思いがあるところに建築は生まれる。建築に親しみ、まちに触れる「東京建築祭」 前編 

大小、新旧さまざまなものが建ち並び、東京の風景をつくっている建築たち。多くを語らずじっと佇むそれらには、それぞれに刻まれた時間や想いがあります。
そうした建築をめぐり、人の思いやまちの魅力に触れる「東京建築祭」。上野、神田、日本橋、丸の内、銀座、港区…といった東京の各所で、歴史ある名建築から新たに注目を集める建築まで、多様な建築が一斉に門戸をひらき、じっくり楽しむことができる壮大なイベントです。

神田錦町周辺も一つのエリアとして参加し、さまざまな建築が公開されました。東京全体から見ると小さなエリアですが、個性豊かな建築が潜んでいる神田錦町。建築を通して見ると、新たな発見に溢れていました。

〜〜〜〜〜〜〜


東京で、建築からひとを感じ、まちを知る

東京のあらゆる建築をめぐる「東京建築祭」。東京中が会場という無謀にも思えるこのイベントはどのようにして立ち上がったのでしょうか。東京建築祭の実行委員会事務局長の大久保佳代さんに、開催を終えてお話を伺いました。

——今回で二回目の開催となりますが、「東京建築祭」はどういった場を目指していたのでしょうか?

大久保 建築を対象物として見るというより、建築と触れ合って距離を近く感じられるような機会にしたいと思っていたんです。さまざまな側面を少しずつ知りながら、次第に建築と仲良くなっていく感覚というか…。昨年の開催では、多くの方に来場いただいた反面、ゆっくり交流するような環境をつくれなかったなと感じたんです。そうした反省を踏まえて、今回はエリアを大幅に拡大してスポットを分散し、混み合わないように調整しました。参加建築数でいうと54件から128件と倍以上に増やして、交流会やワークショップなど、対話型のプログラムも取り入れました。いろんな工夫をして、今回は余裕を持って建築と親しめる機会を作れたかなと思います。

——確かに程よく人が行き交い、椅子に座ってゆっくりしている方も多かったことが印象に残っています。

大久保 あともうひとつ、参加者だけでなく建築を公開する側の人にも気付きを得てもらいたいと思ったんです。特にオフィスビルや大学施設だと、社員や職員の方にとっては普段の職場なのでその価値を意識することはそうありません。
でも、東京建築祭を通して多くの人に関心を持ってもらい、普段身近にいる人もこんなにもいいものなんだと気付くことってとても重要なんです。建築はつくる人と使う人と守る人がいてこそ価値あるものとして残り続けると思うので、そうした立場の人も建築の価値に触れて思いを持つ機会となることを目指していました。

——東京建築祭のキャッチコピーにも、「建築から、ひとを感じる、まちを知る」とあるように、人の存在を大事にしていらっしゃいますね。

大久保 そうなんです。建築って、人の思いがモノとして現れていると思うんです。そもそも思いがないところには何も生まれませんしね。建築ほどの規模になると、膨大なデータや課題を分析しながらどういった方向性や合理性を持ってつくるか、さまざまな情報が関わっていきますが、そもそもは「こうしたい」という思いが出発地点にあります。建築自体は多くの人が目にすることができるけれど、思いとか裏側を感じられる機会はなかなかないので、そういったことに触れられるものにしたいと思ったんです。
まだ場所によって公開の仕方に差がありますが、東京建築祭としての思いも少しずつ広げていきたいですね。

——東京建築祭でさまざまなエリアをご覧になっている大久保さんから見て、神田錦町はどういった印象でしょうか?

大久保 神田錦町はなんというか、かわいいんです(笑) 派手で凝った建築があるというわけでないけれど、ヒューマンスケールでみんながそれぞれ楽しもうとしている空気をすごく感じます。中心になる企業やエリアマネジメント団体があるわけでもなく、いい意味でバラバラというか、ゆるい連携をもちながら各自で頑張っていますよね。東京都心でそうしたコンパクトなスケール感で頑張ろうとしているところが応援したくなるし、だからこそユニークなことが起きているなと思います。そのかわいさが、とても魅力的で大好きです。

建築でめぐる、神田錦町

大久保さんの言葉を借りるなら「かわいい」サイズ感の神田錦町。老舗店が残る神田駅周辺や神保町、自然溢れる皇居、高層ビルが並ぶ丸の内エリアに囲まれたこのエリアですが、今回の東京建築祭では周辺エリアにて5箇所の建築が公開されました。

まちの風景であり、人の営みに関わってきた建築たち。それぞれどういった建築で、どんなことを語りかけてくれるのでしょうか? 神田錦町エリアをよく知る安田不動産の十時さんにガイドいただき、一緒にめぐっていきました。

①神田ポートビル

まず訪れたのは、1964年築の印刷会社旧社屋をリノベーションし、2021年に誕生した「神田ポートビル」。歴史と文化の積み重なった神田錦町という場所を背景に、カルチャーやアカデミズム、ウェルビーイングをテーマにした文化複合ビルです。

