなくて、大人たちこそ遊びをどう取り戻すかを考えるべきなんじゃないかと思っていて。大人になると、あらゆることに意味とか意義を求められていくじゃないですか。でもそういう制約の中で新規事業を考えろとか言われても、つまらないコピペばかりになってしまう。
そこで、子どものように意味もないし役に立つかわからないけど夢中になって遊んでるみたいな営みを、大人がどう持てるのか考えないと次に進めないように思います。

星野 遊びって正しい答えがないし、評価されないじゃないですか。そこが子どもにとっても大人にとってもいいと思うんですよね。遊びは、その人にとって楽しかったり夢中になれるのであればそれが一つの正解なわけで、それが自己肯定感だったり自分が心からしたいと思う本能的なものに繋がっていくんです。

丑田 ジャッジされない世界があることは大事ですよね。
あと、大人になって経験を積むほど思考が凝り固まりがちですが、それをアンラーニングするというか、手放すことって遊びから始められる気がします。ちょっとおどろおどろしいけど森に行って遊んでみようとか、自分の体験や知識の外側にアクセスする営みでもあるなぁと。

星野 遊びを通して自分のしたいことを知るという側面もありますが、誰かと遊ぶことで痛みを覚えたり、でもこうすると喜ばれて一緒に幸せになれるんだって学んでいきますよね。
遊びは人間の基礎のところにあるもので、もう生きるための衣食住と同じくらい重要ですよ。

丑田 衣食住遊、本当にそうですね。子どもの遊び環境と大人の遊び心をどう取り戻すのか、オフィス街だけど粋な遊び人たちの気風がある神田だからこそ何かアクションを起こせるんじゃないかと思いました。今回のアカデミックという側面も深めて、遊びが持つ力とか意義をしっかりと捉えていきながら、遊びにあふれた神田になっていけるんじゃないかなと。
星野さんの移動式あそび場もありますし、真面目に話すのはこの辺りまでにして遊びながら続きを考えましょうか(笑)

⚫︎WORKSHOP 遊びは実践あるのみ

トークの後は星野さんレクチャーのもと、遊びを開発するワークショップを実施。
「トークしてる時から遊びに使えそうで気になってしょうがなかった」と言って参加者が座っている赤白の椅子を指差し、それで遊びを考えてみることに。

星野さんの移動式あそび場では、遊びの材料にもこだわりがあり、地域で拾った自然素材や廃材を譲り受けたものだったりと、製品化されたおもちゃとは違ってどう遊ぶかは発想次第のものが多くあります。
このワークショップでは、そうした遊びの発想を引き出すべく、3〜4人のチームに分かれて3分間で椅子を使ってどんな遊びができるか、実際に実現できるかは置いておいて自由にアイデアを出し合いました。

最初はなんとか捻り出しながらも、次第に頭がほぐれてそこかしこからアイデアが飛び出していきます。モグラ叩きをする、穴を使っておみくじをつくる、お尻にいくつ丸の跡を付けられるか競う、といった破天荒なものまで、3分で30以上もの遊びのアイデアが誕生しました。

「中には歴史上で誰もやったことないんじゃないかってものも生まれるんです。こういう遊びの発想ってクリエイションの原点なんですよね」と星野さん。
確かに、大人でも一度この遊びの発想を手に入れると、まちで何ができるかをすごく柔軟に考えることができる気がします。

その後は、星野さんの移動式あそび場で日が暮れるまで語り、遊び倒しました。
(がらんとしたスペースに、あっという間に遊び場をつくってくださいました↓)

はじめて遊びを真剣に考え、改めて遊びをじっくり実践するひとときを経て、何か新しい力を手に入れた気がする今回の企画。楽しもうとする遊びの視点でまちを見てみると、気づかなかったまちの魅力や可能性が自ずと見えてきそうです。
なんにせよ、遊びは実践あるのみ。これを機に神田のまちでさまざまな遊びにトライしていく予定ですので、今後にご期待ください!

