たくましさを与えてくれる、いい出会いの場を目指して。|こんなだった、なんだかんだ9 #3

「問題の解決が目的ではなく、まずは大丈夫だと思える場をみんなでつくる」
そう掲げているなんだかんだには、出演者みなさんの力が欠かせません。むしろ、なんだかんだが目指そうとしている場をすでに実践されているみなさんをもっと知ってもらいたい、という気持ちも込めて集まっていただいています。

改めて、「大丈夫だと思える場所をつくる」ということはどういうことでしょうか。
そうした場に日々向き合い、なんだかんだがお手本にもしているお二組にお話しを伺いました。

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次にご紹介するのは、「幻聴妄想かるた」を使った出張かるた大会を実施してくださった世田谷の福祉事業所「ハーモニー」。
幻聴妄想かるたとは、ハーモニーのメンバーが実際に体験したことを句と絵にしたかるたです。なんだかんだでは、お客さんたちがかるたを競いながら、一枚取るごとに句のエピソードをメンバー自らお話ししてくださいました。

「トゥルルルルと幻聴で電話 ケンタッキーに行くとおさまります」
「コンビニに入るとみんな友達だった」
「弟を犬にしてしまった」
など、読み上げられるたびに内容が気になって仕方がないかるたたち。ユニークな絵とメンバーから語られるエピソードを通して、知らなかった幻聴や妄想の世界に触れていきます。

当事者からなかなか語られる機会のない幻聴や妄想と、かるた大会というなんともくだけた場で出会わせてくれる幻聴妄想かるた。そんなすごいパワーを持ったかるたを手がけたハーモニーの施設長・新澤克憲さんに、アイデアのきっかけや場のつくり方などお話を伺いました。今回の聞き手も、なんだかんだのクリエイティブディレクター・池田さんです。

ハーモニーさんの事務所にて。
施設長の新澤克憲さん(中央)と、なんだかんだにも参加してくださったメンバーの益山さん(左)。

●幻聴妄想かるたがもたらすこと

池田 先日はなんだかんだに参加いただきありがとうございました。改めてハーモニーさんのことをもっと知ってもらいたいなと思って、新澤さんとお話ししたく世田谷の事務所にお邪魔しています。

新澤 久しぶりですね。よろしくお願いします。

池田 まずは、幻聴妄想かるたが誕生したきっかけから教えていただけますか?

新澤 はい。幻聴妄想かるたというのは、ここハーモニーで定期的に実施しているメンバーミーティングから生まれたものです。ミーティングではメンバーの困り事や悩みをそれぞれ話して、みんなでアドバイスし合うということをしているんですが、ある時それを絵に表現してみようと思いついて。

池田 その発想が素晴らしいです。

新澤 それで実際にやってみると、すごくおもしろかったんです。そもそも幻聴って、聞こえはするけど本人にも見えてないことじゃないですか。でも、他の人たちが話を聞いて絵にすることで、途端に幻聴の主が視覚化される。そうすると、本人が一人で抱えてたものをみんなでシェアできるようになるんです。
「幻聴妄想かるた」のことを精神障害の具体的な症状をわかってもらうためのものと取り上げられることもありますが、実はそうではなくて、ここに集まった人たちが一人のことを心配してみんなで絵を描いたという記録なんです。

写真提供:ハーモニー

池田 本当に画期的だと思います。一人で抱えていたものをみんなでシェアできるようになったことで、メンバーの中で変化はありましたか? 

新澤 それまでは幻聴の悩みというのは他の人には言えないことで、スタッフと一対一で話して個別で対応していました。でも、「みんなに自分の話をする」ということが案外おもしろいことだとわかったみたいです。

池田 素晴らしい、大発見ですね。

新澤 自分の話を誰かに聞いてもらえて、「俺もそういうことあったよ」と言われるとわかってもらえた気がするじゃないですか。スタッフとの一対一の関係ではなくて、その場にいる人たちと横の関係ができたということが大きかったと思います。彼らの間で関係性ができることで、お互いが怖くなくなったんです。

●敬意をもって世界を開いていく

池田 やっぱりそれは、新澤さんがみんなに尊敬の目を向けて話を聞いているということが、お手本のように影響しているんじゃないかなと思うんです。
以前ミーティングに参加させてもらいましたが、みなさんが話している間にもかなりの沈黙があるんですよね。でも、それを急かしたり沈黙を埋めるように誰かが話し始めることもなく、その人が自分と向き合う時間としてちゃんと受け止めているんだなと思って。そこにすごく感動したんですよ。その人がそのままで居られることって大事だなと。

新澤 単純にメンバーのみなさんがいい人たちばかりというのもありますけどね(笑)

池田 これって障害の有無は関係ないことですよね。学校にしても会社にしても、どこでも揉め事が起きてるわけで、それは「敬意を持って接する」ということができないからだと思うんです。
ただ、大事なことだとわかってはいても、どんな相手でも尊敬することと、そうした姿勢を教えることって本当に難しいと思います。

新澤 そうですね。例えばたまに事務所にセールスの人が来ることがありますが、そういう外部から来たものに対して丁寧に応答するというのは大事だと思っていて。人をあしらう姿を彼らに見せたくない、という気持ちはありますね。

