ジャズの音色に誘われて、人とまちがひらかれていく|
神田淡路町「JAZZ AUDITORIA」レポート
神田淡路町で毎年4月に開催される「JAZZ AUDITORIA」。南青山のジャズ・クラブ「ブルーノート東京」による選りすぐりのジャズミュージシャンたちの演奏を、誰でも無料で楽しむことができる贅沢な3日間です。
生演奏を聴く機会はそうなくても、喫茶店や映像のBGMなど日常で耳にする場面が意外と多いジャズ。幅広い層にとって、耳馴染みのあるジャンルとも言えるかもしれません。
そんなジャズを堪能できるJAZZ AUDITORIAは、なぜ神田淡路町で誕生し、どういった場を生み出しているのでしょうか? インタビューと現地レポートを通して、背景やジャズの魅力、この場ならでは楽しみ方についてたっぷり迫ります。
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●企画メンバーから見る「JAZZ AUDITORIA」
JAZZ AUDITORIAは、ジャズに特化しただけでなく、いわゆる野外音楽イベントとは違った特徴が会場にあります。会場となるのは、オフィス・住宅・商業施設・コミュニティ施設・広場・学生マンションなどを備えた、神田淡路町にある複合施設「ワテラス」。ビルに囲まれた一角がジャズで満たされるその光景は、全国的に見ても稀有なものです。
珍しくもありながら、ジャズファンから地域の方まで親しまれるこのイベントは、どのように紡がれてきたのでしょうか。実行委員のメンバーである、株式会社ブルーノート・ジャパンの人見良一さんと安田不動産株式会社の内海涼帆さんにお話を伺いました。

——東京都心での野外音楽イベント、それもジャズ限定というのは非常に珍しいと思いますが、どういった背景で始まったのでしょうか?
人見 JAZZ AUDITORIAは、ユネスコとユネスコ親善大使を務めるピアニストのハービー・ハンコックが2011年に提唱した『インターナショナル・ジャズ・デイ』に賛同するかたちで2013年に立ち上がりました。
インターナショナル・ジャズ・デイとは毎年4月30日に行われるジャズを祝う国際デーで、ジャズを通じて世界の多様な文化への理解を深めながら、十分な教育環境にない地域の少年少女たちにジャズを届けることを目的に、世界各国でさまざまなイベントが開催されます。 JAZZ AUDITORIAも日本における取り組みとして4月30日に合わせた時期に開催を続けており、今年で14回目を迎えます。

——初回からこれまでワテラスを会場とされていますね。なぜこの場所での開催に至ったのでしょうか。
内海 背景としては、ワテラスという施設自体の立ち上げに遡ります。安田不動産はワテラスの開発・運営を行っていますが、神田淡路町の再開発事業として、ただ建てて終わりではなく、建物を活かしたづくりをどう実現するかを検討していました。神田淡路町の周辺は、喫茶店や楽器店街が古くから根付くエリアです。そこに「ジャズ」をまちの象徴として打ち出すことで、コミュニティが広がり、文化が育まれていく。そんなまちづくりを目指したいという思いがありました。
——ジャズには即興性や演者と観客の距離の近さといった特徴があり、コミュニティや交流を生むことと親和性が高そうですね。
内海 そうなんです。そこでまずは、ワテラスに音楽やジャズの拠点をつくりたいと考え、ブルーノートさんにカフェダイニング『Cafe, Dining & Bar 104.5』をご出店いただいたことがご縁の始まりです。さらにワテラス開業の際には、こけら落としとなるイベントの企画もご相談し、JAZZ AUDITORIAへと繋がっていきました。ワテラスに関わる様々な方や地域の方とともにまちをつくっていきたいという思いも重なり、このまちの風物詩となるように開催を続けています。
●街中で、いい音楽に身を委ねる心地よさを
——街中でのジャズイベントを開くことにはさまざまな困難や挑戦があったと思います。どのような場を目指されたのでしょうか。
内海 ジャズはなかなか入り込みづらいジャンルというイメージがあるため、そこを変えていきたいという話を最初からしていました。ワテラスの広場というオープンスペースを活かし、普段ジャズに馴染みのないお子さんから高齢の方まで、気軽にジャズに触れてもらえる場になるようにずっと意識しています。これまでの積み重ねの中で、着実に体現できているように思いますね。

