アートと共に神田をめぐる。
東京ビエンナーレ2020/2021 体験レポート
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東京の街を舞台に開催される国際芸術祭、「東京ビエンナーレ2020/2021」。 世界中から幅広いジャンルのアーティストが集まり、各地域や場所に深く入り込むことで生まれた作品が街中で展示されています。
今回は東京の千代田、中央、文京、台東の4区で60以上の作品が展開されており、神田もその舞台の一つ。それも商店や道路、雑居ビル、学校などが会場になっているのです。
この機会だからこそ入ることのできる場所もあって、新しい扉を開くワクワク感もあります。
そんな東京ビエンナーレ仕様の神田を見逃すまいと、オープンカンダの編集チームで1日たっぷり巡ってみました。 今回はその体験レポートをお届けします。
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● 元中学校のアーツ千代田3331から出発
夏真っ盛りの8月上旬。
暑さ対策を万全にして、まずは末広町駅から歩いて3分程にあるアートセンター「アーツ千代田3331」へ。向かいにある総合インフォメーションセンターでチケットを購入し、いざ出発です。
アーツ千代田3331は旧千代田区立練成中学校を改修して生まれた場所で、外観も中もほとんど学校そのままです。
校舎の懐かしさに高揚しつつあちこち歩き回っていると、廊下や階段に展示された作品に出会えました。
東京のまちをRPGゲームのダンジョンに見立てて、子連れでの外出をポジティブにする方法を提示する作品や、絵画のプレゼントと引き換えに家族の晩ご飯への招待してもらうプロジェクトなど、東京という社会との結びつきをさまざまな視点、切り口で見ることができます。
見た目は学校ですが、作品を通していろいろな世界へと誘ってくれるアーツ千代田3331。
作品の他にもミュージアムショップが充実していたり広場もあって、いくらでもいてしまえる空間でした。
●作品から作品への道中も、街を堪能
アーツ千代田3331を堪能した後は、続いて小川町方面へ。
少し歩きますが、グラフィティを見つけたり定食屋さんでお昼を食べたり、ゆったり寄り道しながら向かいます。
途中、万世橋で鑑賞スポットがありました。
普段と変わらない橋からの景色ですが、AR SQUAREというアプリを起動してカメラを向けてみると…
オフィスビルやカラオケ店の奥に、むくむくと小高い山が現れます。
これは、かつてこの地にあったという神田山。江戸時代に日比谷の入江を埋め立てるために切り崩されてから、すっかりその面影はありませんが、ARを通して昔といまが融合した風景を眺めることができるのです。
このように次の目的地を目指しながらさまざまな街の景色を眺めるのも、東京ビエンナーレの楽しみのひとつと言えるかもしれません。
●ビル群の狭間で古くから残る商店へ
次に到着したのは、色とりどりの看板がかわいい、額縁屋「優美堂」。
閉店してから廃墟化が進んでいたというこのお店ですが、改修してコミュニティスペースとして再生するプロジェクトが立ち上がっています。
会期中も展示やワークショップが進行形で行われていて、コミュニティスペースになるまでの過程をオープンに見ることができます。
プロジェクト名になっている「優美堂再生プロジェクト ニクイホドヤサシイ」は優美堂の電話番号「291-8341」が由来。これまで出会った電話番号の中でも、群を抜いてニクいほどチャーミングな語呂合わせです。
扉を開くと壁には額装された作品がずらり。
どれも優美堂製の額縁にプロジェクトに関わる人やアーティストによる作品が飾られていて、額も作風も多種多様です。
壁一面の作品だけでなく、建物は地下一階にある元防空壕から再生プロジェクトの中で新たにできた屋上のオープンデッキまで入ることができ、見所満載。
優美堂の看板上部は富士山の形になっているので、急な階段を上がって屋上にたどり着いたときにはどこか登頂気分が味わえます。
戦後間もない頃に開業し、閉店を迎えながらもまた再生プロジェクトが立ち上がって、いまもこの場所に残る優美堂。
ビルの狭間に小さな光を放って立つ姿に、この街の歴史を垣間見た気がしました。
●雑居ビルの中に広がる、所在のない都市の片鱗
優美堂の次は、同じ通り沿いに立ち並ぶ雑居ビルへ。
クリニック、リラクゼーション、雀荘と一緒にあるのが東京ビエンナーレの会場です。
白いビルに一層映える黄金のきらびやかなエレベーターに乗り込んで、少しドキドキしながら最上階へ向かいます。
9階に着いて小さな扉抜けると、壁一体をぶち抜きにされたフロアに巨大な街灯がお出向かえ。
その他にもこれは一体どこにあったものなの?というような標識や看板が置かれています。
ここで展示されているのは東京Z学というプロジェクトによって集められたもの。
ボロボロのカラーコーンや昔の商店地図など、ほとんど機能性を欠いた、ある意味絶望(=Z)的な状態だけれど、独自の存在感を持って街に留まり続けているものたちです。
誰の手にも目にもほとんど付かずに取り残されていたものたちですが、こうして集められると、どこかで見たような素朴で馴染みある存在に思えてきます。
そしてきっとまだまだZ学的なものは街に眠っているはず。
名もなきものをこうして定義づけられることで新しい視点が得られた気がして、街に出るのがまた楽しみになりました。
●夏休み期間中の高校を大胆に展示
最後は神田ポートビルのご近所、錦町三丁目にある私立男子高等学校・正則学園へ。
外壁には輝かしい部活の功績がずらりと張り出されていて、自然と背筋が伸びます。
エントランスを抜けるとすぐスタッフの方に7階の体育館へと案内してもらいます。
都会の高校は7階に体育館があるんだ…と思いつつ中へ入ると、ポートレートがぎっしり。
ここは神田ポートビルのクリエイティブディレクターでもある写真家・池田晶紀さんによる「いなせな東京 Project」。 “神田っ子”をモデルにポートレイトを撮影する企画で、2012年から継続してきたということもあり、その数は圧巻です。
この街に点在しているさまざまな顔がこの体育館に一挙に開かれていて、それぞれの暮らしに思いを馳せつつ、頭上、壁、床から神田っ子の気風に包み込まれます。
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正則学園の後も神田ポートビルで同時開催されていた池田さんの展示を鑑賞したり、ほぼ日さんの本社に併設されたショップTOBICHIに立ち寄って桃を買ったりと、1日の余韻を楽しみました。
今回訪れたのはごく一部ですが、作品や多様な会場、その道中含めて神田のいろいろな風景に触れることができたこの1日。作品がある街の景色を楽しめるのはもちろん、作品に触れることで新しい視点で街を楽しめるようになるのも、東京ビエンナーレの醍醐味なのかもしれません。
どこも束の間の滞在ながら、実際にいろいろな扉を訪ねて開いたことで、神田にもう一歩深く入り込むことができた気がしたのもうれしい1日でした。
会期は残りわずかですが…ちょっと特別な神田を楽しめるこの機会、ぜひ体験してみてください。
Text/Photo: Akane Hayashi