#3「写真+リズム」|写真家・白鳥建二さんと、リズミカルな神田の街歩き。【前編】
カレーの街として名高い、神田。学生が本を片手に、スプーン1本で簡単に食べられるということから、カレーの需要が高まったという。読書のおともにカレー、新幹線旅行のおともに駅弁、ドライブのおともに音楽。おともがあると、楽しみもぐっと増す気がします。この企画では「〇〇のおともに」をテーマに、あるものとあるものをたし算することで広がる神田のたのしみ方を、その道のプロフェッショナルをお迎えして紹介します。
第三回のゲストは、美術鑑賞者・写真家の白鳥建二さん。全盲という立場から、独自の方法で美術鑑賞や写真活動を行っています。
静かにじっと作品を鑑賞するのではなく、作品を囲んで対話しながら鑑賞する時間を楽しんだり。立ち止まってカメラを構えて写真を撮るのではなく、歩きながら心が動いた瞬間を刻むようにシャッターを切ったり。
白鳥さんが編み出す方法には、感情の赴くままにものごとを楽しむヒントがあるように思えてきます。実際に一緒に街を歩いてまわってみると、あらたな街の感じ方がありました。
今回は、街歩きに同行したオープンカンダのクリエイティブディレクター・池田晶紀さんがレポートをお届けします。
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●写真家・白鳥建二さんと街を歩くまで
こんにちは、写真家の池田晶紀といいます。オープンカンダではクリエイティブディレクションを担当しております。いきなりですが、今回の「おともにどうぞ」は、全盲の美術鑑賞者であり写真家の白鳥建二さんをゲストに、ちょっとスペシャルな企画に挑戦してみたので、そのレポートと合わせていつもと違った見方で神田の街歩きをご紹介したいと考えました。

ぼくが白鳥さんとはじめてお会いしたのは、2024年に企画したイベント「なんだかんだ5」にゲストとしてお声かけしたことがきっかけです。そのイベントでは、白鳥さんとともに美術鑑賞をするワークショップとドキュメンタリー映画の鑑賞会を行っていただきました(イベントレポートはこちら)。





その際に、美術鑑賞の方法や写真の撮り方についてたくさんお話を伺ったのですが、イベントの最中から「今度は一緒に歩いてみたい!」という思いが湧き上がってきました。そんなことを白鳥さんに相談してみると、あっという間に話が広がり神田ポートで展覧会までやってもらうことに。 それから約半年後、ついにその日がやってきたのです。
街歩きは、ぼくがおすすめする道を2日間にわたって合計約10時間も歩きました。右手には白杖を持ち、左手にコンパクトデジカメを腰のあたりでキープし、動きながらシャッターを押すというスタイルの白鳥さん。ノーファインダーでウエストレベルの視点で撮るといったストリートフォトタイプでした。

撮影当日、神田ポートビルを出発地点として撮影をはじめていきました。
初日のコースは、まず神田ポートビルから徒歩10分ほどの距離にある皇居へ向かい、
→広大な敷地で歩きやすい庭園広場へと向かい
→
戻ってきて学士会館へ立ち寄り
→神田駅方面へと歩いて
→中華料理屋の「味坊」で羊の串焼きをたらふく食べ、高級ナチュラルワインを流し込み
→軽くフラフラになりながらも、軽快な足取りで東京駅を目指しました。
二日目は、神保町駅からスタートし、
→古本街を抜けて淡路町にあるワテラスへ行き、クラフトビールで喉を潤して秋葉原方面へ
→電気街を抜けてアーツ千代田3331のあった元錬成中学高校のくすの木を眺めて上野方面へ
→湯島の飲み屋街を物色しつつも通過してアメ横に向かい
→やっぱり湯島に戻って「岩手屋」という居酒屋で乾杯
→またしても心地良い足取りで上野駅まで行って解散
といったコースとなりました。
●白鳥さんの写真を見て思い出したこと
そして、この時に撮影した写真をぼくがセレクトして展覧会を開催しました。展覧会タイトルは「リズム」。ぼくが白鳥さんと一緒に歩いて感じたことから、このタイトルを考えました。
展覧会では、この時のドキュメンタリー作品として、写真家の池ノ谷侑花が写真を撮り、映像ディレクターの菊池謙太郎がムービーを撮影し、編集したものも展示しました。