一見リノベーションとは気づきづらいほど、かつての佇まいを残しているこの建築。ですが、よくよく見ていくとさまざまな仕掛けやギミックが散りばめられています。早速見ていきましょう。

「『神田ポートビル』という名には、
旅の出発点であり嵐の日には避難する場所ともなる「港」のように
たくさんの人々が自由に活用してほしいという思いが込められているんですよ」と十時さん。
建築を見たり、スタッフの方と話したり、ひと休みしたり。
まさに港のようにいろいろな人たちが行き交います。
入ってすぐ左に広がる白い壁の空間は、ギャラリーにも写真館にもなるのだそう。
商品や本が並ぶ棚の先に「?」の掛け軸が覗くのは、なんと茶室。
建築家の藤本信行さんによって、お茶会や展示目的のために手がけられたもので作品の一つ。
茶室の入口にある「?」と書かれた木箱を開けてみると、小さなご利益がありそうな仕掛けが。
茶室をはじめ、神田ポートビルのコンセプトに合わせて
作家の方が制作したアート作品が随所に点在しています。
地下は元々印刷会社の倉庫だった場所を丸ごとサウナに。
階段上の壁に掛かっているのもアート作品の一つ。
白樺などの植物がたくさん吊るされていて、まるで森。
フィンランドではサウナがまちのコミュニティ形成に重要な役割を果たしているように、
ここ神田ポートビルにも、まちの人がやすらぎ、集える場所として
サウナをつくることになったのだそう。
天井が高く、休憩スペースには丘のような傾斜があり
地下であることを忘れてしまう開放感。
続いて2階へ…
元々の建築をあまり変えずに、馴染ませる形で新しい要素が取り入れられています。
自然の木を力技で捻ったというダイナミックな手すり。
2階は「ほぼ日の學校」のスタジオ。
エントランスの壁は本物のレンガが埋め込まれていて、由緒正しい校舎の雰囲気が漂う…。
壁には谷川俊太郎さんの詩が掲げられていました。
奥へ進むと和田誠さんから譲り受けたという本棚がさらっと置いてある驚き。
さまざまな著名人が講義を開いていてきたスタジオ。
アプリに登録すると動画コンテンツとして見ることができ、どこでも学ぶことができます。
再び1階に戻ると、建築家の藤本信行さんがお茶を振る舞いながら
建築の説明をしてくださいました。なんというおもてなしの精神。
かつての佇まいを残してまちに馴染みつつ
ユニークさと居心地の良さが程よく調和した、まさに港のようにやすらぐ場所でした。

②共立講堂

次は、東京タワーの設計者・内藤多仲博士が構造設計、前田健二郎が意匠設計を手がけた「共立講堂」へ。1938年に建てられ、日比谷公会堂に並ぶ大型の講堂で音楽関係の公演のメッカとして親しまれていました。その後関係法令の改正や社会環境の変化を受け、現在は学校の講堂として活用されています。

外観にも感じられるように、昭和初期のモダンなデザインを先導した建築家・前田健二郎による意匠設計は、格式がありながらどこかチャーミング。圧倒されたり愛でたりと、夢見心地な気分で楽しみました。

「現在は共立女子学園の講堂として使われていて一般の方が入る機会は限られているので
こうして中を見学できるのはとても貴重なんです」と十時さん。
まず入口で迎えてくれるこの作品は、かつて舞台幕だった一部。
以前の舞台幕の全体像はこちら。中央上の木に並んでいる猿が先程の写真で、
舞台幕の壮大さと繊細な表現を同時に感じられます。
講堂に入ると目に飛び込んでくる立派な桜の木は、現在の舞台幕。
面一杯の黄金色が舞台を一層華やかに際立たせていてじっと見入ってしまう…。
格式に一役買っている壁の木片は、吸音するために施されているのだとか。
均等に並ぶ木片と模様の移ろいがとても美しい。
見上げると天井と2階席のアーチが混ざり合ってダイナミック。
この緩やかな曲面は豊かな音響を生み出すために考えられたもので、
鑑賞と実用が兼ね備えられているそうです。
アーチはさまざまなところに散りばめられていて、
行き届いた一手間に名建築たる所以を感じる…。
耐震のために補強した梁もアーチ仕様に! 元々のデザインに馴染んでいます。
アーチを探し求めるように2階へ。
ここにもカーブの効いたアーチを発見。
2階席は傾斜がしっかりありいい眺め。
客席もアーチになるように中央と左右で高さが異なるように設計されています。
この日ボランティアとして案内に立たれていたのは、なんと共立女子中学高等学校の卒業生!
「久しぶりに中に入りましたが、改修を経てきれいになっていたり変わっている箇所がありつつも、
いま見ても懐かしいと思えてとても感動しています」と
かつての建築を実際に体験していた方のお話を聞き、味わいが一層増しました。
1938年の創建当初の様子。正面のデザインはいまと大きく異なっていたようです。
1956年に発生した火災の後、再建されたのがこの写真。
記録によるとわずか1年で再建したそうで、並々ならぬ思いがあったことが伺えます。
2000年以降耐震などの改修を何度か行っているものの、
このまちに欠かすことができない風景の一部として守り続けられる共立講堂。
次に見学できる機会まで、その美しさに思いを馳せつつ楽しみに待っていたい建築でした。

