不安や困りごととの関わり合いをつくる、表現や場の力|こんなだった、なんだかんだ12 #2

2025年11月に12回目の開催を終えた「なんだかんだ」。多くの出会いが生まれた時間となりましたが、それは画期的で魅力的なアイデアに取り組まれる演者のみなさんの存在があってこそ。気づくことや学ぶことが多く、そうしたアイデアはいかにして生まれ、育まれていったのか——その背景に、何か大きなヒントがあるような気がします。
そこで、なんだかんだクリエイティブディレクターの池田さんとともに、今回初めて参加いただいた就労継続支援B型BaseCampさんを訪問。日頃の活動の場を体験させていただくとともに、これまでの歩みについてお話を伺いました。

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●BaseCampの活動の場へ

BaseCampの拠点は、東京メトロ千川駅から徒歩一分。インターホンを鳴らすと、メンバーのみなさんが総出で「こんにちは〜!」「どうぞ〜」と迎えてくれました。久しぶりに親戚の集まりに参加したような歓迎ぶりで、嬉しい気持ちになります。

中に入ると、まずは円になって自己紹介へ。今日の調子や最近嬉しかったことなどを共有していきます。場がほぐれてきた頃、「次は一緒に踊りましょう!」と声がかかり、一人の男性メンバーが前に出て「僕の動きを見て真似してください」とリード。戸惑う間もなくダンスがスタートし、みなさんのキレのある踊りに誘われるように身体を動かすうちに、自然と心もほぐれていきました。

すっかりBaseCampの空気に馴染んだところで、取り組みを紹介いただきました。メンバーの経験や困りごとを演劇やラップにする取り組みや、長期入院している方への退院支援、出張イベントやグッズ展開など、幅広く接点を持てるような活動を積極的に行っています。

紹介の最後には、「せっかくなので」とラップを披露いただきました。スピーカーからビートが大音量で流れ、メンバーの方々が身体を揺らします。詞は、メンバーの苦労や経験をもとに、BaseCampにたどり着くまでのことが綴られており、そこには明確な答えがあるわけではありません。けれど、ダイレクトな言葉が心地よいリズムとともに飛び込んできて、見ている側の心にじんわりと刻まれていくのでした。

これらのおもてなしを受けて、池田さんはこう振り返ります。

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BaseCampさんを初めて訪ねて、おもてなしとして披露してくださったプログラムの中で、特に僕が注目したのは「ラップ」でした。メンバーの方々が、自らの不安や切実な悩みをビートに乗せてラップし、仲間たちも「よ~♪よ~♪」と盛り上げる。その内容はあまりにもリアルで、少し戸惑いながらも、陽気に歌うメンバーの姿を焼き付けるように見ました。

しばらく考えていると、これは落語に通じるものがあると気がつきました。立川談春さんの著書『赤めだか』の中で、師匠・立川談志が「落語っていうのは、業の肯定なんだよ!」と語る一節があります。つまり落語とは、何かから逃げ出したり失敗してきた人間の物語であり、それをそのまま肯定するものなんだ、と。
BaseCampさんのラップも、自分の欠点や悩みを他者と共有することで「ま、いっか!」と心を軽くさせてくれる、やさしい時間でした。
「これはすごいなぁ~!大発見だよ」と興奮しつつ、いろんな問いを残してくれる、すばらしい体験でした。

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この画期的な取り組みは、どのようにして生まれ、BaseCampの日々を支えているのでしょうか。スタッフである中島裕子さんと木村純一さんにお話を伺いました。

●誰かの「困りごと」を、表現を通じて分かち合う

木村純一さん(左)と中島裕子さん(右)

池田 たっぷりおもてなしいただき、ありがとうございます。本当に感動しました。

中島 いえいえ、お越しいただきありがとうございます。

池田 何年も前からBaseCampさんの活動を拝見していますが、いつも「なんでこんなにシュールで知的なユーモアのある形にできるんだろう」と驚かされます。メンバーが抱える重たいテーマをラップや即興劇にして、安易な答えは出さず「問い」だけ投げかけることで、観客との関わり合いが生まれているような気がします。
そもそも、なぜ演劇をやろうと思ったんですか?