展覧会をつくるにあたって、キュレーション担当として記したステイトメントがこちらです。
先入観なしでこの写真たちをみて、どう思うか?を試してみたい。そもそも写真って、どう感じたらいいか?とか、食や絵や音楽と違って、わからない。という人が多い気がしています。これを仕方がない。で、済ませるわけにはいかないのが、写真家の気持ちとしてはあるんです。では写真とは?という定義の話になってしまうのですが、わたしの考える写真とは、「みんなのモノ」であり、それは「時間」のことを意味します。そこで、これらの写真を撮ってきた白鳥さんの写真をご覧ください。何が写っているでしょうか?街、人、道路、光、車などなど…。神田の街を約5時間くらい歩くことを2回行いました。この何が写っているのか?について、考えたりしてみる時間がまず、展覧会のテーマになってくるのかもしれません。また、白鳥さんは写真を腹で撮ります。ウエストレベルのノーファインダーで、歩きながら。決して立ち止まらないんです。ここにもヒントがありました。さらに、腕を掴んで一緒に歩くとどうでしょう?呼吸が伝わってくる「リズム」の中で、ただ歩いている。それだけのことなのに、物凄いことをしていることに、はじめて気がつきました。ふと、何か聞いたことがある音楽を思い出しました。フィッシュマンズの「WALKING IN THE RHYTHM」という曲です。もしお時間ございましたら、携帯でこの曲を探してみてください。そして、このスライドショー作品とセットで鑑賞してもらえると、なんか気分が伝わるように思えます。白鳥さんは凄いです!この体験は、「モノをみる」ということが、眼球ではなく、脳でみていることがよくわかりました。
キュレーション:写真家・池田晶紀
と、いった出来事から、白鳥さんの写真作品たちが生まれたわけでございます。
まずはそんな作品の一部をご覧ください!(ぜひ「WALKING IN THE RHYTHM」も一緒に聴いていただきながら)




















すんごいでしょ! どうやってシャッターを切っているんだろう?と気になっていたのですが、白鳥さんによると「ある一定のリズムでただ撮る」ということだけをしているそうです。自分が写真を撮るときは「ハッ!と感じて撮る」や「よくみて撮る」ことをするけれど、そうじゃない世界の見方はこうなるのか!と、だいぶ考えさせられる出来事となりました。
そしてもう一つ気づいたことがあって、白鳥さんの写真は、ずっと見ているとちょっと酔ってきてしまって(実際にも酔っ払ってはいたんですが…笑)、不穏なようにも見えるかもしれないけど、実は気分がいい時の時間が写っているんです。以前のイベントで写真の撮り方について伺った時に「気分が乗らないときは撮りません(笑)」とお話していたのですが、そのことを実際に見て知れたことが一番うれしいことでした。
特に何かを考えることもなく姿勢をピンと張りながら、電信柱や人にぶつからないように歩く。当日ぼくは白鳥さんの隣でそれだけのことしかしていなかったんですが、そんな時間がなんだか贅沢に感じて、なんてことない時間でも「白鳥さんが一緒にいる」ということがものすごく大事だったのかもしれない、と思えてきました。
つまり、誰かと一緒に街を歩き、気分いい時だけシャッターを切ることで、目には見えてなかったその人との時間が残る。このことがあまりにも素敵なので、みんなも真似してみるとおもしろいよ!と思いました。
見落としていたものが、実は大事なものだったことに気づくという楽しみがあるからね。
Text: Masanori Ikeda(YUKAI)
Photo: Yuka Ikenoya(YUKAI)
Edit: Akane Hayashi