人見 街中でBGMとしてジャズを耳にすることはあっても、プロのアーティストによるライブを体験する機会はなかなかありません。ただ、いい音楽に触れると自然と体が動いて、とても心地良いんですよね。それがライブの醍醐味であり、ジャズの魅力を体感できる瞬間だと思うんです。街中であってもそうした心地良さを存分に味わってもらえるよう、音楽に身を任せて楽しめる開放的な場を目指しています。
——ワテラスの屋外広場が会場ですが、ライブハウスやコンサートホールとの違いや工夫している点はありますか?
内海 屋外でかなりの音量で演奏をするため、近隣の皆様からご理解を得られるよう、毎年丁寧にご説明を重ねてきました。その結果もあり、10数年を経てこの取り組みが地域に根付いてきたと感じています。そうした屋外ならではの難しさがある一方で、屋外開催だからこそまちの皆さんに届けることができたと思いますね。
もう一つ、「無料で鑑賞できる」という点も、開放的に楽しんでいただくために初回から変えずに大切にしていることです。ただ、会場は一施設の広場スペースなので、他の音楽フェスと比べると圧倒的に狭いんです。その中で、音の伝わり方や導線を考えることは悩ましくもあり、やりがいでもありますね。
人見 空間全体を見渡せる規模だからこそ、どこにいても音楽を楽しめる環境づくりを細かく検証しています。当初は事前受付もなく、初回は来場者数の予測が全く立てられませんでしたが、改善を重ねていまでは安心して楽しめるイベントになりました。広場に寝転がりながらでも、子どもと遊びながらでも楽しめると思います。
内海 このイベントは規模よりも体験の質を優先しています。来てくださった方がいい環境でいい音楽に触れられる場となるよう、空間のつくり方や人の密度のバランスを常に探り続けていますね。

●ジャズイベントだからこそできること
——開かれたジャズイベントとして着実に根付いているJAZZ AUDITORIAのブレない軸はどこにあるのでしょうか。
内海 変わらないのは、ジャズイベントとしてのクオリティへのこだわりです。ブルーノートさんに総合監修いただいているので、出演アーティストのアサインから音の届け方まで一切妥協していません。それは初回から自信を持って言えることですね。
人見 アーティストに関しては、これから成長していくアーティストはぜひ多くの方に見ていただきたいですし、これまでにない組み合わせや大御所への声がけも大切にし、コアなファンから初めて聴く方まで楽しめるラインナップを意識しています。
内海 出演アーティストの方からも、オープンな場でのジャズイベントは新鮮だと好評で、お互いにとっていい場がつくれているように感じますね。
人見 もう一つの軸として、インターナショナル・ジャズ・デイの精神に立ち返り、ジャズがもたらす空間を通じて音楽や文化、人との交流がこの場から生まれることを意識しています。
開催当初はお子さんが少なかったのですが、キッズスペースを設けてから親子連れが増えました。一方で、ジャズファンの方も初回から毎年多く来てくださっていて、コアな方にも評価いただいています。ジャズを中心に添えながら、幅広い方々が緩やかに同じ時間を共有できる場になっていると思います。

——音楽イベントの中でも、“ジャズイベント”だからこそつくれている風景や体験がありそうですね。
内海 ライブハウスやコンサートホールではない開かれた場所だからこそ、生まれる一体感があると思います。落ち着いた雰囲気の中で心地よく過ごせるのも、ジャズならではの空気感ですね。
人見 ジャズには同じ演奏というものが基本的にありません。五線譜通りではなく、会場の雰囲気やバンドの熱量によって演奏が変わってくる。その瞬間を肌で感じてもらうこと自体が、ジャズイベントらしい体験だと思いますね。
●神田淡路町の象徴としてのジャズ
——どこからでも自由に楽しめるとのことですが、お二人のおすすめの楽しみ方はありますか?
内海 個人的には3日間通しで来ていただきたいですね。アーティストによって音の鳴り方も盛り上がり方も全然違いますし、何より無料ですからぜひ最大限に楽しんでほしいと思います。
飲食ブースやキッズスペース、大学や町会と連携したブースもあるので、食べながら、誰かとお喋りしながら楽しめるというのもここならではの醍醐味です。
人見 何も考えずに好きな時間にふらっと来て、音楽に身を委ねるのもおすすめです。いい音楽に触れて思わず立ち上がって拍手したり、体が揺れたり、自然に出た反応に身を委ねてみてほしいですね。周りも自由に楽しんでいる人ばかりですから。