池田 すごい、なかなか全部そういうわけにはいかないですよ。

新澤 外部から来たものに丁寧に答えるというのは、この場所を閉じた場所にしてはいけないと思っているところもありますね。
やっぱり僕らの人生は偶然で回っていて、たまたま知り合いになったから何かが起きると思うんです。入学式で隣に座ったから友達になったりみたいな。本来そうやって人生は回っていくはずなのに、彼らを取り巻く人間関係はほぼ必然で回っていくしかないんです。例えば、施設に行っても周りには医療関係者とか福祉支援の人とか、彼らに「良いこと」をする人たちだけが集まってくる。
そうした限られた関係の中に閉じ込められて、偶然性を奪われることが嫌なんです。だからハーモニーではいろんな人を受け入れて、突然何かやっても平気なようにしてます。

●やっと行き着いた場で学び直す

池田 いや〜本当に素晴らしいです。場のつくり方っていろんな人が考えていることだと思うんですが、ハーモニーさんから学ぶことってすごくあると思うんです。

新澤 先程池田さんが「その人がそのままで居られることって大事」と言ってくれましたが、今それが脅かされていると思うんです。一般社会からこぼれ落ちてしまった人に対して、「治す」「改善する」ことをしないと社会で生きていけないという構造に危機を感じます。

池田 ハーモニーには、治すということではなく「学び直す」みたいなことがあると思うんです。

新澤 学び直す、そうですね。特に統合失調症の人は20代前後で発症することが多く、そこから長い期間の入院によって社会から遠ざけられ、40代になって帰ってくる、といったことがよくあります。
ただ、そこから何か始めようとしても感覚は10代のままなんですよね。なので、まずは友人とのトラブルをどう解決するかとか、10代みたいな悩みから一つひとつ向き合う必要がある。そういう意味でも、学び直すというのはその通りだと思います。
ただ学び直すにあたっては、彼らが10代だった高度経済成長期の価値観に戻るんじゃなくて、詩を書いたりギター弾いたり、病気とのつき合いのなかで、やりたかったけれどできなかった好きなことからはじめていけばいい。それで本を売ったりライブをしたり、それぞれができることから丁寧に進んでいけるといいんじゃないかと思っています。

池田 幻聴妄想かるたのアイデアも、メンバーの物語やつくったものを商品にすることで、他の福祉施設で行うような作業が難しい人に工賃を支払えるようにする仕組みになっていますもんね。

新澤 そうなんです。一般社会とされる環境においては、決まった時間で正確に多くの仕事をした人が評価される、という価値観がありますよね。でも、そこからこぼれてしまった人が集まる福祉施設で、同じ価値観を掲げても彼らが自信をもって日々過ごしていくことにはつながらないんです。なので、ハーモニーではその価値観を捨てようと思いました。
もちろん社会での自立に向けた支援施設はとても重要なので、ハーモニーが正しいということではなく、そうした施設をいくつか巡ったけどうまく馴染めなかった人が、最終的に辿り着けるような場にできるといいなと思っています。

池田 ハーモニーさん自分たちのことを「片隅」といった言い方をされていたことが印象に残っていて。やっと行き着いた場所だからこその心地よさがある気がしますね。

●話せることを話すだけで大丈夫

池田 なんだかんだでは、お客さんたちとかるた大会をしながら、読まれたかるたのエピソードをメンバーの方に話していただきました。
これがとっても貴重な機会だったんですが、ハーモニーで普段やられているように、お客さんたちも一緒にメンバーの話を聞いて絵を描くということもできそうですか?

新澤 幻聴妄想かるたは、メンバーのハーモニーという場に対する信頼から生まれたものなので、自分の物語を知らない人に委ねて絵を描かれることに抵抗がある人もいると思うんです。ただ、場によっていろいろなやり方の可能性はありそうですね。知らない者同士だから語れることもあるかもしれませんし。

池田 場によって引き出されるものって違いますもんね。

新澤 「なんだかんだ」の場合は、オープンさ加減が並大抵のものじゃないですか(笑)
いろんな人がいていろんなことが起きているので、じっくり話を聞くことはやりにくい環境だと思うけど、その開放感がおもしろくなりそうな場ですよね。幻聴や妄想といったことに絞らずに、それぞれが話せることをシェアして、みんなで絵を描いて、それで遊んでみるだけでもいい体験になる気がします。

池田 多くの人があまり自分と向き合う時間を持てていないと思うので、すごくいい時間になると思います。「話せることを話す」ってとても大事ですよね。それがわかるだけで大丈夫でいられる気がします。

新澤 そうなんです、人それぞれが自他境界を持って、ここまでは明け渡して大丈夫ということを話せばよくて、必ずしも本当のことを言わなくたっていいんです。言ってしまえば、幻聴や妄想も本当かどうか第三者にはわからないわけですし。そういった許容範囲のあり方含めて、どう場をつくるか次第かなと思いますね。

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巡り堂とハーモニーのお二方のお話を通して、「大丈夫だと思える場所をつくる」ことのヒントをたくさんいただきました。
それぞれに共通していたのは、「その人がそのままで居られる」という状態を大事にしていることです。多くの人が意識的にも無意識的にも社会に順応して生きている中で、「そのままで居ること」を肯定し、それを可能にするような場をつくる。それはもちろん簡単なことではありませんが、「画材循環プロジェクト」や「幻聴妄想かるた」といった鮮やかなアイデアで取り組んでいることがなにより希望を与えてくれました。

さまざまな人が暮らしをともにする街において「その人がそのままで居られる」ことを目指すのは、より良い街をつくる上で向き合うべき命題と言っても過言ではありません。
神田の街にもこうしたアイデアが芽吹いていけるよう、なんだかんだを通して考えていきたいと思います。

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI), Mariko Hamano,
Joki Hirooka

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