古書から新刊まで街にあふれる日。神保町、二つの“本の祭り”をめぐる|神田古本まつり編

本の街・神田神保町。古書店や出版社が多く集積し、近年では世界からも注目を集めているこの街では、毎年秋に大規模な本のお祭りが二つも開かれます。
それが、「神田古本まつり」と「神保町ブックフェスティバル」。それぞれ異なる背景のもとに生まれた別々のお祭りですが、この街の風物詩として長く親しまれてきました。
一方で、その規模の大きさゆえに、全貌を把握しきれていない方も多いのではないでしょうか。

そもそも、二つのお祭りの違いは何なのか。
どんなお店が集まり、どんな本が並ぶのか。
そして、本の街・神保町で行われるからこその楽しみとは——。

神保町はいつ訪れても多彩な本が集まる街ですが、お祭りならではの巡り合わせがあるこの機会。「神田古本まつり」と「神保町ブックフェスティバル」を通して街へとあふれ出す、さまざまな本との出会いをご紹介します。

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●二つのお祭りは、何が違う?

毎年秋に神保町で開催される「神田古本まつり」と「神保町ブックフェスティバル」。名称が似ていることもあり混同されがちですが、それぞれ異なる背景と特徴を持つお祭りです。

最も大きな違いは、「誰が出店するか」と「どんな本が並ぶか」。
まず、神田古本まつりには古書店が参加し、各店の選りすぐりの古本が並びます。古書店街として栄えてきた神保町のルーツに深く根ざし、幅広い古書の魅力に触れることができる伝統的な祭典です。
一方、神保町ブックフェスティバルは主に出版社が集まり、各社が発刊する本を中心に販売。出版社も集積する神保町の特性を生かし、“本をつくる”立場にある出版業界を応援しながら、本のカルチャー全体を盛り上げることを目指しています。
そして、両者に共通しているのは、どちらも入場無料で楽しめるということ。気軽に立ち寄り、あらゆる本棚を自由に巡る体験は、普段の本屋の楽しみ方に通じるものです。

古く受け継がれてきた本と、新たに生み出された本がそれぞれに一堂に会するこの機会は、本が積み重ねてきた歴史と、その文化の熱を肌で感じられる場でもあります。その臨場感は、書店やオンラインショップではなかなか味わうことができない貴重なものかもしれません。

では、こうした特徴を持った二つの大規模イベントは、どのようにして開かれ、どんな風景を街にもたらしているのでしょうか。それぞれの現場と裏側に迫っていきましょう。

●膨大な古書たちとの巡り合わせを楽しむ。神田古本まつり

神田古本まつりは1960年に始まり、今回で65回目の開催を迎えました。
日本最大級の古書の祭典として知られていますが、その出発点には、街と本をめぐるある危機感があったといいます。神田古本まつりの広報を務める望月さんにお話を伺いました。

——神田古本まつりはどのような背景で開催に至ったのでしょうか。

望月 私が生まれる前の話になりますが、1960年に始まったと聞いています。当時はテレビが普及し始めた頃で、その影響から本の需要が落ち、神保町への客足も減っていたそうです。そうした状況への危機感から、「本や街をもっと盛り上げよう」と立ち上がったのが神田古本まつりでした。

——神田古本まつりといえば、歩道にワゴンが並ぶ「青空掘り出し市」の光景が名物ですが、当初からそういった形で開催されていたのでしょうか。

望月 いえ、当初は岩波神保町ビル近くの広場のみで開催していたようです。まだ歩道空間を使うことに前例がなかったため、東京都や千代田区と協議を重ねながら、少しずつ規模を広げて、現在のような形になっていきました。ワゴンが歩道に並べられるようになった際には、「ようやくこの光景をつくることができて感動した」と記述が残っているほど、長年の念願だったようです。

——古本まつりに出店されるのは、基本的に神保町エリアの古書店ですよね。

望月 必ずしもそうでありません。もちろん神保町の古書店が中心ではありますが、名古屋や大阪など、各地からの出店もあります。古書業界はネットワークが広く、各地で行われる古書市場などに参加する中で、自然と全国の書店とつながっていくんです。私たちもさまざまな地域のイベントに出店することがありますし、同じ業界の仲間として、互いに盛り上げていく関係性が築かれていると思います。

——普段は神保町では出会えない書店にも出会うことができるんですね。

望月 まさに、自分の知らなかった古書に出会える機会だと思います。普段は街の至る所に書店があって回るのが大変だったり、初めてのお店に入るには少し勇気がいることもあるかもしれませんが、ワゴン形式だと気軽に覗きやすいので、ぜひいろいろなお店の本を手に取ってみてほしいですね。

——神田古本まつりは毎年多くの方が来場される伝統的な祭典となりましたが、開催を続けていく中で特に大事にされていることはありますか?

