4つのまちがひとつになる日。太田姫稲荷神社例大祭 前編
御茶ノ水駅、神保町駅、小川町駅の中間地に、オフィスビルや大学に囲まれて静かに佇む神社があります。その名は、「太田姫稲荷神社」。
かつては御茶ノ水駅すぐそばにある聖橋の袂に構えていましたが、1931年に御茶ノ水駅の総武線拡張により現在の場所に移転しました。その後2013年には改修工事が行われ、美しく風格を漂わせながら街を見守り続けています。
そんな太田姫稲荷神社にて、2024年5月11、12日に例大祭が開催されました。
太田姫稲荷神社の例大祭は二年に一度開催され、4つの町会が集まって一基のお神輿をリレー形式で繋ぐのが特徴。同じく神田で開催される神田祭では一つの町会につき一基のお神輿を担いで順番に宮入りをしますが、複数の町会が代わる代わるお神輿を繋ぐというのは太田姫稲荷神社例大祭ならではです。
太田姫稲荷神社の氏子(氏神が守護する地域に住む人々)は、駿河台東部町会、駿河台西町会、小川町二丁目南部町会、錦町一丁目町会の4町会。町会が異なるため普段の関わりはそう多くはないものの、氏子という長く深い、独特な繋がりは二年一度でも強固な結束を見せます。
エリア内には、オフィスビル、学校、楽器店、大聖堂などがあり、町会ごとに見せる街の表情はさまざま。そこにお神輿と半纏に身を包んだ人々が集まると少し不思議な光景ですが、熱気がじわじわと街中に広がっていく様子は、太田姫稲荷神社例大祭の醍醐味と言えるかもしれません。
まちからまちへと繋がっていく、例大祭ならではの風景をたっぷりご紹介します。
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●インタビュー
伝統を繋ぐために、変えないことと変えていくこと
当日の様子を紹介する前に、街の方々はどんな思いで例大祭に挑んでいたのでしょうか?
30年以上太田姫稲荷神社の例大祭に参加してきた、錦町一丁目町会の藤井城町会長に例大祭終了後にお話を伺いました。
——天候にも恵まれ、無事に当日を終えられていまどんなお気持ちでしょうか。
藤井 今回は2018年以来の開催ということで間が空いてしまいましたが、その分準備を入念に行ったので、怪我がなく終えられたことと無事に伝統を繋ぐことができたことに安堵しています。
——藤井町会長は長く例大祭に参加されていらっしゃいますが、伝統を受け継ぐ中で変化を感じる部分はありますか?
藤井 これまで30年以上参加していますが、祭りとしての軸の部分は変わっていません。ただ、今年は6年ぶりだからか町会の役員から現場の担ぎ手まで、世代の移り変わりを強く感じましたね。
一方で、今年は意識して変えた点があります。太田姫稲荷神社の例大祭は4つの町会で行うので、祭りを仕切る町会は当番制にしていたのですが今年からそれを廃止したんです。というのも、当番制にすると各町会に担当が回ってくるまでに8年もの間が空くので、タイミングによっては町会の人数が豊富でなかったり、継承できる人が少ないことがあるんです。かといって人数が多い町会が常に仕切ってしまうとパワーバランスが悪くなる。そこで各町会からメンバーを募って、準備段階から中心となって仕切る「氏子青年部」という組織を立ち上げました。
——各町会から必ず誰かが関わることで属人的にならず、毎年各町会に受け継ぐことができますね。
藤井 今年は前回の開催から間が空きましたが、結果的に体制を整える期間になったと思います。また、今年は「氏子青年部」を結成した意義が問われる年でもありましたが、それまで一部の人しか把握できていなかったことも、今回氏子青年部の若いメンバーが早い段階から動いてくれたおかげで広く継承されて、次の2年後にもうまく繋がるような手応えがありましたね。
——一日巡行を同行して、各町会がお互いを見守っているような空気でとてもいい雰囲気に感じられました。
藤井 そう言っていただけると嬉しいです。昔は自分たちの地域だけ担いだらそこで終わり、という空気が少なからずあったのですが、氏子青年部を立ち上げたように各町会みんなで例大祭を一緒に作り上げる、ということを意識していたんです。それぞれの町会長に何人くらい青年部に入ってほしいと掛け合ったり、会議や懇親会を定期的に開いたりと、少しずつ関係性をつくってきたので当日それがいい雰囲気として現れたのだと思います。
——太田姫稲荷神社の例大祭は、地域にとってどのような存在でしょうか?
藤井 4つの町会は太田姫稲荷神社によって繋げられている関係なんです。これがなければ付き合いはなかったんじゃないかと思いますが、だからこそ町会という垣根を越えて、同じ氏子としてのプライドを持っていきたいですね。規模としては神田明神で行われる神田祭のほうが大きいですが、異なる町会が結束するというのは太田姫稲荷神社ならではなので、このご縁は大事にしながら町の皆さんとしっかり受け継いでいきたいです。
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巡行前日の5月11日には式典が行われました。この日は千代田区長はじめ神田警察や消防署の署長、町内の企業、4町会の総代が社殿内に集まり、お祓いを受けます。
6年ぶりの開催は晴天すぎる晴天に。社殿の外に溢れるほどの人が集まりながらも、式典は神聖な空気に包まれていました。
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翌日はいよいよ6年ぶりの例大祭。
4つの町会を大移動する神輿巡行を、写真多めでたっぷりご紹介します。
Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI),
Akiko Sugiyama