中島 最初から演劇をやろうと狙っていたわけではないんです。元々は、一人ひとりの困りごとをみんなで聞く場を大切にしていました。でも、言葉だけのやり取りだと、途中で話を遮られたり一方的にアドバイスされてしまったりと、難しさを感じることも多くて。そんな時にふと、「その話をみんなで演じてみたらいいんじゃない?」と思いついたんです。

池田 さらっとお話しされてますけど、そこから演劇にしようなんて発想にはなかなかなりませんからね(笑)

中島 (笑) ただ、私も含め誰も演劇経験がなかったので、最初は「演じる」というよりは、シチュエーションを真似してみる程度の感覚でしたね。

池田 「話を聞く」だけでは寄り添いきれなかったことが、「演じる」ことでお互いを理解し合えるようになったんですか?

中島 いやあ…実際はそうでもなくて(笑) 演劇は「退屈せずに話に関わるためのアプローチ」でもあるんです。そのため極端に言えば、話の内容をよく理解できていなくても、一緒に演劇をして楽しめるだけでもとても意味があると思っています。何度も聞いた話でも、劇にするとなれば、役の立場を考えたり演出を加えたりと、楽しみながらその話に関わりやすくなるんです。

木村 話をした本人役や登場人物役だけでなく、「ゆで卵役」「パソコン役」といった人物以外のものや、目に見えない「不安の声役」「圧迫感役」をつくったりもしますよね。

中島 配役は自由で、話を受けて自分で役を考えてくれることもあります。「楽しさ」を起点にすることで、メンバーが自然と他者の話に関わっていけるようになったことは、演劇の大きな力だと思います。もともとは誰か一人の話だったとしても、そこからみんなで関わることで、また別のものが立ち上がってくる感覚もあります。

池田 以前拝見したステージは、しっかり稽古されていて「作品」として高い完成度でした。日々の活動から、外で披露するまでにはどう発展していったんですか?

中島 最初はちょっとした寸劇でしたが、続けていくうちに「せっかくだからイベントで見てもらおう」と、5〜10分程度の短いものをつくるようになりました。当初は「演劇」や「作品」と言うことすら照れくさいと感じていましたが、今は堂々と作品タイトルをつけて、メンバーも自信を持って演じています。

木村 日々の活動と作品づくりは地続きになっていますね。毎朝のミーティングで困りごとをお互いに話し、その場ですぐ劇にしてみるということを普段からやっているんです。

池田 日々の活動を種に、作品として育てているんですね。ただ、そうした発想の転換って、そうできることではないと思うんです。なにより、「当事者自らが自身の困りごとを演じて見せる」という世界観をつくり上げたことが本当にすごい。何気ない思いつきがはじまりだったとしても、確固たる哲学を感じます。

中島 きっかけは思いつきでしたが、私は元々「人が集まらないとできないこと」に関心があって。メンバーがバラバラなまま、それでも一緒に何かできないかとずっと考えていたんです。オープンダイアローグや当事者研究などを参考にしながら、自分たちの場に合う形をずっと試行錯誤してきました。その中で、この「演劇」にたどり着いたんです。

池田 BaseCampさんの演劇には、それぞれの個性がありつつ、一つの集団としての世界観を感じていて。お互いを尊重していることで成り立っているところに感動するんです。

中島 「みんなでつくっていく場」「お互いを大事にできたら」ということは、毎日口にしてますね(笑)

木村 今日のように見学の方が来られた時も、お客さんも取りこぼさずに、みんなで場をつくることを心がけています。一人ひとりがいるからこそこの場が成り立つ、という感覚は常に意識していますね。

池田 確かに、BaseCampさんの説明の時に、僕らには応援用のうちわを渡してくれて、一緒に場に参加している感覚がありました。それと、みなさんが「これは自分の仕事だ」と手を抜かずに取り組んでいる姿が、本当に素晴らしかったです。

●ちょっとだけ無理ができる、安心感のある場

池田 ラップも結構リアルな内容で、正直どう受け止めたらいいか戸惑ってしまったんですが、歌っている本人はすごく生き生きとしているんですよね。その姿を見て、こちら側の偏見や先入観を取り払って、学び直さないといけないと思わされました。