望月 まずは、変わらずに続けていくことです。書店のみなさんは何よりも本が好きで、「どうしたら興味を持ってもらえるか」を常に考えています。
立ち上げ当初はテレビ、今ではスマートフォンの普及によって本離れが叫ばれて続けて久しい状況ですが、神田古本まつりを開催すると、興味を持って足を運んでくださる方が本当に多く、その姿から、私たち自身が力や自信をもらえるんです。時代が変わっても、本好きのためのお祭りとして変わらず続けていくことに意味があると思いますね。

——青空掘り出し市の他にも、東京古書会館での希少本の即売会やトークイベントなど、古書にまつわる多様なプログラムがありますね。

望月 それぞれ別の方が企画されていて、本当に大きな組織体制で運営しています。これだけの規模をもって多様な古書に出会える機会は、神田古本まつりならではではないでしょうか。古書は一冊しか取り扱いのないものも多いので、そうした本と巡り合うことは、本当に“縁”なんです。各書店が扱っている分野も本当に幅広いので、運命を感じながら、ぜひさまざまなジャンルの本に触れてほしいですね。

——一つひとつのお店を巡る楽しみもありますが、街中でずらりと並ぶ本に一気に出会うことはなかなかできない体験ですもんね。当日は想像できないほどの数の古書が並びますが、楽しみ方のコツはありますか。

望月 少しでもいいなと思ったら、迷わずすぐに買うことですね。来場者が本当に多いので、「あとでまた来よう」と思っていると、もう売れてしまっていることがよくあります。
それから、できれば早い時間に来ていただくと、ワゴンの品揃えが充実していて出会いも広がります。とはいえ、古本まつりは10日間開催していて、並ぶ本も日々入れ替わるので、そうした変化も含めて“巡り合わせ”と思って、何度でも訪れて楽しんでもらえたらうれしいです。

●通りに掘り出し物が大集合。名物・青空掘り出し市

楽しみ方のコツも伺い、いざ神田古本まつりの現場へ。名物・青空掘り出し市から、希少本が集まる特選古書即売展など、本棚から本棚へと1日歩き回りました。

靖国通り沿いの歩道に、ずらりとワゴンが並ぶ青空掘り出し市。
まずは中間地点にあたる神保町の交差点から散策をスタート。
ワゴンの上には本棚が巧みに組み立てられ、まるで小さな本屋のよう。
隙間からお店の方が覗く様子もどこかチャーミング。
ワゴンの側面にも本が並んでいたり…
本棚の上には、シリーズ本が積み上がっていることも。
さらに足元にもぎっちり本が並んでいることもあるので、全方位見落とし厳禁。
並ぶ本の顔ぶれは書店によってさまざま。
背表紙を眺めながら、その店ならではの個性を読み取っていくのも楽しみのひとつ。
歩道に連なるワゴンは、三省堂書店付近から専大前の交差点まで、
その距離はおよそ600mにも及ぶ。
クリアボックスを棚代わりに使う店もあれば、
ワゴンの組み方に工夫を凝らす店もあり、その表情は三者三様。
本だけでなく、映画のパンフレットや浮世絵を扱うお店も。
古い切符といった思いがけない品に出会えるのも、まさに掘り出し市ならでは。
(当時の電車賃は20円…!)
ワゴンの小さな本棚といえど、本に向き合っていると場所を忘れて没頭していく。
だいぶ見たな〜と思ってもまだまだ本棚が続くうれしい悲鳴。
一冊を大事に抱える人もいれば、特大トートバッグを本でパンパンにする人も。
ワゴンの横には補充用の本も山積み。書店側の気合いも感じる。
膨大な本の量に圧倒されつつ、いつまでも耽っていたくなる贅沢な時間がありました。

●世にも珍しい希少本を目の当たりに。特選古書即売展

青空掘り出し市の会場から徒歩1分。
東京古書会館で行われるのは、「特選古書即売展」。
古典籍から肉筆資料、近代初版本まで、
普段目にする機会の少ない貴重な品々が、神保町内外から集まります。
いざ目の前にすると、「古書」とは単に古いというだけではなく、
二度と同じものがつくられない希少性を持つ存在であることを実感。
古い雑誌を手に取ると、当時の人々が何に関心を寄せ、
どのように暮らしていたのかが、紙の質感と共に伝わってくる。
鮮やかな装丁に惹かれて手に取ってみるとなんと1905年発刊!
本は昔から創作に富んでいて、凝った装丁に出会えることも。
この空間にいると、巻物が並んでいてもすんなり受け入れてしまう。
背表紙には独自のタイポグラフィや凹凸加工が施されたものもあり、表情豊か。
2階で開かれているのは「本の街文化遺産・稀少書展示会」。
博物館や美術館でしか見られないひときわ希少なものが並ぶ。
(この日は1000万超えの希少書も展示…!)
なんと江戸川乱歩の直筆原稿も。走り書き具合から筆者の息遣いを感じる。
希少書は到底手が届かないものでも、今尚残り続け
目の当たりにできることへの感動があり、一層価値深く感じる。

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当てもなく歩き回っても、何かを求めて歩いていたはずでも、思わぬ本と出会える神田古本まつり。膨大な量があるからこそ感じる縁と、選りすぐりの古書が並ぶ確かな品揃えだからこそ生まれる出会いが、そこにはありました。

神保町ブックフェスティバル編に続く

Edit/Text: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI)

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