歴史が根付く場で生まれる、ドラマチックないい時間|こんなだった、なんだかんだ7【後編】
2024年7月19日から21日の三日間、「なんだかんだ7 〜ロードショー〜」を開催しました。
2023年から神田錦町を中心にスタートし、路上に畳を敷いて、いい時間といい出会いの場をつくってきた「なんだかんだ」。第7回目は、神保町での文化拠点の一つである岩波神保町ビルと、2025年1月で休館となる学士会館を会場に実施しました。
数々の物語を生み、多くの人の思い出が詰まった場所を舞台に行われる今回のスローガンは「なんだかんだと、街がドラマになる」。この地に根付く歴史と文化に触れながら、そこから生み出されるドラマチックな出会いや体験を楽しむ時間をお届けしました。
例によって、何が起きるかは当日集まる人たち次第。会場のあちこちで起きていくドラマを追いかけました。
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●笑う時間も、笑いを考える時間も心地いい
楽亭じゅげむ「落語から学ぶ、気持ちの良い笑いとは?落語表現ワークショップ!」
3日目は落語教育家の楽亭じゅげむさんによる落語表現ワークショップからスタート。
元々は小学校の教員だったというじゅげむさん。教員として働く中で、子供たちが誰かをいじったり貶すことで笑い合う場面を多く目にし、学校では笑いを学ぶ機会がないことに気づいたのだそう。そこから心温まる笑いを教える活動に取り組んでいます。
まずは落語のさまざまな表現を披露してもらい、お客さんも一人一人芸名をつけて高座に上がって挑戦。
そばの食べ方やオチの付け方などレクチャーしてもらったことを活かして、おなじみの演目を自由にアレンジしていきます。
緊張しながらも落語を披露して、ええやん!と笑ってもらえるとやっぱり気持ちいい。笑ってもらえることはもちろん、どうしたら笑ってもらえるかと考える時間も心が満たされることに気づいていきます。
最後はじゅげむさんの落語を一本丸ごと披露してもらい、臨場感のある表現力に感動と笑いで包まれました。
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●孤高の書体、精興社書体の魅力がほとばしる
葛西薫、正木香子「精興社活字の魅力について大いに語る」
続いて、精興社書体の魅力について大いに語る会へ。精興社書体とは、神田創業の印刷会社「精興社」が生み出したオリジナル書体で、岩波書店をはじめとする出版社の書籍に使われ、多くの作家や読者に愛されています。
そんな神田に縁の深い書体について、アートディレクターとして精興社書体と深く関わりのある葛西薫さんと、精興社書体についての著書のある正木香子さんをお招きし、お二人が感じる書体との魅力や書体の歴史、デザインについての謎など貴重な資料をもとに対談いただきました。
「精興社書体は優れたアナウンサーと似ていて、聞きやすいけど堅苦しくないというか、個性と無個性の間をちょうどよく表現されている」
「本にはスラスラ読める気持ち良さもあるけれど、精興社書体にはとどまったり噛み締めながら読ませる感覚がある」
「文字にも音楽みたいに良い抑揚があるように、こぶしを効かせすぎなくてちょうどいい爽やかさが残っているのが精興社書体」
数ある書体の中でも精興社書体が好きであり、文字に長く向き合っているお二人だからこその言葉に触れていくうちに、書体の魅力がほとばしります。
同じ言葉でも、受け取る印象を大きく変える書体。生活のあらゆる場面に応じて多くの書体が存在する中で、名著とともに親しまれてきた精興社書体には、そうした文章に見合うような書体そのものの魅力が詰まっているのだと気付かされました。
会場の外には実際に精興社書体で印刷された書籍がずらり。トークを聞いた後の来場者の皆さん、食い入るように実物を眺めてはうっとりとしていました。
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●壁にひそむ文字たちと出会う
大日本タイポ組合「壁にシミあり なぞれば字あり」
DJやダンスが終わった後の地下空間では、大日本タイポ組合さんによる壁に潜む文字を探索するワークショップを実施。一見何もない壁でも、塗装跡やヒビをじっくり眺めていると、不思議と文字が浮かび上がってきます。
机の木目が顔に見えた幼少期を思い出して懐かしさを覚えつつ、視点が研ぎ澄まされていくのを感じていきます。
見つけた文字はトレーシングペーパーでなぞって採集完了!複雑な文字を発見したときの喜びはひとしおです。隠れていた文字が自分にだけ姿を見せてくれたような感覚もあり、見つけた文字は一層愛おしく思えました。
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●学士会館で、お点前頂戴する
小堀宗翔(遠州茶道宗家13世家元次女)「学士会館茶屋」
学士会館では遠州茶道宗家13世家元次女・小堀宗翔先生によるお茶会が開催。学士会館の一室が茶室になり、参加者の皆さんをもてなします。
元々からあったと思うくらい馴染む茶室でのひとときはとても本格的で、目の前で点ててもらうと神聖な空気が流れます。お茶席は初めてという方も多く、緊張感がありつつも点てたばかりのお茶をいただくとほっと一息。
お茶のやりとり一つで、特別で贅沢な時間を味わえる茶道の力を感じました。
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●57577だけでこんなにも豊かなんだと知りました
鈴木ジェロニモ、トンツカタン お抹茶、さすらいラビー 宇野、谷口つばさ、破壊ありがとう 森もり、バローズ 徳永「なんだかんだジェロニモ短歌賞」
芸人歌人の鈴木ジェロニモさんが開催している短歌ライブ「ジェロニモ短歌賞」をなんだかんだで特別に開催!5名の芸人の方々がこの日のために短歌を考え、それをジェロニモさんが選考するというもの。
はじめに短歌について、「短歌の定型である57577は、漫才でいうセンターマイクと同じ。その中心からどれほど距離を取れるか適切に見極めていく技術が必要」と説明するジェロニモさん。限られたルールの中で、言葉だけでいかに豊かな表現を生み出せるかが短歌の魅力です。
今回の短歌のテーマは「海」。それぞれの着眼点や表現が光る5つの短歌を順位とともに講評しながら、ジェロニモさんだったらこう書くという代案も用意され、なるほど&おもしろい!
短歌の楽しさに触れながら、大いに笑いに包まれてなんだかんだ7の幕は閉じました。
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これまで畳を敷くことで、何気なく通り過ぎている路上にいい時間やいい出会いの場を生む実験をしてきたなんだかんだ。今回は、多くの物語が宿る建物の力に後押しされるように、自由で豊かな時間が次々と生まれていったような気がします。そしてこの街が紡いできたものの偉大さを改めて感じつつ、これからに向けてどう発展させていけるとよいかも考えさせられました。
圧倒的な風格がありながら、懐が深い岩波神保町ビルと学士会館。そんな場所だからこそ生まれた時間や出会いを大切にしながら、なんだかんだの取り組みはこれからも続いていきます。
Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI),
Yuka Ikenoya(YUKAI),
Satomi Ebine, Akiko Sugiyama,
Miyu Takaki, Mariko Hamano