たくましさを与えてくれる、いい出会いの場を目指して。|こんなだった、なんだかんだ9 #2

「問題の解決が目的ではなく、まずは大丈夫だと思える場をみんなでつくる」
そう掲げているなんだかんだには、出演者みなさんの力が欠かせません。むしろ、なんだかんだが目指そうとしている場をすでに実践されているみなさんをもっと知ってもらいたい、という気持ちも込めて集まっていただいています。

改めて、「大丈夫だと思える場所をつくる」ということはどういうことでしょうか。
そうした場に日々向き合い、なんだかんだがお手本にもしているお二組にお話しを伺いました。

〜〜〜〜〜〜〜

最初にご紹介するのは、京都・亀岡市を拠点に展開する画材循環プロジェクト「巡り堂」。
家の押し入れや会社の倉庫で眠っている鉛筆やクレヨン、絵の具など、いずれ廃棄されてしまう画材を次の人の元へと繋いで、巡らせていくプロジェクトです。なんだかんだでは、回収した画材のクリーニング作業の体験や画材を使って自由に創作を楽しめる場を展開してくださいました。
色とりどりの画材が大量に並び、見ているだけでわくわくする巡り堂のエリアはいつも大盛況。なんだかんだに楽しい彩りを添えてくれています。

そんな巡り堂を立ち上げたのは、みずのき美術館キュレーターの奥山理子さん。発足のきっかけからさまざまな展開、現在の悩みなどをお話しいただきました。聞き手はなんだかんだのクリエイティブディレクター・池田さんです。

巡り堂のスタッフみなさん。真ん中にいらっしゃるのが奥山理子さん

●巡り堂のはじまり

池田 いつも京都・亀岡から神田まで来ていただいていますが、今日はぼくらが巡り堂の拠点・みずのき美術館にお邪魔しています。壁に展示されているのは美術館の収蔵作品ですね。

奥山 遠いところありがとうございます。
作品はそうですね。みずのき美術館は、障害者支援施設「みずのき」で実施していた絵画教室が発端にあって、そこから生まれた作品の所蔵と展示をおこなっているんです。

池田 神田ポートでも作品の展示をやらせてもらっているんですが、素晴らしい作品がものすごい量あって選ぶのが本当に大変。

奥山 作品の数は約2万点ありますからね(笑) みずのきの絵画教室が始まった1964年当初からのものを収蔵しているのでそれはもう膨大です。

池田 絵画教室はどういった経緯ではじまったんですか?

奥山 当時の入所者を対象にした余暇活動として始まり、そこから才能を見出され、選抜された人向けに専門的な活動へと展開していったんです。アール・ブリュットの草分け的な存在として展開を広げていきましたが、指導をしていた先生が亡くなられたことを機に活動は途絶え、作品だけが残る状態がしばらく続いていたんです。
そこから10年ほど経った頃、もう一度作品やみずのきの歴史をしっかりアーカイブしていくとともに、これからに向けて作品を外に開いていく場所をつくろうと、ここ『みずのき美術館』を2012年に立ち上げました。

障害者支援施設「みずのき」のアトリエ

池田 一度は活動が途絶えながらも、これだけの作品がしっかり残っているのはすごいことです。

奥山 ただ、作品を展示するだけではみずのき美術館とさまざまな人が交流することには十分に繋がらないと思っていて。なので、開館当初からアートプロジェクトやワークショップを企画してきました。それでもアートが好きな人は集まってくれるものの、そこからもう一歩広げることがなかなかできないジレンマがあったんです。作品をつくる人とそうでない人を分けてしまっているような感覚というか…。

池田 アートによって外に開いていけるかもしれないけど、“アート”というカテゴリーに閉じてしまうこともありますからね。

奥山 そうなんです。それに加えて地域で暮らす軽度の障害者やひきこもり当事者の就労の課題にも関心がありました。というのも、自立に向けて思い切って就労研修を受けたものの、途中で心が折れてしまった人の話をよく聞いていて。そもそも社会資源がとても少ないので、そんな人たちも受け入れられる場がほしいなと思っていたんです。挑戦してみてしんどくなったら戻れる場所というか。