——最後に、ブルーノートさん、安田不動産さんそれぞれにとってJAZZ AUDITORIAはどういった存在でしょうか。
人見 ジャズを通じて人々が集い、心から楽しめる時間を提供する存在だと思っています。ジャズは自由で、子どもから大人まで楽しめる音楽です。 敷居が高いと言われることもありますが、そんなことは気にせず、ジャズを全身で浴びながら休日のひとときを楽しんでいただきたいですね。
内海 一言で言えば「象徴」です。地名や会社名を聞いた時に「JAZZ AUDITORIAをやっているところだよね」と思ってもらえる、安田不動産にとっても神田淡路町やワテラスにとっても、唯一無二のシンボルだと思います。今後は興味を持っていただける方をさらに増やしながら、より磨きをかけ、このイベントに関わる全員が心からいいなと思えるイベントに育てていきたいですね。

ジャズの魅力を活かし、まちに開かれた場をつくっていく。
まちにはさまざまな思いや要素があり、予測できないこと・コントロールできないことも多くあります。それでも親しまれるイベントを14年にわたって築き上げてきた背景には、ジャズと地域に向き合ってきたそれぞれがチームを組むからこそ、成し得ていることだと感じました。
●良質なジャズを存分に浴びる。JAZZ AUDITORIA現地レポート
迎えたイベント当日、3日間天気に恵まれ、8組のアーティストがステージを披露しました。ここではフィナーレとなる最終日の様子をレポートします。

会場となるワテラスタワー前の広場には、ステージ正面に向かって座席が並びつつ、芝生エリアや2階のアトリウムにも来場者が集まります。
心地よい陽気のもと、レジャーシートを敷いて寝転んだり、ビールを片手にしたりと、各々のスタイルでステージを堪能していました。



この日は、加藤真亜沙トリオ、SENZOKU NEXUS JAZZ COLLECTIVE Produced by 原朋直、ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラ directed by エリック・ミヤシロの3組が出演。開放的な空間をそれぞれの演奏が包み込んでいきます。



気鋭プレイヤーたちとのトリオで奏でる音楽は、時に軽快に、時に穏やかに、
春の陽気に寄り添います。

ジャズ・トランペッター原朋直がプロデュースする、SENZOKU NEXUS JAZZ COLLECTIVE。


カルテットが呼応して繰り広げられる演奏に委ねられ、
観客も自然と体を揺らし、音楽が広場に染み込んでいくかのよう。
盛り上がるステージの傍では、キッズスペースや飲食ブースも豊富に並び、幕間に遊んだり腹ごしらえをしたりと、広場でのひとときをより楽しませてくれます。


ジャズの演奏とともに、昔ながらの遊びを子どもも大人も楽しめるのは、ここならではの時間です。


住む学生が企画したブースや地元町会によるブースも出店。
道路を使って絵を描いたりラジコンを走らせたりと、
のびのびとした空間に子どもたちは夢中になっていました。


ワンハンドで食べやすいフードやアルコールの種類も豊富で、
ステージや気分に合わせて選べる楽しさがあります。
昼下がりから始まったステージも、夕暮れとともに最後の一組へ。フィナーレを見届けようと観客もぐっと増え、あらゆる角度からステージを見守ります。



ブルーノート東京オールスター・ジャズ・オーケストラdirected by エリック・ミヤシロ。
世界的トランペッターが率いるスター集団です。



あたりが暗くなっていくことと相まって、求心力を増していきます。


心地よい夜風に吹かれながら、屈指の演奏を堪能する贅沢なひと時となりました。
3日間のステージを大盛況で終えた後も、JAZZ AUDITORIAを締めくくる夜は続きます。
会場をワテラスの広場からCafe, Dining & Bar 104.5へと移し、スペシャル・アフター・パーティ「After-Hours Session」へ。




世代も楽器も多様なセッションが次々と繰り広げられ、ジャズの魅力を味わう夜になりました。

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トップクラスのジャズを、街中でたまたま集まった人たちとともに楽しむ。とても贅沢でありながら、まちとジャズの寛容さも同時に感じられるひとときでした。
同じ演奏がないジャズだからこそ、その場の空気や観客に合わせて繰り広げられる演奏が、一人ひとりの思い出深い体験になっていく。コアファンも初心者も、子どもも大人も、分け隔てなく受け入れるその懐の深さは、14年という時間をかけて地域に根付いてきたからこそのものでしょう。
次の春の訪れに、JAZZ AUDITORIAだけの贅沢で心地よいひとときを、ぜひ体感してみてください。
https://jazzauditoria.com/
Text/Edit: Akane Hayashi
Photo(Artist): Tsuneo Koga
Photo(Interview, Event): Yuka Ikenoya(YUKAI)