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI)
Title Design: Kosuke Sakakibara(BAUM)

なんでもアカデミック!|まちに眠る遊びを取り戻す。これからの遊び再考【前編】

「学問の街」と呼ばれる神田。
それは大学や書店が多く集まっていることから来ていますが、学問という言葉が「知の体系」を意味するように、人々の学びへの熱量が絡み合ってきたまち、とも言えます。

「なんでもアカデミック」は、そんな学びが深く根づくこのまちで、多様な分野で活動する方々とあらゆるものをアカデミックに捉えて掘り下げていく企画です。

第二回目のテーマは「遊びは学び」。相反するような言葉ですが、子どもの頃に遊びを通して学んだことは多いのではないでしょうか。
車に遊び道具を詰め込んで神田をはじめ日本各地に遊び場を仕掛ける星野諭さんをゲストにお迎えし、ナビゲーターの丑田俊輔さんとともに、遊びの真髄に迫ります。
今回は遊びがテーマなのでかしこまってトークをしてもちょっと味気ないということで、公開インタビュー+ワークショップ形式にて決行。前編後編の2回に分けてお届けします。

星野諭さん

移動式あそび場全国ネットワーク 代表 /プレイワーカー/一級建築士/こども防災活動家
1978年新潟生まれ、野山で遊び、薪風呂で育つ。2001年の大学時代にNPO団体設立。神田で空き家を改装した子ども基地や地域イベント、子ども参画のまちづくりやキャンプなど実施。また、2008年には、移動式あそび場を本業とし、大都市部から里山、被災地など数人~数万人の多様な事業を展開している。

丑田俊輔さん

神田錦町の公民連携まちづくり拠点「ちよだプラットフォームスクウェア」を運営。日本IBMを経て、新しい学びのクリエイティブ集団「ハバタク」を創業し、国内外を舞台に様々な教育事業を展開。2014年より秋田県五城目町在住。遊休施設を遊び場化する「ただのあそび場」、住民参加型の小学校建設や温泉再生、コミュニティプラットフォーム「Share Village」等を手掛ける。

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⚫︎STUDY1 そして誰も外遊びをしなくなった、となる前に

さまざまなエンターテイメントコンテンツが生まれ、新しい遊びの体験に溢れている現在。一方で、身一つで外に繰り出して遊ぶことも、アイデアや工夫次第でいかようにも遊ぶことができ、無限の自由度があります。しかし、外での遊びが昔と変わってきているのだとか。一体何が起きているのでしょうか?

丑田 星野さんは長年遊び場を手がけていらっしゃいますが、どういったきっかけがあったのでしょうか?

星野 僕は新潟の妙高生まれで、大自然に囲まれて育ちました。大学進学とともに東京に出てきたんですけど、あまりにも生まれ育った環境と違うぞ…と。公園には禁止事項があるし、まちは石ひとつ落ちてないようなきれいさだし、もっと言うと外で誰も遊んでもいない!といった状況で、その衝撃が大きかったんですよね。
そんなことを感じつつ、建築を学びながらも子どもたちと何かしたいと思ってプレーパークのお手伝いをしたり子どもキャンプを企画したりして、そのままNPOを立ち上げて2001年に本格的に活動を始めました。

丑田 20年以上取り組まれる中で、遊びに対して感じる変化ってありますか?

星野 子どもの外遊びに関する研究でちょっと衝撃的なデータがあって。コロナ禍に入る以前の2017年に千葉大学の研究室で実施されたものなんですが、平日の一週間に外で遊ぶ日数を調査をしたところ、都市部で8割の子どもが「0日」と回答しているんです。

丑田 週5日中、ゼロですか…。コロナの影響関係なくそういった状況になってるんですね。

星野 公園の禁止事項の話に繋がりますが、余白のないルールの中で遊びなさい、と大人が決めてしまったことが大きいと思うんですよね。
一方で、我々大人は子ども時代に何をして遊んでたか思い返したいんですけど、丑田さんはどこで何をされてました?

丑田 育ちは東京の清澄白河で江戸の下町という感じなんですけど、近所にあった駄菓子屋をアジトにしてドロケイしていた記憶がありますね。

星野 まちを舞台に、いいですね。駄菓子屋を勝手に自分の拠点にしちゃうことなんかまさにそうですが、やっぱり大事なのは遊びを受け入れる豊かな環境をまちが持っているかだと思うんですよ。
僕のもうひとつ上の世代なんかは、規制が全然ないのでとんでもなく面白い遊びが開発されてるんです。例えば神田だと、野球をしたい子どもたちが、野球できるほど広い場所がないのでゴロベースという道でできる遊びを編み出して。球を下投げで転がして指先をバットがわりにコンクリートすれすれのところを思い切り振るっていう。めちゃくちゃ怖いんですけど(笑)