池田 そこから思い付いたのが「巡り堂」なんですよね。はじめて話を聞いた時、よくこんな素晴らしいアイデアが思いつくなあと、すごく感動したんです。

奥山 本当に偶然の出来事でした。前々からテレビなどで家財回収や遺品整理が紹介されているのを見るたびに、これはいつか絶対に仕事になりそうだと思っていたんです。「誰かの家を片付けに行く」ということは必ず需要がありますし、心の不調を抱えていたり日々の生活に苦労している人たちも仕事として関われる余地があるんじゃないかと感じて。
そんなことを漠然と考えていたところに、家財回収の業者さんが訪ねてきてくれたんです。よかったら画材をもらえませんか?と。

池田 へ〜! そんなことあるの、すごい。

奥山 最初は廃棄される家財や日用品を使ってアップサイクルしてもらえないかという相談でしたが、そこに含まれていた画材を実際に見せてもらうとそのまま使えそうな状態のものが多くて。これをもう一度使えるようにきれいにすることがひとつの仕事になるんじゃないかと思い付いたら、ずっと考えていたことが全部一気に繋がったんです。

池田 ものすごい出会いだな〜。

奥山 そこからすぐに画材を送ってもらい、まずはスタッフで数ヶ月ひたすら拭く作業をしていきましたが、「先が見えない…」「しんどいです」という想像と真逆の感想だったんです。クリエイティブな作業のはずなのになんでだろう…と思いながら、拭きやすいものからやってみたり、日の当たるところで作業するようにしたり少しずつやり方を変えて、うまく回るようになっていきました。

池田 シンプルな作業だからこそ、やり方や環境で大きく変わりますからね。今日巡り堂の作業場も見せていただいて、収納がすごくきれいでいいなと思っていたんですが、そういう些細なこともうまく場をつくっているなと思います。

奥山 しばらく無料でもらった紙箱を使っていたんですが、使いやすさに慣れるとだんだん所帯じみた作業になっていく気がしていて。やっぱりここは美術館なので、外から見ても気持ちいい見栄えのものにしたいと思ったんです。かなりの時間かけて探してやっと見つけた収納方法なのでそう言ってもらえて嬉しいです(笑)

池田 巡り堂は運がいいというか、なんか神様が宿ってる感じがしますね。

奥山 そういえば、巡り堂をお披露目する日も二重に虹がきれいにかかっていたんですよ。家財回収業者さんが突然訪ねてきてくださったのもそうですし、そういうミラクルが多いかもしれません。

●最初の一歩となるような場として

池田 お話を聞いていて、改めてすごく考えてこの場がつくられているんだなと思います。活動を始めて3年が経ち、メンバーの入れ替わりもあるようですが、最近の悩みはありますか?

奥山 そうですね…。巡り堂はイベントなど展開できる可能性がたくさんあって、スタッフの中ではさまざまなアイデアが膨らんでいます。ただ、普段画材の仕分けや清掃作業をしてくれているメンバーからは、淡々と静かに画材を拭いていたいという声もあるんです。

池田 ここは居心地がいいですもんね。

奥山 私たちとしてはいろんな可能性を広げたいけど、「このままでいたい」という声もちゃんとサポートしたいんですよね。拭く作業が丁寧だったとか、少し会話が増えたとか、はじめて自分一人で行き帰りできたとか、ささやかな変化に喜び合うことも素敵なことですし。そういうメンバーを見守りながら少しずつ外に出ていく機会を考えています。

池田 「見守ること」ってとても必要だなと最近思うんです。人が社会に出ていくための支援をする中で、実は「誰かが見守っている」ということがまずは大事で、誰かと交流することはもっと後に考えてもいいぐらい。

