神輿をつなぐことで、この街がこの街であり続ける|三崎稲荷神社例大祭 後編
神田の街には、ビル群の狭間や路地の一角に、数百年の歴史を刻む神社が佇む光景がよく見られます。
水道橋駅から徒歩2分。東京ドームのお膝元と言える場所に静かに鎮座する「三崎稲荷神社」もその一つ。2026年5月3、4日、地域の繁栄を祈願する「三崎稲荷神社例大祭」が開催されました。水道橋駅から神保町駅の間に広がる氏子地域(氏神が守護する地域)である9つの町会がそれぞれの半纏に身を包んで神輿を担ぎ、街中を練り歩いて活気と熱気を届けていきます。
後編では、2日間にわたって行われた「連合渡御」と「宮神輿渡御」に密着。白熱した様子をたっぷりご紹介します。
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●1日目|連合渡御
1日目は9町会の町神輿の連合宮入りをした後、すべての町神輿が集合して連合渡御へ。9基の神輿が一堂に介すとなるとそれなりの空間が必要になりますが、なんと今年の例大祭では白山通りと靖国通りを封鎖! 通りに9基の神輿が整列し、500m程の距離を担いで、神保町交差点を目指していきます。
片側三車線の大通りを9町会の神輿と半纏で埋め尽くす様子は圧巻。気迫を漂わせながら、連合渡御は行われました。









神保町交差点に到着すると、9基の神輿が順々に旋回していきます。太鼓の音頭に合わせて掛け声にも熱が入り、威勢よく旋回する様子はダイナミック。









たまたま居合わせた来街者によるギャラリーも集まり、大きな盛り上がりを見せた後は速やかに解散して道路を開放。この切り替えの速さも都心のお祭りならではかもしれません。街の人たちの熱量はそのままに、次の日に続きます。
●2日目|宮神輿渡御 出社祭・宮出し
三崎稲荷神社例大祭の2日目には、約10時間にわたる宮神輿巡幸が行われます。神田三崎町町会、神田三崎町一丁目町会、西神田町会、神保町一丁目北部町会、神西町会、西神田三丁目町会、北神町会、神保町三丁目町会、一神町会の9町会が順番に神輿を次の町会へつないでいきます。水道橋駅から神保町駅の間のエリアにひしめく町会を一歩一歩丁寧に練り歩き、繁栄を祈願する大事な一日のはじまりです。


境内の外からも存在を感じさせる宮神輿が、あたりの空気を厳かにします。


氏子青年会のメンバーに担がれた宮神輿が鳥居から姿を現すと、ワッ!と歓声が上がります。


●神輿巡幸 神田三崎町町会

はじめに神輿が渡ったのは、神田三崎町町会。この界隈は、江戸幕府が開かれる頃まで、日比谷入江という遠浅の海に突き出た土地の端にあったため、「ミサキ」村と呼ばれていたことに由来します。
現在は駅前という立地から飲食店が集まるエリアで、ひしめくビルを縫うように練り歩いていきます。






●神輿巡幸 神田三崎町一丁目町会

約40分の巡幸を経て、神輿は神田三崎町一丁目町会へ。三崎稲荷神社が鎮座するエリアで、いわば宮元。白山通りをまたいだり、線路沿いを巡幸したりと、この地形ならではのルートを進みます。



神輿と観覧車がセットで見られるのもこの地域ならでは。


●神輿巡幸 西神田町会

続いて神輿をつなぐのは、江戸時代は武家屋敷が立ち並ぶ地域だったという西神田町会。深緑の渋い半纏が一層神輿の輝きを増して見せます。





●神輿巡幸 神保町一丁目北部町会

西神田町会のエリアから下へ、靖国通りまで広がるのは神保町一丁目北部町会。老舗洋食屋「ランチョン」が位置し、神保町駅から地上に出た時に多くの人が目にするお馴染みのエリアです。


安全に配慮しながら、しっかり掛け声を届けていきます。




●神輿巡幸 神西町会

神西町会はかつて中猿楽町と呼ばれ、猿楽(のちの能楽)の一座があったことに由来します。神保町駅から水道橋方面に続く白山通り沿いには、さまざまなお店が立ち並び多くの人で賑わいます。この日も多くの注目を集めながら、神輿が街を巡りました。





●神輿巡幸 西神田三丁目町会

西神田三丁目町会は、その名の通り神田界隈の中でも西側に位置するエリア。首都高を境にしていることもあり、高架下沿いを巡幸する様子はなかなか稀有な光景。ビルの集積を抜けて、掛け声が響き渡りました。






●神輿巡幸 北神町会

北神町会は、かつて学校や病院が建ち、教育と医療の街として発展してきました。小さなエリアですが、町会の方々の熱量は高く、赤い鉢巻と「北神」の文字が地域を埋め尽くすとなんとも鮮やか。





●神輿巡幸 神保町三丁目町会

神保町三丁目町会は、靖国通りを跨いで、専修大学神田キャンパスやさくら通りにまで広がります。学生や観光客の注目を浴びながら、神輿が巡幸していきました。





●神輿巡幸 一神町会

一神町会は、神保町駅から共立女子大学や如水会館へ広がるエリア。宮神輿巡幸では旧岩波ホールや矢口書店などを巡って大いに盛り上げ、宮入り渡御へとつなぎました。





●宮入り渡御
9町会が集合し、いよいよ宮入り渡御へ。宮入り渡御のルートは三つの区間に分けられ、3町会ごとに協力して神輿を担いでいきます。













長い2日間が締めくくられました。

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街がその街らしくあるために、地域の人が想いを巡らし、受け継いでいく。
いかなる地域にも共通する営みかもしれませんが、街も暮らしのあり方も変わりゆくなか、それを維持する難しさも増しているように思います。
それでも三崎稲荷神社の例大祭には、「伝統」という言葉で終わらせずに、街にとっての意義を考え続けながら受け継ごうとする、真摯な姿勢がありました。
神輿を担いで巡行することは、祭礼における一つの形式にすぎません。しかし、どこで、誰と、どのように担ぐかで、生まれる景色は全く異なります。それは地域が違えば景色も違う、という単純な話ではなく、半纏の着こなしや声の掛け方ひとつにも、その街らしさが滲み出ていくということです。
街の姿は、これからも時代とともに移り変わっていくでしょう。それでも本当の街らしさは、人々の営みの積み重ねによってつくられていく。三崎稲荷神社の例大祭は、そのことを深く感じさせてくれました。
Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI), Akiko Sugiyama