障がいのある人とない人がごちゃ混ぜになれる場所。「駄菓子屋 横さんち」の話|こんなだった、なんだかんだ4 【前編】
『もっと日常的に、障がいのある人とない人がごちゃ混ぜになれる場所がなくてはならない』
静岡県掛川市にある駄菓子屋「横さんち」は、そうした思いから生まれた場所。さまざまな障がいを持つスタッフたちで日々お店を運営しています。
神田から遠く離れたところにありますが、これまでの路上実験イベント「なんだかんだ」にもはるばる参加してくださっている横さんち。
改めてその取り組みをじっくり聞き、そして多くの人に知ってもらいたい!ということで、運営サポートをしている池島麻三子さんとボランティアスタッフとして通う高校生の佐野夢果さんをゲストにお招きし、たっぷりとお話を伺いました。
題して、「なんだかんだ4 〜駄菓子屋横さんちの取り組みとそこに通う夢果ちゃんの願いとかいろいろ聞いてみようか〜」の開催です。
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春の訪れを感じる暖かな陽気の3月16日。畳を敷き詰めた神田ポートビルの会場に30名近くのお客さんが集まり、ゆるやかにスタートしました。
●駄菓子屋 横さんちのきっかけとは?
はじめに、駄菓子屋「横さんち」の運営サポートをしている池島麻三子さんから、取り組みを紹介いただきました。
店長である横山さんの愛称が店名の由来である横さんち。元々は企業に勤めていた横山さんですが、ある経験がお店をつくるきっかけとなったそうです。
「幼少期から車いす生活を送っている横山さんですが、釣りやスキー、飲み会などどこへでも出かけるパワフルな人なんです。そんな横山さんは、企業に勤める傍ら、障がいへの理解を深めるために学校で講演をしたり、車いす体験会を開いたりと福祉教育の活動をされていました。しかし、そうした機会はせいぜい年に一度、人によっては一生に一度しかないようなもので、それだけでは伝え切ることができません。そこから『もっと日常的に、障がいのある人とない人がごちゃ混ぜになれる場所がなくてはいけない』と考えるようになり、駄菓子屋『横さんち』の誕生につながっていったんです」(池島さん)
そんな横さんちの店舗は、車いすユーザー向けに空間設計がなされており、スタッフはさまざまな障がいのある方、後期高齢者の方、障がいはないものの生きづらさを抱える方などがそれぞれできることを発揮して働いています。
「例えば、キラキラなビーズが好きなスタッフの服部くんは、アクセサリーを作るワークショップを毎週開いています。参加するのは小学校高学年の悩み多き年頃の子たちなんですけど、服部くんは受け止め上手なのでアクセサリーを作りながらお悩み相談をしていて信頼が厚いんです。
横さんちで働く人には、なるべく個々の得意なことに合わせたお仕事をお願いしたいと思っていますが、それを見つけるのもそう簡単にはいかなくて。服部くんもいろいろな仕事をしてもらいつつも、長い間お互いにこれだ!と思えるものが見つけられなかったんです。
横さんちのコンセプトは『障がいのある人がいきいきと働く』なので、社内会議でもその仕事はその人がいきいきしているかどうかということが論点に必ず挙がってくるんですが、ビーズのワークショップを始めてから、服部くんは楽しそうで私たちも嬉しいんです」(池島さん)
●働く人も訪れる人も補い合うことは当たり前
それぞれの得意を仕事として活かすことができる横さんちですが、得意ではないことは補い合いながら働いています。補うのはスタッフ同士だけではないそうです。
「レジに時間がかかってよく行列ができるんですが、お客さんが商品のスキャンや袋詰めを自然と手伝ってくれるんです。ここを利用するお客さんの間には、補い合うことは当たり前という感覚があっていいなと思っています。手伝ってくれるのは子どもたちが本当に多くて、手伝ううちに違う学校の子同士で仲良くなったりと交流の場にもなっていますね」(池島さん)
働く人も訪れる人も自然に関わり合うことができ、街に開かれた場所として親しまれている横さんち。
肩肘張らない「駄菓子屋」という場の力も絶妙に関係しているように感じますが、いまの時代にはなかなかめずらしい形態です。実は、運営会社による一事業という側面もあります。
「『横さんち』の形態は、ITエンジニアの人材派遣会社が運営会社となっていて、そこの一事業として取り組んでいます。そのため、ここで働いているスタッフは“社員”という扱いで、いわゆる一般就労になります。
きっかけとしては運営会社の規模拡大に応じて障がい者雇用をすることになったものの、エンジニア向けの会社なので新たな仕事やポジションを考える必要があったんです。ただ、当初から見えないところで単純作業をするだけではなく、いきいきと働ける職場をつくろうという思いがありました。そこを出発点に生まれたのが、駄菓子屋というアイデアなんです。
いまの時代、駄菓子屋という形態のみで利益を出すことは難しいですが、その代わりに地域に開いた福祉や教育の場になったり、子どもたちの居場所となるように取り組むことが事業の役割になっています。地域に貢献するお仕事としてみなさん働いていますね」(池島さん)
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横さんちの様子を思い浮かべながらじっくりお話を聞いていると
すっかりお店のみなさんに会いにいきたい気持ちに。
この日も出張で駄菓子屋さんを開いてくれましたが
駄菓子を囲むとあっという間に距離が縮まるようでした。
続いては、そんな横さんちに通いながら自らさまざまな活動を行う
高校生の佐野夢果さんにお話を伺っていきます。