後編に続く

Edit/Text: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI), TADA

オープンカンダ(以下、「当サイト」といいます。)は、本ウェブサイト上で提供するサービス(以下、「本サービス」といいます。)におけるプライバシー情報の取扱いについて、以下のとおりプライバシーポリシー(以下、「本ポリシー」といいます。)を定めます。

第1条(プライバシー情報)
プライバシー情報のうち「個人情報」とは、個人情報保護法にいう「個人情報」を指すものとし、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日、住所、電話番号、連絡先その他の記述等により特定の個人を識別できる情報を指します。

第2条(プライバシー情報の収集方法)
当サイトは、お客様がご利用する際に氏名、生年月日、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報をお尋ねすることがあります。
当サイトは、お客様について、利用したサービス、閲覧したページ、利用日時、利用方法、利用環境(携帯端末を通じてご利用の場合の当該端末の通信状態、利用に際しての各種設定情報なども含みます)、IPアドレス、クッキー情報、位置情報、端末の個体識別情報などの履歴情報および特性情報を、お客様が当サイトのサービスを利用しまたはページを閲覧する際に収集します。

第3条(個人情報を収集・利用する目的)
当サイトが個人情報を収集・利用する目的は以下のとおりです。

お客様に、氏名、住所、連絡先などの各種情報提供
お客様にお知らせや連絡をするためにメールアドレスを利用する場合やユーザーに商品を送付したり必要に応じて連絡したりするため、氏名や住所などの連絡先情報を利用する目的
お客様に本人確認を行うために、氏名、生年月日、住所、電話番号などの情報を利用する目的
お客様に代金を請求するために、利用されたサービスの種類や回数、請求金額、氏名、住所などの支払に関する情報などを利用する目的
お客様が代金の支払を遅滞したり第三者に損害を発生させたりするなど、本サービスの利用規約に違反したお客様ーや、不正・不当な目的でサービスを利用しようとするユーザーの利用をお断りするために、利用態様、氏名や住所など個人を特定するための情報を利用する目的
お客様からのお問い合わせに対応するために、お問い合わせ内容や代金の請求に関する情報など当サイトがお客様に対してサービスを提供するにあたって必要となる情報や、お客様のサービス利用状況、連絡先情報などを利用する目的
上記の利用目的に付随する目的

第4条(個人情報の第三者提供)
当サイトは、次に掲げる場合を除いて、あらかじめお客様の同意を得ることなく、第三者に個人情報を提供することはありません。ただし、個人情報保護法その他の法令で認められる場合を除きます。

法令に基づく場合
人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき
公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき
国の機関もしくは地方公共団体またはその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき
予め次の事項を告知あるいは公表をしている場合

第5条(個人情報の開示)
当サイトは、お客様ご本人から個人情報の開示を求められたときは、ご本人に対し、遅滞なくこれを開示します。ただし、対応にあたっては、不正な開示請求による情報漏洩防止のため、適切な方法にてご本人確認をさせて頂きます。
お客様からの個人情報の開示請求にあたり、お知らせの手数料として別途実費を請求させて頂くことがございます。

第6条(個人情報の訂正および削除)
お客様は、当サイトの保有する自己の個人情報が誤った情報である場合には、当サイトが定める手続きにより、当サイトに対して個人情報の訂正または削除を請求することができます。
当サイトは、ユーザーから前項の請求を受けてその請求に応じる必要があると判断した場合には、遅滞なく、当該個人情報の訂正または削除を行い、これをお客様に通知します。

第7条(個人情報の利用停止等)
当サイトは、お客様本人から、個人情報が、利用目的の範囲を超えて取り扱われているという理由、または不正の手段により取得されたものであるという理由により、その利用の停止または消去(以下、「利用停止等」といいます。)を求められた場合には、遅滞なく必要な調査を行い、その結果に基づき、個人情報の利用停止等を行い、その旨本人に通知します。ただし、個人情報の利用停止等に多額の費用を有する場合その他利用停止等を行うことが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するために必要なこれに代わるべき措置をとれる場合は、この代替策を講じます。

第8条(プライバシーポリシーの変更)
本プライバシーポリシーを変更する場合には告知致します。 プライバシーポリシーは定期的にご確認下さいますようお願い申し上げます。
本プライバシーポリシーの変更は告知が掲載された時点で効力を有するものとし、掲載後、本サイトをご利用頂いた場合には、変更へ同意頂いたものとさせて頂きます。

第9条(お問い合わせ窓口)
本サイトにおける個人情報に関するお問い合わせは、下記までお願い致します。
info@kandaport.jp

Open Kanda. All rights reserved.
Title logo: Daijiro Ohara