奥山 本当にそう! そうなんですよ。

池田 巡り堂さんは見守りつつも、なんだかんだのときにははるばる神田まで来てくれましたよね。

奥山 メンバー7人連れて行きましたね。はじめて新幹線に乗る子もいましたがとても喜んでいました。お土産買ったりしっかり東京を満喫して。自分がきれいにしたものを直接渡せて嬉しいとも言ってくれましたね。

池田 本当にすごいことですよね。家の外に出るのも大変だったのに、新幹線に乗って東京まできてくれるなんて。変化って、大きくなればなるほど怖いものじゃないですか。

奥山 そうなんですよね。ただ一方で、なんだかんだに参加したメンバーの中には、その後で環境が変わってまた家から出にくくなって巡り堂にすら来れなくなってしまった子もいるんです。巡り堂にだけでもおいでよと家庭訪問した方がいいかもしれないけど、あくまで美術館という立場なのでそこまですることは踏み込み過ぎているとも思っていて。
でも、私たちスタッフとしては外に出ることを諦めたくはないんです。見守りながらも、また一歩外に出れた時に安心して通える場所としてありたいですね。

池田 とにかく活動を続けるということが大事ですよね。すべてに全力を注いでもどこかで体を壊してしまうし、無理のない範囲でやっていくしかないと思うな。

●拭くことの大きな意味

奥山 悩みは尽きませんが、こうやって関心を向けていただける方がいることって嬉しいんです。とても励みになるので。

池田 なんだかんだに参加してもらってるのも、結局は巡り堂のことをたくさんの人に知ってもらいたいからなんです。アイデアが素晴らしくて、活動について知ることで、いろんなことを学び、考えることができますよね。

巡り堂にとって外に出ていくことも重要だけど、こちらが巡り堂と出会うこともとても大事なことなんです。

奥山 嬉しいです。そうですね、お互いにとっていい機会になることが大切ですね。

池田 やっぱり社会全体ですごく孤立が進んでる気がしていて、もっといろんな形で見守る仕組みができないかなと考えてるんです。それで巡り堂の話を聞いて思ったのは、 画材をきれいにする行為って案外快感があるんじゃないかと。写経もそうだけど、集中する時間っていうのは結構気持ちがいいと思うんですよ。ある一定のリズムで何かをするという行為は、もうそれだけで十分ケアになるというか。

奥山 確かに、人それぞれのやり方や工夫もできますしね。巡り堂でも特にノルマはなく、メンバーが得意な作業をやってもらうようにしています。

池田 そういう作業が、成果として巡り堂に貢献できているということもとても重要だと思うんです。自分の手元でやっていたことが、社会につながっていく感覚を得るというか。このままでいいんだと思えることって大事なので。

なんだかんだに参加することも一見大きなチャレンジかもしれないけど、環境は違っても普段やり慣れている作業をしていると、意外と大丈夫なんだと気付ける機会になるのかなと思いました。

奥山 たまにぐっと背中を押してみると、思いがけずジャンプできたりしますしね。

池田 本当に毎回ジャンプしてくれてありがとうございます。まだまだ巡り堂さんのことを知ってもらいたいので、引き続きよろしくお願いしますね。

〜〜〜〜〜〜〜

#3に続く

Text/Edit: Akane Hayashi
Photo: Masanori Ikeda(YUKAI), Yuka Ikenoya(YUKAI)

オープンカンダ(以下、「当サイト」といいます。)は、本ウェブサイト上で提供するサービス(以下、「本サービス」といいます。)におけるプライバシー情報の取扱いについて、以下のとおりプライバシーポリシー(以下、「本ポリシー」といいます。)を定めます。

第1条(プライバシー情報)
プライバシー情報のうち「個人情報」とは、個人情報保護法にいう「個人情報」を指すものとし、生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日、住所、電話番号、連絡先その他の記述等により特定の個人を識別できる情報を指します。