中島 まだ手探りの活動なので、そう言ってもらえると励みになります。

池田 BaseCampさんの演劇は、いわゆる芸術としての演劇とは異なり、「その場にいる人との出会いをどう広げるか」を考えているものだと思うんです。僕らが取り組む「なんだかんだ」も、路上に畳を敷いていろいろな方に集まってもらい、領域を取り払ったところで突然演奏や劇がはじまったりして、知らない世界に出会える場をつくりたいんです。
そういった時に大事なのが、今日最初にやってくれたダンスで。初対面同士で踊るのって恥ずかしいけど、みなさんが受け入れるように踊ってくれたことで、距離がぐっと縮まった感じがしたんですよね。

木村 今日は特にメンバーも張り切っていたと思います(笑)
「どうすればみんなが気持ちよく過ごせるか」というシステムや工夫については、日々自分たちでもしょっちゅう話し合っていて、ダンスにしても演劇にしても、日によって雰囲気や反応が違うこともあるので、少しずつ工夫を重ねてきたことがこう受け入れてもらえているのかもしれません。

池田 「なぜやるか」ではなく「どうやるか」をものすごく考えていますね。困りごとの原因を探るのではなく、どう乗り越えていくかをみんなで考える場になっているというか。
ちなみに、ラップや演劇ってハードルがあると思うんですが、抵抗があるメンバーはいないんですか?

中島 最初はハードルを感じる人もいますが、やってみると「意外とできた」と楽しんでくれることが多いですね。
これは言葉を選びますが、BaseCampでは「ちょっとだけ無理してみる」瞬間があってもいいと思っているんです。無理やり頑張らせたいわけではなくて、不安だけどそのまま飛び込んでみる、というか。

池田 それを中島さんは「いいよ、いいよ」という言葉でまろやかに包んでいますよね。今日訪れてみて、その声かけが「失敗しても大丈夫な場なんだ」という安心感をつくっているんだなと思いました。

●領域を超えてひろがる未来

池田 この先やってみたいことはありますか?

中島 やっぱりさまざまな人が関わることで活動が広がっていくので、新しいメンバーが入ってきてくれたら嬉しいです。あとは、精神科病院に入院中の方との関わりももっと深めていきたいです。入院中の方とも一緒に演劇やラップができたらいいですね。

池田 積極的に活動を広げつつ、実直に積み重ねているところも本当に素晴らしいです。今後の展開で考えていることはありますか?

中島 演劇やラップは「これは発見だ!」と思って取り組んできたんですが、最近はすっかり日常にもなっていて。かと言って、次はどんどん上達を目指すぞ!というのも違うし…これからどうしましょう。

池田 上手くなろうとすると自由がなくなりますからね。もっといろんな人を巻き込んで、異なる場所でやっていくのもいいかもしれません。福祉を超えたり、演劇を超えたり、部屋の外に出たり…何かしらの「領域を超える」ということにヒントがありそうです。

中島 いろんな領域とコラボレーションするのはいいですね。実際にお声がけいただくこともありますし、そこから得られる刺激もまだまだありそうです。

池田 最近ビジネスの文脈で「ケア」が語られることも増えてきて、いよいよメンタルヘルスの時代になってきたなと感じていて。AIが普及する社会だからこそ、身体性を伴う表現や場づくりは新しいカルチャーになっていくと思うんです。
その中で、BaseCampさんの演劇のような画期的なアイデアはとてもヒントになります。ケアの本質とも言える「ちょっと楽にいられる」「大丈夫だと思える」表現や場にずっと取り組まれていて、もっと真似されるべきことだけれど、それをどうやってつくっているのかがみんなわからない。なので、もっと広めていくことをお手伝いしたいなと、改めて思いました。

中島 そう言ってもらえるのは本当に心強いです。これからもぜひよろしくお願いします!

池田 まずはめちゃくちゃかっこいいプロモーションムービーをつくりましょう!

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不安や悩みをすぐに解決することは難しくても、誰かと一緒に受け止めることで、ほぐれるものがある。
BaseCampさんが取り組むラップや演劇には、無理に答えを出そうとするのではなく、「いまを少しでも楽に、安心していられる状況をいかにつくるか」という、切実で温かな眼差しがありました。

こうした「ちょっと楽にいられる場」をつくることは、そう簡単なことではありません。けれど、演劇やラップといった「遊び」のような表現が、時として扉をひらく鍵になる。そんな可能性をBaseCampさんは教えてくれました。
なんだかんだもまた、さまざまな取り組みに学びながら、なんだかんだなりの大丈夫な場をつくっていきたいと思います。

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI)

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