丑田 野球をしたいという願望から、この環境の中でどうできるか、新しい遊びを開発するということが自然に起きていたんですね。

星野 そうです。なので、まちとして野球ができるような広い場をつくることもできたらもちろんいいですが、いまある環境を活かして遊べるまちであることが大事だと思うんです。

丑田 それこそまちでプレイフルに遊ぶことに繋がりますね。合理的に設計された都市の中で、余白という意味での遊びを持たせた環境をどうつくっていくかが、すごく重要な気がします。

⚫︎STUDY2 場所を問わない、移動式あそび場の可能性

外での遊びの現状や可能性を語っていただいたところで、あらゆる遊びを提供する星野さんは実際どういった場をつくっているのでしょうか。さすが遊びのプロ…とこぼさずにはいられない、柔軟な発想と行動力にあふれたエピソードが飛び出しました。

星野 ちょうど25年前、僕の原点と言える活動があって。神田多町2丁目の路地にある築45年の空き家を借りて、子どもの遊び場をつくったんです。当時関わるメンバー全員学生だったのでお金がなく、頼み込んで家賃下げてもらってセルフビルドでなんとかやりくりして、2階は学生のシェアハウス、1階は子どもの基地みたいに開放して、遊べる場所をつくりました。

神田多町2丁目につくられた遊び場の様子

星野 特に神田は道路率(道路が区域の面積に占める割合のこと)がとても高く、道文化が根付いている地域なので、道を使って子どもたちの作品を展示したり、いろいろと街を巻き込んでいきました。
そこから2年半ぐらい活動を続けていたのですが、建物が取り壊しとなってしまって。困ったぞと思いつつ生まれたのが、いまメインで活動している移動式あそび場でした。

丑田 さらっと大きな転換を遂げていますが、どのようにして思いついたんですか?

星野さんが手がける移動式あそび場

星野 新しい拠点探しに難航していた頃、ふと目の前に自動販売機に商品を補充するボトルカーがやってきたんです。それを見て、この中に子どもの遊びの材料を詰め込めばいいじゃん!巨大なおもちゃ箱になるぞ!と閃いて(笑)
すぐにボトルカーを持っていそうな大手飲料メーカーに「子どもたちに遊びを出前したいので車ください!」と片っ端から電話しました。その中で、自動車会社の財団で地域活性に関する助成の募集をしていると教えてもらい、無事通って2008年にできたのが第1号です。いまでは4号にまで増えました。

丑田 発想も行動力もすごい…!移動式だと、いつでもどこでも遊び場にできるというのが強いですよね。

星野 そうですね。移動式あそび場にしたことで日本各地で展開できるようになって、遊び場をつくる目的も広がりました。
まず一つは、将来的に僕らが行かなくてもいいように常設の遊び場をつくりたいと思っていて、その点で移動式あそび場は実証実験的な役割を持たせられるんですね。月に一度遊び場を展開しながら今後どういった場をつくるといいか、地域の方々の意見を聞くワークショップもやったりしています。

丑田 どういう場がほしいかって、頭だけで考えてもなかなか思いつかなかったりするので、実際に遊び場を見ながら考えられるのはすごく建設的ですね。

星野 あとは、企業とコラボレーションして環境や防災について遊びを通して学ぶ場をつくったり、遊びを介して多世代交流の場をつくったり、被災地に遊び場を届けたり。いろいろな形で遊びの可能性や価値を発信しています。

丑田 遊びのパワーが災害支援に繋がるということって、確かにありますね。僕のもう一つの拠点である秋田の五城目町は、7月の豪雨災害で復旧作業に追われていて、子どもたちの居場所をどうするかという問題がありました。浸水後の家屋や屋外は衛生環境的にもハードな側面もあって。なので、商店街の遊び場や廃校を活用したシェアオフィスを開放して、そこの給湯室で炊き出しなんかもしてるんですけど、子どもたちは遊びの延長線でひたすら野菜を切ったり調理を手伝ってくれてるんですよ。
そういう光景を目の当たりにして、遊びって学びとか社会の繋がりとかいろいろなものの原動力になるんだなと改めて感じますね。

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なんとなく捉えていた「遊び」について、研究データや活用事例を交え、その輪郭が少しずつはっきりとしてきました。後編では、神田のようなオフィス街での遊びのつくり方やビジネスパーソンが遊びを取り戻すには?など、実践に向けてさらに語っていきます。

後編へ続く

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI)
Title Design: Kosuke Sakakibara(BAUM)

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