第2条(プライバシー情報の収集方法)
当サイトは、お客様がご利用する際に氏名、生年月日、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報をお尋ねすることがあります。
当サイトは、お客様について、利用したサービス、閲覧したページ、利用日時、利用方法、利用環境(携帯端末を通じてご利用の場合の当該端末の通信状態、利用に際しての各種設定情報なども含みます)、IPアドレス、クッキー情報、位置情報、端末の個体識別情報などの履歴情報および特性情報を、お客様が当サイトのサービスを利用しまたはページを閲覧する際に収集します。

第3条(個人情報を収集・利用する目的)
当サイトが個人情報を収集・利用する目的は以下のとおりです。

お客様に、氏名、住所、連絡先などの各種情報提供
お客様にお知らせや連絡をするためにメールアドレスを利用する場合やユーザーに商品を送付したり必要に応じて連絡したりするため、氏名や住所などの連絡先情報を利用する目的
お客様に本人確認を行うために、氏名、生年月日、住所、電話番号などの情報を利用する目的
お客様に代金を請求するために、利用されたサービスの種類や回数、請求金額、氏名、住所などの支払に関する情報などを利用する目的
お客様が代金の支払を遅滞したり第三者に損害を発生させたりするなど、本サービスの利用規約に違反したお客様ーや、不正・不当な目的でサービスを利用しようとするユーザーの利用をお断りするために、利用態様、氏名や住所など個人を特定するための情報を利用する目的
お客様からのお問い合わせに対応するために、お問い合わせ内容や代金の請求に関する情報など当サイトがお客様に対してサービスを提供するにあたって必要となる情報や、お客様のサービス利用状況、連絡先情報などを利用する目的
上記の利用目的に付随する目的

第4条(個人情報の第三者提供)
当サイトは、次に掲げる場合を除いて、あらかじめお客様の同意を得ることなく、第三者に個人情報を提供することはありません。ただし、個人情報保護法その他の法令で認められる場合を除きます。

法令に基づく場合
人の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき
公衆衛生の向上または児童の健全な育成の推進のために特に必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき
国の機関もしくは地方公共団体またはその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合であって、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき
予め次の事項を告知あるいは公表をしている場合

第5条(個人情報の開示)
当サイトは、お客様ご本人から個人情報の開示を求められたときは、ご本人に対し、遅滞なくこれを開示します。ただし、対応にあたっては、不正な開示請求による情報漏洩防止のため、適切な方法にてご本人確認をさせて頂きます。
お客様からの個人情報の開示請求にあたり、お知らせの手数料として別途実費を請求させて頂くことがございます。

第6条(個人情報の訂正および削除)
お客様は、当サイトの保有する自己の個人情報が誤った情報である場合には、当サイトが定める手続きにより、当サイトに対して個人情報の訂正または削除を請求することができます。
当サイトは、ユーザーから前項の請求を受けてその請求に応じる必要があると判断した場合には、遅滞なく、当該個人情報の訂正または削除を行い、これをお客様に通知します。

第7条(個人情報の利用停止等)
当サイトは、お客様本人から、個人情報が、利用目的の範囲を超えて取り扱われているという理由、または不正の手段により取得されたものであるという理由により、その利用の停止または消去(以下、「利用停止等」といいます。)を求められた場合には、遅滞なく必要な調査を行い、その結果に基づき、個人情報の利用停止等を行い、その旨本人に通知します。ただし、個人情報の利用停止等に多額の費用を有する場合その他利用停止等を行うことが困難な場合であって、本人の権利利益を保護するために必要なこれに代わるべき措置をとれる場合は、この代替策を講じます。

第8条(プライバシーポリシーの変更)
本プライバシーポリシーを変更する場合には告知致します。 プライバシーポリシーは定期的にご確認下さいますようお願い申し上げます。
本プライバシーポリシーの変更は告知が掲載された時点で効力を有するものとし、掲載後、本サイトをご利用頂いた場合には、変更へ同意頂いたものとさせて頂きます。

第9条(お問い合わせ窓口)
本サイトにおける個人情報に関するお問い合わせは、下記までお願い致します。
info@kandaport.jp

Open Kanda. All rights reserved.
Title logo: Daijiro Ohara